よくある災難にすぎないが、はねられて、それでも必死にわが家の前まで
帰りついて死んだという事実が胸にこたえた。
彼にしてみれば、苦痛と惑乱のなかで、ともかくももっとも安全なところ、
なつかしいところ、あえていえば自分を愛してくれる者の居るところへたどりつこうとしたのだ。
猫にしろ人間にしろ、生きることはさびしさの極みであって、
それゆえにこそ愛慕の衝動を断ちがたい。
そういういのちの原型をみせつけられるようでたえがたかった。
そして学問芸術であれ、あるいはこの世のさまざまな勤労であれ、
一切の人間の営みはこのようないのちの切なさをみすえてこそ、
まともでありうるのだと、彼ら人間のきょうだいから教えられるのである。