悲しみの一撃によってランドスケープは一変する──
彩り、色あい、表情、肌ざわり
スクリーンの画面が切り替わるように
世界を構成する意味と価値の配列が変化する
そうではなく感じていたいのに
そうであるようにしか感じられない
拒むことを絶対に許さないように
世界はそうであるようにしか現われない
そうとしかありえないかのように
世界はいつも、すでに
心の願いをひとつも斟酌することなく
告げるべきことをただ告げるように姿を現わす。
世界の現われ、世界のはじめの告知に
ぼくの心は関与することができない
ぼくの心は告げられ、つねに、おくれて動き出す。
この先行関係はけっして動かすことができない。
現われとしての世界──
すべてのはじまりをつくる世界との遭遇
一切の起点、動かせない初期条件つくるように現われる世界
逃げられない痛切さ、切実さ、非情さにおいて
「世界はかくある」と告げられる
ぼくの心は決定に加われず、選ぶことができない
遭遇というかたちでしか世界を知ることができず
はじまりの世界記述に参加することができない
「かなしい」
最初の記述の権利はただ世界の側にだけある
──しかし始発点は終着点を指定しない
「わかった。十分だ。上等だ」、けれど
「申し分ない」とは口が裂けても言わない
世界が告げる記述形式ははじまりにすぎない
初期条件はいっさいを決定し完結させることはできない
おくれて立ち上がる側には別の権利がある
つねに〝未決の位相〟を保持し
記述の確定を斥けるように駆けているものがいる
一つの意志がそのつど新たな記述へ
世界の書き換えへ向かうかのように
記述の更新に向けてつねに準備を整えるように
その意志を貫徹させるように
世界に向かって告げ返すものがいる
──新たな記述の場所をつねに空けておけ
未決性において全域性を満たすように
つねに自らに生成する「問い」をたずさえ
未決の解を探索するものがいる
なぜ・なに・どうしたら・どうするか──
わかること、理解のポッケに収まるものだけでは足りない
わからないことのわからなさをそのまま保持する
保持することではじめてアクセス可能になるものがある
わかること知ること、初期記述へ落とし込み
一切をそこに向かって帰納するのではない
わからないことのわかりえなさ
知りえないことの知りえなさ
つねに、そのことを手がかりに
資源として立ち上がるものがいる
記述の確定を拒む未決性を本質として
逆説的に疑えない明証として一つの格律がみちびかれる。
「世界の自明性、確定された記述につねに留保をかけろ」
*
原理の思考へ──
子は母を生むことができない。
失恋の絶望、挫折は希望に先行できない。