映画「春を背負って」を観た。
立山連峰の急峻な岩肌に張り付くように建てられた山小屋。
吹雪く厳冬期には雪の中に埋まってしまう。
春の雪解けと高山植物の花が咲き始め、
雷鳥がまだら模様の羽に変わる頃から山小屋は動き出す。
小屋の管理者・長嶺勇夫(小林薫)は遭難者の救助で命を落としてしまう。
東京で投資銀行のトレーダーとして過酷な現場で働く一人息子。
亨(松山ケンイチ)がメールを見たのは、幾日か後だった。
民宿を営む母・長嶺菫(檀ふみ)の許に駆けつける亨。
かつて勇夫に遭難途中に救助され、
民宿を手伝っている高澤愛(蒼井優)がいた。
3人で小屋に上がり父・勇夫を弔い墓碑銘を立てる。
亨は父の残したこの小屋を継ぎたいと決心する。
営業再開の荷揚げには亡くなった勇夫を崇拝する、
風来山岳男の多田悟郎(豊川悦司)も駆けつけてくる。
それと幼馴染の木工屋の跡継・中川聡史(新井浩文)一家の人たち。
厳しい雪山から美しい夏山へと、そしてまた冬山へと。
物語は移り変わる山岳風景と共に、それぞれの思いが交錯しながら展開する。
登場者たちは厳しい自然と向き合い、いささかの生き方に関する葛藤はあっても、
他者と向き合う葛藤がまったく無い。
美しく厳しい自然が主役で登場者は脇役に過ぎないのか。
監督は伝説的な映画撮影カメラマンとして幾多の作品を撮ってきた木村大作氏。
初めて映画監督としてメガホンをとったのが「劒岳 点の記(2009年)」だった。
二作めの「春を背負って」も、山岳の厳しさと美しさを、存分に撮った清冽な作品となっているが、
物語の深みが薄く平板で物足りなさは否めない。
カメラは3000メートルの大雪渓と岸壁に据えられて、
CGは使わず、空撮も無しで丹念に写す映像は素晴らしい。