南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 8(完)

2005年10月31日 | 遷延性意識障害
 介護料、特に将来の介護料については逸失利益と並んで損害賠償額の中でかなりの額を占めるものになります。
 たとえば、先の例では、
  逸失利益     約1億円
  将来の付添看護費 約1億1600万円
となり、将来の介護料のほうが、逸失利益を上回っています。
 損害賠償の総額が2億円を上回るような事案には、死亡事故のケースはほとんどなく、後遺症のケースであるのですが、これは将来の介護料がかなりの金額になるからです。
 よって、介護料について正当な賠償を受けるために、きちんとした立証が必要となってきます。
 何をどのように立証すべきかは、ケースバイケースですので、個別の事案に沿って立証方法を検討していく必要があるでしょう。
 介護の現状が変わるにつれて介護料に対する裁判官の考えも変化していく可能性があり、今後そのような動向にも注意を向けていかなければなりません。
(完)
 

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介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 7

2005年10月29日 | 遷延性意識障害
 中間利息を5%控除されることを避ける方法として「定期金賠償」という方法があります。
 定期金賠償の場合、毎月ないしは毎年その分の介護料を請求するというものです。
 介護料が認められるケースでは、定期金賠償を請求すれば、裁判所はこれを認める扱いです。
 定期金賠償には、中間利息5%を控除されないので、トータルでもらえる金額は高くなります。
 しかし、巨大企業でも倒産するリスクがある現在では、保険会社が倒産した場合、もらえる金額がカットされる(又はもらえない)こともありえます。
 このような理由からか、定期金賠償方式で介護料を請求するという後遺症者の方は多くはありません。
 なお、被害者側(原告)が一時金賠償を請求しているのに、加害者側(被告)が定期金賠償にすべきであるという主張がされることがあります。
 しかし、多くの裁判例ではこのような被告の主張は認められない、つまり、被害者側(原告)が一時金賠償を請求している場合は、一時金賠償にしなければならないとしています。
(続)

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介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 6

2005年10月28日 | 遷延性意識障害
 比較的高額な介護料を認めたポイントは、
1 近親者が協力して24時間介護にあたっている
2 その上、職業介護人の介護を一日3時間受けている
3 夜間においても2時間おきに吸痰等の措置が必要であるなどその介護は過酷である
という点でした(裁判所が認定した事実)。
 遷延性意識障害者の介護においては、以上の点は常識的な事柄ですが、裁判官がこれらのことまで当然知っているということはできませんので、介護者にとっては当たり前のことを丁寧に証拠化する必要があるのです。
 ところで、裁判所の認定としては比較的高額であっても、それが実際の介護費用を完全にまかなえるというものではありません。
 その意味で、実際の介護費用と裁判所の認定にはギャップがあります。
 また、逸失利益と同様に、介護費用についても、中間利息の控除がされます。
 この中間利息の控除率については争いがあったところですが、最高裁で5%という判決がでてしまいましたので、5%で引かれることが確定してしまいました。
 そうすると、一時金で介護費用をもらっても、5%でそれを運用しないことには実際の費用をまかなえないということになるのです。
(続)


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介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 5

2005年10月27日 | 遷延性意識障害
 このケースでは症状固定前に自宅療養をしていました。
 自宅介護では看護士が常にいるわけではありませんから、全身状態の管理などはすべて介護者に任せられることになり、本ケースでは24時間の介護が必要でありました。
 その状況を陳述書にまとめて立証した結果、裁判所は「症状が重篤であり、24時間の付き添い介護が必要である。実際に、介護者が交替で24時間の介護に当たった」と認定し、近親者介護としては高額の部類に属する日額1万円を認定したのです。

 症状固定後の介護料については、介護に当たっていた近親者が67歳になるまでとそれ以降の二つの時期に区切って請求をしました。
 これは、民事の裁判例上は、仕事をすることができるのは67歳までと通常認定されるからです。この考え方に沿って、介護をするのも67歳までとする裁判例は複数あります。
 このようなことから、介護者が67歳になるまでは近親者介護がある程度活用できるが、それ以降は不可能である、つまり、67歳以降は全面的に職業介護とすべきである旨主張したのです。
 裁判所は、この主張を認め
・近親者が67歳まで 日額1万6000円(近親者日額1万円+職業介護日額6000円)
・近親者67歳以降  日額1万8000円(職業介護費用として)
という認定をしました。

 
 

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介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 4

2005年10月26日 | 遷延性意識障害
 実際に私が担当した事件で、裁判所が認定した介護料は以下のようなものでした。
 1 入院付添費 日額7000円
 2 退院した後自宅での介護費用(症状固定前) 日額1万円
 3 将来の付添費
  ・近親者が67歳まで 日額1万6000円(近親者日額1万円+職業介護日額6000円)
  ・近親者が67歳以降  日額1万8000円(職業介護費用として)

 以下、このケースに沿って説明をしていきます。
 このケースの場合、症状固定前に入院していた時期と自宅での介護がされていた時期とがあり、それぞれについて介護状況が違いましたので、そこを分けて請求しました。
 すでに述べたように入院中の場合は、症状が重篤である一方、看護士が看護にあたっているわけですから、近親者の負担は減るだろうと裁判官は考えるからです。
 入院付添費については、日額6500円が赤い本の基準ですが、本件では日額7000円であり、基準よりも(500円だけですが)上回った金額を認定しています。
 裁判所は、「病院は一応完全看護体制であるが、実際には、原告の重篤な容態やリハビリを要する事情などからすれば家族の補助が必要であること、入院期間中介護者が毎日交代で付き添いをしていたこと」を認定し、日額7000円を認定しました。
(続)  



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介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 3

2005年10月25日 | 遷延性意識障害
2 職業介護料は実費と赤い本には書かれていますが、必ずしも実費全額がでるわけではありません。
 裁判所は、当該症状に必要か、それが相当かということをチェックしますので、いかなる場合でも実費全額が支払われるわけではないのです。
3 同様に、近親者付添費についても、6500円や8000円という金額がいかなる場合でも支払われるわけではありません。

 以上からお分かりいただけるように、症状から介護が必要である、また金額としても相当であるということを、被害者側が立証していかなければなりません。
 日々介護に追われる被害者側にとって、訴訟を起こすことだけでも大変なことだと思うのですが、それに加えて、立証をしていかなければならないことの負担というのも相当なものであると考えられます。
 これらの立証は、依頼される弁護士との協同作業となりますので、よくよく打合せをしていただいて臨んでいただきたいと思います。
(続)

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介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 2

2005年10月24日 | 遷延性意識障害
 赤い本が示す基準は以下のとおりです(2005年版による)。
1 入院介護費
   職業付添人=実費全額
   近親者付添人=日額6500円
2 将来介護費
   職業付添人=実費全額
   近親者付添人=日額8000円

 上記の基準についてはいくつか留意すべき事があります。
1 上記の介護費用は必ず支払われるというものではありません。
赤い本では、入院介護費については、
「医師の指示又は受傷の程度、被害者の年齢等により必要があれば」
という限定がついていますし、将来介護費についても、
「医師の指示又は症状の程度により必要があれば」という限定がついています。
 これらの点について、裁判になる場合は立証していかなければならないということです。
 特に、入院介護費については、基本的には基準看護(いわゆる完全看護)体制がとられている病院では、看護士以外の看護は必要ではないのではないか?という主張が、被告(加害者)側から出ることが多いのです。
 赤い本も認めているように、一定の要件のもとでは、介護料が認定されますが、将来の介護費よりも低い金額にとどまっている(近親者介護の場合)のは、看護士の看護があるからとその分近親者介護としては評価しないと裁判所が考えているからであると思います。
(続)
 
     

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介護料ー遷延性意識障害(植物状態)者について 1

2005年10月24日 | 遷延性意識障害
 遷延性意識障害(植物状態)者には介護が必要です。
 そこで、民事の損害賠償請求においても、介護料が認められます。
 「介護料」という言い方のほかに、「付添費」「看護費」などとも言われますが、同じ意味です。
 遷延性意識障害(植物状態)者の介護には多大な時間と労力を費やさねばならないのですが、それに見合った介護料を損害賠償請求で得られているのでしょうか。
 交通事故の損害賠償実務に携わっている人々が参照する本として、「赤い本」と呼ばれているものがあります(正式名称は、「損害賠償額算定基準」です)。
 この赤い本は、東京地裁交通部のスタンダードな考え方を示したものと捕らえられています。
 これによれば、介護料は、症状固定前と症状固定後で区分けされ、
  症状固定前は「入院付添費」
  症状固定後は「将来の付添費」
と名付けられています。
 また、損害賠償の請求では、介護を誰がするかで
  親族が介護する場合を「近親者付添人」
  プロの方が介護する場合を「職業付添人」
として分けており、それぞれ金額が違います。
(続)


  

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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 9(完)

2005年10月22日 | 遷延性意識障害
 生活費控除をしないという裁判例は数的には多数であり、前回述べたような立証活動を積み重ねていけば、裁判官の遷延性意識障害者に対する誤解も解けていくものと思います。
 しかし、裁判官の理解を変えていく、勝訴判決を勝ち取っていくということは決して容易なことではありません。
 裁判官は役人だから信じることができるという態度では駄目で、さまざまな証拠を提出してようやくわかってもらえるものだという風に思ったほうがよいです。
 その意味で、裁判とはひとつの戦いといえます。
 そして、前の方が勝ち取った裁判例を使って、さらにまた別の裁判例を積み重ねていくということが必要であり、勝利を得た事件の情報を使用することができれば、全体を変えていく力になるということができます。
 遷延性意識障害(植物状態)者の法的な問題点は、ほかにもありますが、余命認定の問題はとりあえず、本稿をもって終了とし、次回からはまた別のタイトルで遷延性意識障害者の問題点を解説していく予定です。
(完)

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遷延性意識障害(植物状態)者の余命認定 8

2005年10月22日 | 遷延性意識障害
 生活費控除をする裁判例は、このように遷延性意識障害者には一般の方より生活費がかからないという認識があるようです。
 私が担当したケースで、被告から「生活費控除をすべきである」旨の主張がでましたので、原告の親族の方に実際のところどうなのかお伺いしたところ、刺激を与えて介護の質をよくし、また、実際に生活の質を高めるためには、外出をさせて外気に触れさせることが必要で、そのためには移動のために自動車も必要になるし、ガソリン代も必要になるということでした。
 また、自宅で介護をする場合は、体温調整ができないことから、エアコンを頻繁に使用する必要があり、電気代がかえって上がるという状況がありました。
 被服費についても、服を購入する必要は一般の人と変わらないですし、娯楽費についても、音楽を聴かせる等の刺激を与えることは介護上からも必要とのことでした。
 このような治療費でまかなえないような状況を詳細に陳述書にし、また、介護の文献などでもそのことが裏付けられれば、それを証拠として提出するなどの立証活動をしましたところ、「生活費控除はしない」との判決を勝ち取ることが出来ました。
(続)


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