あけましておめでとうございます。
ずいぶん長期間ほったらかしにしていましたが、何事もなかったかのように2019年の最優秀配合賞に行きたいと思います。
2019年の最優秀配合馬は
Billesdon Brook。2018年の1000ギニーでは
Laurensを2着に下し、2019年はサンチャリオットSを制しました。2018年の受賞でも良かったのではと言われると、まあその通りなのですが、2018年は
Stradivariusにあげたかったんですよね。また、1000ギニーを勝った後が今ひとつで、2019年に2つ目のGI勝利を挙げたところでの受賞としたいです。
父は2018年に亡くなったChamps Elysees(
ブログ)。Hasiliが出した5頭のGI馬の中の1頭で、種牡馬として成功したDansiliの全弟になります。この配合からは、DanehillとHasiliとの間に
Banks Hill、
Intercontinental、
Cacique、Champs Elysees、Hasiliの全妹Arriveとの間に
Promising Leadと5頭のGI馬が出ています。恐るべき好相性でした。ただし、I理論的に見れば、Kerali内ハイハット内HyperionとRoberto内Nearcoの位置や、母内Tourbillonが生きなかったことなど、不十分なところのある配合でした。
Billesdon Brookの牝系はレットゲン牧場のAライン。曽祖母Anna Paolaはレットゲン牧場の至宝Prince Ippi産駒の独オークス馬です。Anna Paolaの子孫には、
Ave、
Helmet、
Epaulette、
アンナモンダといったGI馬がいますが、日本で有名なのは
アヌスミラビリスでしょうか。世界中を駆け回りましたが、毎日王冠勝利、鳴尾記念2着と日本でも実績があり、日本で種牡馬入りする予定でした。しかし、よりによって検疫所で熱発したために治療が行われず、検疫期間後に治療したものの手遅れで亡くなりました(Wikipediaの記述、「
この事実はあまり大きく報道されることはなかった」というのは本当でしょうか。「大きく報道される」というのがどのようなレベルを指しているのかによりますし、もちろん三大紙1面とか、ニュース番組トップとかいうことはなかったですが、私のような単なる競馬ファンのところにもショッキングなニュースとして届いていたので、無視されていたわけではないと思います。お役所やJRAに媚びへつらわずもっと批判的に取り上げるべきだったとか、もっと深掘りして追いかけるメディアが必要だったとか、そういうことをいっているなら、それはそうだったのだろうと思いますが)。
そのAnna Paolaにオールドヴィック(いっとき、日本で供用されていましたね)を付けたのが祖母のAnna Oreandaで、
Middle Club、
Piping Rock、
Anna Neriumの3頭の重賞勝ち馬の母です。そしてAnna OreandaにManduroを付けたのが母のCoplow。Coplowは未勝利でしたが、2番仔に本馬Billesdon Brookを出しました。よってBillesdon BrookはChamps Elysees×Manduro×オールドヴィック×Prince Ippiという累代交配になります。Anna Paolaの子孫のGI馬、AveはDanehill Dancer(Danehill産駒)×{In the Wings(Sadler's Wells産駒)+Anna Paola}の組み合わせ、HelmetはExceed and Excel(Danehill産駒)×{Singspiel(Sadler's Wellsの孫)+Anna Paola}の組み合わせ、Epaulette(Helmetの半弟)はCommands(Danehill産駒)×{Singspiel(Sadler's Wellsの孫)+Anna Paola}の組み合わせ、アンナモンダはMonsun×{Salse(Northern Dancer系)+Anna Paola}の組み合わせで、Champs Elysees(Danehill産駒)×{Monsun+オールドヴィック(Sadler's Wells産駒)+Anna Paola}の組み合わせのBillesdon BrookはAnna Paolaの系統の成功例を踏襲していることをまず確認しておきます。
Billesdon BrookはNatalmaクロスを伴うNorthern Dancer 4. 6 X 5. 5が最前面クロス。これを主導としてよいでしょう(9代血統表は
こちら。手打ちエクセルなので入力ミスがあるかもしれません)。5代以内に出現するクロス馬はNorthern DancerとNatalmaだけです。6代目に出現するクロス馬はNearco、Hyperion、Hail to Reason、Tudor Minstrel、Chanteur。NearcoとHyperionはNorthern Dancerに含まれ、Hail to ReasonはNearcoで、Tudor MinstrelはHyperion、Pharos、Swynfordで、ChanteurはBlandfordでNorthern Dancerと結合します。この6代以内クロス馬がNorthern Dancerに直結している点が非常によいですし、かなりシンプルですね。
母方はドイツの特殊な血を含み、Billesdon Brookではそれらをクロスしていませんが、配置が絶妙でほぼ弱点なしです。唯一、弱いところはElektrant内ですが、その部分にManduroでクロスしていたDschingis Khanが出現し、その中のNearcoとDouble Lifeが9代目でクロス馬になり、Manduroの祖母のMandelauge内でクロスしていたAlycidon(=Acroporis)も出現し、その父のDonatelloがクロスしています。さらにElektrantはTicinoのクロスを持ちます。血は生きているので弱点と見なくてよいのではと思います。
ドイツ血統といえば、まずはAlchimist - Herold、Arjaman - HeroldやOleanderなどに代表されるDark Ronald - Bay Ronaldの血を主体とし、そこに同じくBay Ronaldの系統のHyperionを取り込んだり、Dschingis KhanからNearcoやBlandfordを取り込んだりしてきたわけです。で、NearcoやHyperionやBlandfordは生かしやすいメジャーな血なわけですが、特殊なドイツの血をどうするかというのが課題であろうと思います。しかし、その特殊なドイツの血はBay Ronald(と、もちろんSt. Simon)を主体として統一性があるので、生かせていないようでも生きているのでは、近年、ドイツ血統を持つ馬が強い理由の一つはその辺のところでは、と思ってはいます。しかしながらBillesdon Brookの場合、父方Hyperionが6代目にあるために、Bay RonaldとSt. Simonが9代目でクロス馬となります。さらに父方His Majesty内のSon-in-Lawの父としてDark Ronaldが9代目にあり、Dark Ronaldも9代以内でクロス馬になります。母方のドイツ血統の傾向がわかりやすく生かせています。また、父では世代的に割引材料だったもう一つの部分のHail to Reasonが母内のHai to Reasonを抑えるのに役立っています。さらに父では生かせなかったTourbillonがTornado 8 X 7としてクロスし、そのTornadoはSwynfordで主導に直結するという。細かいところでは、ChanteurがAlcantara、DjebelがGay Crusaderを内包し、若干、マニアックな血もまとめられています。スピード要素としてはTudor Minstrel、Nasrullah、Fair Trial、スタミナ要素としてはDjebel、Donatello、Chanteur、Wild Risk、Hurry Onなどでしょうか。6代目から系列ぐるみを作るTudor Minstrelのスピードは魅力で、スタミナ要素も十分でありながら、マイルで実績があるのもうなずけるように思います。
さて、母方にドイツ血統を持つ馬として、母がManduro半姉の
ワールドプレミアが日本で菊花賞を勝ちました。主導の明確さ、きめ細かさの点でBillesdon Brookの方が好みですが、こちらもI理論的良配合です。相変わらず
Galileoや
Sea the Starsの産駒も活躍していますし、Anna Paolaの曾孫Helmetの仔
Thunder SnowもドバイWC連覇を成し遂げました。ドイツの特殊な血といっても、ドイツを飛び出して世界中で実績を残しています。このような状況を見て思うことは、古くから日本に根付いた血もドイツ血統のようになれたのではないか、ということです。しかし、その面ではどんどん高速化していく馬場が問題なのではと思います。競走馬の生産を「選抜」であるとすると、ある条件で強い馬が種牡馬になった際に条件が変わっているなら選抜として機能しないですよね。日本に古くから根付いたスタミナ寄りのタフな血の影響が強く出ると、今の競馬に合わないということになってしまいます。世界で活躍できる馬を育てることを目標とした場合に、そのような状況が良いのかという疑問があります。例えば、昨年暮れの香港で、日本調教馬が3勝しましたが、そのうちの
ウインブライトは
コスモドリーム、
ラッキーゲランといったGI馬や
オースミシャダイ、
ヤシマソブリンなどが出ているミスブゼンの系統ですし、
グローリーヴェイズはメジロ牧場のアマゾンウォリアーの系統で曽祖母はメジロラモーヌです。ウインブライトは日本では中山専門みたいな感じですし、グローリーヴェイズはGI初勝利でした。さらに、グローリーヴェイズの2着だった
ラッキーライラックの父オルフェーヴルの母父は小岩井農場のアストニシメントに行き着くメジロマックイーンです。ラッキーライラックはその前走のエリザベス女王杯で少し時計のかかる条件で久しぶりの勝利を挙げていました。これくらいのセッティングで選抜した方が世界基準の馬を作れるのではと思いますし、その場合にこういった日本の古い血が生きてくるのではと思うのですけどね。ちなみに、ディープインパクトは母が輸入、持ち込みであった方がよく(
ブログ)、グローリーヴェイズはディープインパクト産駒で最も日本で古い血を持つGI馬になります。長年、日本で競馬をやっているのですから、その歴史の力を利用した方が強い馬を作れるのではないかと思いますし、どんどん高速化していく馬場のせいで遠回りをしているのではないかと思います。
ドイツ産のドイツ血統馬はドイツ国内で育んだ血を容赦なくクロスしていくわけで、先ほどの選抜ということを考えるなら、自国の条件で強い馬の血を利用するのは当然と言えるように思います。日本産馬でこれに近い馬がいるのだろうかと考えたのですが、例えば
ミナガワマンナなんかが割と近かったのではと思います。3冠馬シンザンの仔で、トウルヌソル、シアンモア、クラックマンナン、インタグリオーと4頭もの輸入種牡馬のクロスがあります。このようなクロスを持つGI級勝ち馬は他に例があるのでしょうか。ミナガワマンナは種牡馬としてそれほどの活躍はできませんでしたが、母父として
アサヒライジングを出しました。アサヒライジングはアメリカンオークス招待で2着に入りましたね。
この日経記事は、一昨年、2000ギニーを勝ったディープインパクト産駒
Saxon Warriorとか、昨年、長期遠征で結果を出した
ディアドラ(フロリースカップ系のスペシャルウィークが母父)とかを忘れているっぽかったりするのですが、私と共通性のある問題意識から書かれているように思います。