ニコ、酒場で戯言

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なべ presents

ヒールズクライ ヒーローズクライ

2005-12-27 20:56:06 | 競馬
ディープインパクト三冠の瞬間に競馬の魅力が顕れているとして、果たしてこの有馬記念はどうだっただろうか。

場内の白けた空気にため息交じりの吐息。私は現地で大きく白い息を吐いたあと思い切り吸い込ませてもらった。冷たいはずの空気を吸い込めば吸い込むほどにかじかんだ指先に血が通ってくる。競馬というスポーツの醍醐味が集約された有馬記念だった。

競馬はプレビューのスポーツだ。予想するまでのプロセスが肝心で、レースはその答え合わせでもある。その予想に対する解答が正しければ得点と喜びが得られる。ただ、勉強というもののある別の側面での魅力は、自分が苦心して、自信を持って導き出した答えを、巻末にある解説付きの解答が、見事に裏切り、その意外な面白さに感動することにもある。そして、その奥深さに魅了されるのだ。

クリストフ・ルメールの奇策がハーツクライという穢れのない追い込み馬を先行させる。JCの悔しさと中山コースを踏まえ、発想のパラドクス的な転換を試みたルメールの鮮やかな解答。こんなやつがクラスにいたら、彼こそが“英雄”だったりするのだ。

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今年散々だった私にとって、12月はそれまでの苦労を労うようなレースが多く、みるみるうちに生気を取り戻すことが出来た月だった。フサイチリシャールが朝日杯に勝ち、アドマイヤグルーヴが引退レースを飾る。有馬記念の前日にはシンボリグランがCBC賞を勝ち、アドマイヤベガ産駒のテイエムドラゴンが中山大障害を勝つ。ただ、全部1番人気ではない。なんだよ、こっちみるなよ、悪役かよ。

そんな日はパドックにいてもよく見える。8R勿論一番人気じゃないワイルドワンダーに惚れ、それが圧勝すると有馬記念のパドックを解く段に到っては私はもう英雄気取りである。

ディープインパクトは調教からしてよくなかった。実際パドックもよくない。ゼンノロブロイはプラス体重なのに小さくさえみえる。同じ引退戦でもシンボリクリスエスのようなタフさは併せ持っていないらしい。リンカーンを贔屓目にみて、微笑ましく眺め、これは状態がいいと気をよくすると目の前にハーツクライがいつも通りゆったりと歩いてきた。

1頭抜きん出て美しいハーツクライは私の前で周回の度に目線を送る。午前中に慌てて用事を済ませ、中山への道すがら携帯から馬券をすでに購入していた私は、ハーツクライを買い目に入れてきたことに安堵し、単勝を買わなかったことを後悔した。

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たまにはこんな問題を解こうじゃないか。インパクトのある解答はまた来年たくさん観れるはずだ。でも、競馬なんてそんな浅く、つまらない問題ばかりじゃない。

悪役となったハーツクライに声援を送る奴の頭は今日、特に冴えていた。16万2000人がしんとなった教室で、一人快哉を叫んだが、よく考えると無理矢理負けないことを決定づけられたあの馬も一人ぼっちのような気がしてくる。

悪役に仕立てられた馬は勝って叫び、心で泣く。そして、負けた馬も一人で泣く。

2005年、はじめて心の底から美味しい酒が飲めた日だった。