ヨーロッパとアメリカ

競馬の世界において、近年は短距離では豪州とその影響下にある香港、シンガポール、中長距離では日本が地位を高めてきていますが、北米と欧州を２大先進地域とするのが一応、正しいと思います。実際、レーティング首位の馬はどちらかの地域で調教されています（そもそもレーティングが欧米贔屓だからというのもありますが）。
しかし、最近は超一流馬は欧州調教馬であることが多く、レーティング首位の馬も欧州調教馬が多いです。2005年以降（自分でデータ化しているのが2005年以降なので）の両地域のレーティング首位の馬を書き出します。括弧内は調教された地域と生産された地域です。セックスアローワンスは４ポンドにし、セックスアローワンスを加えない場合に首位になる馬も書き出しています。

2005年
130：Hurricane Run (欧、欧) - Sadler's Wells系Montjeu産駒、母父Surumu
128：Ghostzapper (米、米) - Deputy Minister系Awesome Again産駒、母父Relaunch

2006年
129：Invasor (米、南米) - アルゼンチン産、Blushing Groom系Candy Stripes産駒、母父Interprete
127：George Washington (欧、欧) - Danehill産駒、母父Alysheba
127：Rail Link (欧、欧) - Danehill系Dansili産駒、母父Theatrical
123+4：Pride (欧、欧) - Nureyev系パントレセレブル産駒、母父Alleged

2007年
131：Manduro (欧、欧) - Monsun産駒、母父Be My Guest
129：Curlin (米、米) - Mr.Prospector系Smart Strike産駒、母父Deputy Minister

2008年
128+4：Zarkava (欧、欧) - Mr.Prospector系Zamindar産駒、母父Kahyasi
130：Curlin (米、米) - Mr.Prospector系Smart Strike産駒、母父Deputy Minister
130：New Approach (欧、欧) - Sadler's Wells系Galileo産駒、母父Ahonoora

2009年
136：Sea The Stars (欧、欧) - Danzig系Danzig産駒、母Urban Sea
128+4：Zenyatta (米、米) - Mr.Prospector系Street Cry産駒、母父Kris S.

2010年
135：ハービンジャー (欧、欧) - Danehill系Dansili産駒、母父Bering
129：Blame (米、米) - Roberto系Arch産駒、母父Seeking the Gold
125+4：Zenyatta (米、米) - Mr.Prospector系Street Cry産駒、母父Kris S.

2011年
136：Frankel (欧、欧) - Sadler's Wells系Galileo産駒、母父Danehill
124：Drosselmeyer (米、米) - Mr.Prospector系Distorted Humor産駒、母父Moscow Ballet
120+4：Havre de Grace (米、米) - Halo系Saint Liam産駒、母父Carson City

2012年
140：Frankel (欧、欧) - Sadler's Wells系Galileo産駒、母父Danehill
129：Wise Dan (米、米) - Storm Cat系Wiseman's Ferry産駒、母父Wolf Power

この８年で米調教馬でレーティング首位だったのはInvasorだけですね。そしてそのInvasorはアルゼンチン産であり、北米生産のレーティング首位の馬はいませんでした。このリストに名前が出ているのは欧州調教馬10頭、米調教馬８頭。

パターンを抜き出していきます。欧州調教馬では、
Sadler's Wells系はHurricane Run、New Approach、Frankel、
Danehll系はGeorge Washington、Rail Link、ハービンジャー、Danzig系に広げると更にSea the Stars、母父DanehlllはFrankel、
Nureyev系はPride、母父Nureyev系はRail Link、
ドイツ血統持ちはHurricane Run、Manduro、New Approach、Sea The Stars、Frankel、
Mr.Prospector系はZarkava、Mr.Prospector持ちは他にNew Approach、Sea The Stars、Frankel。

米調教馬では、
Deputy Minister系はGhostzapper、Deputy Minister持ちは他にCurlin、Wise Dan、
Mr.Prospector系はCurlin、Zenyatta、Drosselmeyer、Mr.Prospector持ちは他にGhostzapper、Blame、Havre De Grace、Wise Dan、
Storm Bird系はWise Dan、Storm Bird持ちは他にDrosselmeyer、
Blushing Groom系はInvasor、Blushing Groom持ちは他にGhostzapper、Havre De Grace。

乱暴に抜き出しましたが、結構違うものです。米では南米生産のInvasor以外全てMr.Prospectorを持っていますが、欧州ではMr.Prospector系はZarkavaのみ、他のMr.Prospectorを持つ３頭はUrban Sea経由。

米より欧州の方が血統レベルが高いと考えれば、その原因として「欧州でよく見られるが、米ではそうではないもの」を探すべきです。
ドイツ血統を持つのは欧州では10頭中５頭ですが、米では８頭中０頭。
Sadler's Wells、Danehill、Nureyevとも米では０頭。
本当に随分違いますね。これは適性の違いでもあるのですが、この血統差がアメリカから超一流馬がでないことに関連しているかもしれません。FrankelはSadler's Wells系でDanehillとドイツ血統を持つ、現代ヨーロッパのトレンドの固まりでした。

Sadler's Wells系且つドイツ血統持ちで、アメリカで実績のあるMr.Prospectorまで持っている種牡馬と言えばGalileoですね。
Galileo産駒では愛ダービー馬Cape Blancoが昨年からアメリカで供用され、人気になっているのですが（ブログ）、今年からMidas Touchが供用されることになりました（記事１、記事２）。レパーズタウンのダービートライアル（GII）を勝ち、愛ダービーと英セントレジャーで２着に入りました。愛1000ギニー馬Yesterday、ロワイヤルオーク賞のAllegretto、仏2000ギニー馬Aussie Rulesの近親という良血です。
もう一頭、注目すべき馬がアメリカで供用されます。Frankelの半兄のBullet Trainです（記事１、記事２、記事３）。Frankelのペースメーカーとして有名ですが、自身もリングフィールドのダービートライアル（GIII）を勝っています。父Sadler's Wells×母父Danehillの組み合わせで、Frankelと違いMr.Prospectorを持たないですが（ドイツ血統も）、その分、Mr.Prospectorと合わせやすくなるとも言えます。

最近、アメリカで活躍しているドイツ血統持ちと言えばケンタッキーダービー馬Animal Kingdomですね。また、Sadler's Wells系の年度代表馬と言えばRachel Alexandra。Sadler's Wellsもドイツ血統も受け入れる下地はあると思うので、血統差が緩和されてくるかもしれません。
もう一方のDanehillの血を持つ馬はあまり北米にいないようですね。直仔ではダービー馬North Light、母父Danehillではサンデーサイレンス産駒のSilent Name（どちらもAdena Springs Canadaに繋養）くらいしか思いつきません。

そう言えばGalileo産駒の種牡馬が日本に輸入されたという話は聞きませんね。少なくとも2012年供用予定種牡馬名簿には名前がありません（pdf）。Montjeu産駒も名前がないですね。Hurricane Run産駒の未出走馬ロッコウオロシが種牡馬になっており、昨年は51頭も種付けしたそうです（記事）。