うぉんばっとな毎日

大用、現前するとき、軌則を存せず

キタサンブラック

2018-03-25 00:08:26 | 競馬日記
サンデーサイレンスはスプリントから超長距離まで幅広くGI馬を出しました。と言っても、母の傾向にかかわらずどんな距離でもこなすという話ではなく、例えば母父との組み合わせでそれなりの傾向はありました。

ノーザンテーストとの組み合わせでは、
ダイワメジャー:皐月賞(2000m)、天皇賞秋(2000m)、マイルCS2回(1600m)、安田記念(1600m)
デュランダル:マイルCS2回(1600m)、スプリンターズS(1200m)
アドマイヤマックス:高松宮記念(1200m)
エアメサイア:秋華賞(2000m)
と、4頭のGI馬を出しています。そのGI勝利はスプリント〜2000mで、GI級でははっきりと距離の壁がありました。

祖母父ノーザンテーストでは3頭のGI馬います。
ステイゴールド:香港ヴァーズ(2400m)
アドマイヤグルーヴ:エリザベス女王杯2回(2200m)
オレハマッテルゼ:高松宮記念(1200m)
たった3種類1頭ずつのサンプルなんですが、ここでも母父に何が挟まるかで綺麗に傾向が出ているように思います。母父ディクタスでは長距離向き、トニービンでは中長距離向き、ジャッジアンジェルーチではスプリント向きになりました。

さて、キタサンブラックは天皇賞春2回(3200m)、菊花賞(3000m)、有馬記念(2500m)JC(2400m)、天皇賞秋(2000m)、大阪杯(2000m)とGIを7勝した名馬ですが、これらは超長距離GI3つを含む全て2000m以上でした。
キタサンブラックでは、オレハマッテルゼの父サンデーサイレンス、母父ジャッジアンジェルーチ、祖母父ノーザンテーストが祖父にサンデーサイレンス、祖母父にジャッジアンジェルーチ、母父の母父にノーザンテーストと、ちょうど一つ世代が繰り上がったところに配されています。
キタサンブラックは、菊花賞は距離が持たないのではと思われ、翌春の天皇賞春でもまだ距離適性を疑う人もいました。それは別に血統表内でオレハマッテルゼがほぼ再現されているからではなく、母父がスプリンターのサクラバクシンオーだからでした。

で、結局は一流ステイヤーとしての競走成績を残したわけで、その理由を考えなければなりません。
キタサンブラックの最前面クロスはLyphard 4 X 4です。ブラックタイドが出したGI馬はキタサンブラックのみですので、全弟のディープインパクト産駒で見れば、Lyphardクロスを持つGI馬は以下の4頭です。
ジェンティルドンナ:有馬記念(2500m)、ドバイSC(2410m)、JC2回(2400m)、オークス(2400m)、秋華賞(2000m)、桜花賞(1600m)
ディープブリンランテ:ダービー(2400m)
スピルバーグ:天皇賞秋(2000m)
トーセンラー:マイルCS(1600m)
マイルから2500mまでのGIを勝っています。しかし、マイルCSを勝ったトーセンラーはスピルバーグの全兄であるとともに天皇賞春で2着、菊花賞で3着とかなりの距離適性の広さを見せました。中距離以上に十分に対応できるクロスだったと言えるでしょう。
長距離への適性という点ではこのLyphardクロスを生じることができるような他の部分の影響が大きかったということで、これはブラックタイド=ディープインパクト内であれば母のウインドインハーヘアの部分であり、シュガーハート内であればこれに呼応したTizlyの部分だということです。

Lyphardは、母父が2000ギニー、チャンピオンSのCourt Martialで、Pharos = Fairway 4 X 4にLady Josephineを足したスピード馬でした。しかし、Court Martial内も含めて母内にはヨーロピアンなスタミナの血があり、子孫に距離をこなすものを多数出しました。直仔ではThree Troikasダハールなどがヨーロピアンを活かした例でしょうか。ダンシングブレーヴ(と似た配合のAlzao)は母にアメリカンが多めでちょっと別の配合ですが、そのおかげで種牡馬としては適応できる幅が広くなったように思います。
Lyphardの孫でAlzaoの仔のウインドインハーヘアは、2400mのアラルポカルを勝ち、オークスでも2着の長距離馬でした。その配合はCourt Martial 4 X 5主導でしたが、母方のCourt MartialはBusted内であり、Gainsborough、Son-in-Law、Marcovilも生かしています。また、Goofed内のKsar、RabelaisはBusted内のWild Riskにより、ClarissimasはDonatelloによって抑えています。GoofedとBustedの血がうまく呼応している点は距離をこなせた大きな理由でしょう。

ディープインパクト=ブラックタイドの母ウインドインハーヘアではGoofedとBustedの呼応でヨーロピアンなスタミナが活かされており、ディープインパクト=ブラックタイド産駒でLyphardをクロスすると自動的にこの呼応の部分が活かされる点がこのクロスを持つ馬が距離をこなせた原因の一つでしょう(ディープブリンランテはBustedもクロスしており、早期の引退が残念な配合でした)。キタサンブラックではBusted内のヴィミー内Wild Risk(母方はWorden内)がクロスしており、さらにスタミナが強化されています。Wordenの母父Sindは3000m時代のパリ大賞典と13F時代のプリンスオブウェールズSで2着に入ったステイヤー。その父Solarioはセントレジャー、アスコットGCと2つの超長距離のビッグレースを勝った名ステイヤー。Goofedと呼応し、Wild Riskを持つBustedがちょうどSolarioを持つのは好都合で、スタミナ強化に働いているでしょう。Solarioはステイヤーではあるのですが、一方では母父がスプリンターのSundridgeでスピード要素も持っています。そのせいもあり、母父の父サクラユタカオー、祖母父ジャッジアンジェルーチはSolarioを効かせているのですが、それほどスタミナとしては働いていませんでした。このSolarioがスタミナとして働くSolarioと一体になっており、サクラユタカオー、ジャッジアンジェルーチからもスタミナのアシストを受けていると考えて良いかもしれません。母父サクラバクシンオーも同様で、あまりスタミナとして働いていないHyperionがディープインパクト、ウインドインハーヘアのHyperionと合わさることによって、スタミナの強化の方にも働いていると考えて良いかもしれません。さらにサクラユタカオーはHurry Onを持つのですが、Lyphard内Court Martialの母父がHurry Onで、ここを活かせている点もスタミナとしては意味があるでしょう(Three Troikasの祖母父King's Troopは父と曽祖母がテスコボーイと同じ)。

ウインドインハーヘアのLyphardをクロスする形態、そのLyphardをアシストする血、ウインドインハーヘアやディープインパクトをアシストする血を見ていきましたが、キタサンブラックのスタミナはLyphardクロスを中心としてウインドインハーヘアとこれと呼応する部分による点が大きいということになります(他のところではBull Leaとか)。
よって、母父がサクラバクシンオーだから距離が持たないというのは誤りですし、血統全体を見て、ちょうどオレハマッテルゼが再現できている部分があったからといって短距離向きではない、ということになります。
I理論だどうだと言っている人間にしては随分まどろっこしい考察をしてきたわけですが、こういうまどろっこしい部分こそが言いたかったことであり、というのも、キタサンブラックの適性も能力も見誤れられてきたのではないかと思ったからです。少なくとも一部の血統評論家からは軽く見られていたわけで、私も参考にする血統評論家ではあるもののキタサンブラックに二重丸を打てないようでは、と思うところがあったりしたもので。

I理論公式2派がどう判定したのか知らないのですが、ぱっと見の印象よりは随分と良い配合で、配合というのは面白いなと思いますね。