遠い森 遠い聲 ........語り部・ストーリーテラー lucaのことのは
語り部は いにしえを語り継ぎ いまを読み解き あしたを予言する。騙りかも!?内容はご自身の手で検証してください。
 



 春キャベツのスープとオムレツ、蟹やベーコンやありあわせであつらえて、トーストにミルクティの朝食。それから、ゲド戦記を読み返してみる。

 アーキペラゴ(多島海)やゴント、10本ハンノ木村、そしてロークの魔法学校でのこと、真の名で老いた竜を打ち負かすところなどは、かってのようにわたしを昂ぶらせはしないのだった。自ら呼び出してしまった影におびえるゲドの心情、この世界を危うきに陥れないためにも、その影をもといたところに戻さねばならないと固く心に決めながら 恐れに打ち負かされそうになるゲドに惹かれてつい読みおえてしまう。

 最初は道はたくさんに開けているが ついには目の前にある一本の道しかなくなる。その道を辿ってゆけばいい。このことばが好きだ。ほんとうに そう思う。わたしの前にもすでに ひとすじの道しかない。だが、どのように歩いていったらいいかわからない。ゲドは影に追われていたが、いつしか影を追って、海を渡り島から島へ影を追い詰めてゆく。

 昼と夜の区別のつかない薄明の浜辺でゲドと影は向き合う。相手の名を知る者は力を持つ。影とゲドは同時に叫ぶ。「ゲド!」あんなにも畏れた影とゲドは一体になった。ゲドは倒れる。浜辺に海が押し寄せる。ゲドははてみ丸に乗って友と帰還する。ゲドは光の自分と闇の自分を統合した。まことにユング的な結末である。わが子たちが悩み さまよっているのもそのような小暗い岸辺であるのかもしれない。

 自分で見出すしかない。自分で統合してゆくしかない。わたしもかってそうだった。明け方 「それはわたしだ」と叫んで飛び起きたこともあった。ハイファンタジーとは単なる空想の物語、夢の物語ではない。それは内なる神話といってもいい個人の創世神話なのだ。闇があるからこそ光がある。死があるから生は輝く。世界中の国々の創世神話において 混沌があり混沌の中からそのものはかたちを成す。闇があり光が闇をはらう。世界ははじまる。

 そしてひとりひとりのなかにも影があり光がある。ゲドやフロドが内なる闇と戦い 自分を統合したように わたしたちは主に青春というあの懐かしくも輝かしく苦しい時代にその峠を越えねばならないのだ。



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