南斗屋のブログ

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脊柱管狭窄と中心性脊髄傷害

2010年11月22日 | 未分類
 中心性脊髄傷害の後遺障害を負っている場合に脊柱管狭窄が素因減額の対象となるかという問題が浮上することがあります。

 この問題について自分なりに裁判例を調べてみました。

1 素因減額を否定した裁判例として、以下の3つの裁判例をみかけました。
・東京地裁 平成4年12月17日判決
   事件番号 平成元年(ワ)第16413号、
        平成2年(ワ)第15098号
   <出典> 自保ジャーナル・判例レポート第110号-No.1
事故前は健康であり、脊柱管狭窄は病的なものではなく、症状もなかったことか
 ら、素因による減額をすることは相当でないとされた事例。

・東京地裁平成16年 2月26日判決(交民 37巻1号215頁)は、脊柱管狭窄のあった被害者について、素因減額を否定した。
その判示は以下のとおりである。
「原告には加齢性による脊柱管狭窄、後縦靭帯骨化等があり、それと本件事故による衝撃があいまって、原告の症状が出現したものと認められることは前記のとおりである。しかしながら、前記の原告の加齢性の変性が通常の加齢に伴う程度を超えるものであったことを認めるに足りる証拠はない(かえって、C医師の意見書によっても、原告の脊柱管狭窄の程度は年齢相応の変化であったとされている。)。そうすると、本件事故の加害者である被告に、被害者である原告の損害の全部を賠償させることが公平を失するとまではいえないから、本件において民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、素因減額をするのは相当ではない。」

・大阪地裁平成20年8月28日判決(自保ジャーナル1784号)

2 一定割合で考慮で考慮したものとして、以下の裁判例がありました。
大阪地裁 平成3年12月16日判決
事件番号 昭和63年(ワ)第374号
   <出典> 自保ジャーナル・判例レポート第101号-No,5
右事案の損害額算定に当たり、治療費、入院付添費、入院雑費、通院交通費は素
因減額を否定し、休業損害は素因3割減額、後遺症逸失利益、慰謝料は素因の寄
与を考慮されて算定された事例。

3 30%の素因減額を認めたものとして、以下のものがありました。
・東京地裁 平成13年4月24日判決(確定)
   事件番号 平成11年(ワ)第4574号 損害賠償請求事件
   <出典> 自動車保険ジャーナル・第1405号
事故前無症状であった「脊柱管狭窄症、後縦靭帯骨化症」が治療程度、期間、後
 遺障害に影響を与えたものと30%の素因減額を認めた。
・東京地裁 平成16年12月8日判決(確定)
   事件番号 平成12年(ワ)第18523号 損害賠償請求事件
   <出典> 自動車保険ジャーナル・第1589号
             (平成17年5月19日掲載)
50歳男子鳶杭打ち職人が乗用車を運転停車中、被告乗用車に軽微追突され、頸
 髄不全損傷を発症、椎弓形成術等から5級後遺障害を残したとする事案で、併合
 6級後遺障害を残したと認定するが、肉体労働従事での加齢に加え、先天的な脊
 柱管狭窄の状態にあったが、事故前治療を受けていたなどの事情は認められない
 ことから、30%の割合で素因減額すると認定した。
・大阪地裁 平成18年9月25日判決(控訴和解)
   事件番号 平成14年(ワ)第6215号 損害賠償請求事件
   <出典> 自動車保険ジャーナル・第1702号
                (平成19年9月13日掲載)
脊柱管狭窄に外力が加わって、症状が発現したとの医師の診断等から、過失相殺
 を類推適用し「損害の3割を減額する」と素因減額を適用した。

4 40%減額を認めたものとして以下のものがありました。
・大阪地裁平成15年1月24日判決(自保ジャーナル1494号)
・大阪地裁 平成16年9月22日判決(控訴中)
   事件番号 平成15年(ワ)第11798号 損害賠償請求反訴事件
   <出典> 自動車保険ジャーナル・第1588号
             (平成17年5月12日掲載)
 43歳男子公務員バス運転手が、乗用車で信号待ち停車中、わき見運転の被告乗
 用車に追突され、頭部外傷Ⅰ型等で併合7級後遺障害を残す事案で、後縦靱帯骨
 化症と脊柱管狭窄と診断され、脊髄症状発現にかなり近い状態であったこと、ま
 た障害の程度や治療長期化により、無症状であった後縦靱帯骨化症が大きく寄与
 しているものと、4割の素因減額を適用した。
・神戸地裁平成21年9月28日判決(自保ジャーナル1833号130ページ)
・東京地裁平成22年3月17日判決(自保ジャーナル1828号124ページ)
 事故前に既に症状が出ていたと認定した事例

5 60%減額を認めたものとして以下の裁判例がある。
  水戸地裁土浦支部 平成16年2月20日判決(控訴中)
   事件番号 甲事件 平成13年(ワ)第180号 損害賠償請求事件
        乙事件 平成13年(ワ)第352号 損害賠償請求事件
   <出典> 自動車保険ジャーナル・第1537号
                 (平成16年4月15日掲載)
 軽微な事故態様、当初の症状と手術、その後の症状との「因果関係が認められる」
が事故前からあった「著明な脊柱管狭窄、椎間板ヘルニア」の「素因が本件事故
による損害の拡大に寄与した割合は6割」と認定した。


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