南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

日本版WAIS-Ⅲ

2007年02月28日 | 高次脳機能障害
前回WAIS-R(ウエクスラー知能検査)のことについて少しふれましたが、これがさらに改訂されたものがでているということを知りました。
 名前は、
  日本版WAIS-Ⅲ
で2006年6月に発刊されたということです。
 ウエクスラー知能検査3訂版
といった意味になるでしょうか。

 ホームページ上で改訂ポイントを見ていますと、
 1 ウエクスラー検査の伝統を引き継ぎながら89歳までの適用年齢の拡大
 2 3つの新検査の採用
 3 群指数の導入
など大幅な改訂を行っているとのことです。

 これからは、WAISといえば、WAIS-Ⅲのこととなるでしょう。

 WAISという検査は、知能指数(IQ)の検査です。
 知能指数は、今の世の中では人間の能力はかる一番の指標となっているかのような感がありますが、高次脳機能障害に携わっていると、知能指数だけが人間の能力ではないし、知能指数だけで人間をはかるというのが大間違いなことであるということを痛感します。

 





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高次脳機能障害の労働能力をどう考えるか

2007年02月26日 | 高次脳機能障害
高次脳機能障害の知能の検査方法のひとつに、WAIS-R(ウエクスラー式知能検査)というものがあります(詳細については、私のホームページの「高次脳機能障害 検査方法」をご参照ください)。
 この検査は、IQ検査をするものです。
ある教科書によると、
 IQ100 が中心となる値
 IQ85以上あれば 正常値
ということになっていて、IQ85以上だと知能には異常がないというふうに判断されてしまいます。

 訴訟をしていても、よく加害者サイドから、「被害者のWAIS-Rの値は正常値だから障害があるとしても大したことがないんだ」というような主張が見られます。
 しかし、これは間違いです。

 高次脳機能障害は、
   認知障害+行動障害、人格変化
だといわれています。
 WAIS-R(ウエクスラー式知能検査)は、このうち、認知障害の方の検査方法のひとつにすぎません。
 行動障害、人格変化の方は、WAIS-R(ウエクスラー式知能検査)でははかれないのです。

 高次脳機能障害 認定システム検討委員会報告書でも、
「就労を阻害する要因としては、認知障害だけでなく、行動障害及び人格変化を原因とした社会的行動障害を重視すべきである。社会的行動障害があれば労働能力をかなりの程度喪失すると考えるべきである」と述べています。

 その理由として、「知能指数が正常範囲に保たれていても、行動障害及び人格変化に基づく社会的行動障害によって、対人関係形成に困難があり、通常の社会及び日常生活への適応に難渋している」ということが述べられています。


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高次脳機能障害の自賠責の認定と労災の認定

2007年02月24日 | 高次脳機能障害
 前回、自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会の「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」という報告書について書きましたが、引き続きその報告書から気になったことを。

 高次脳機能障害の自賠責の認定基準と労災の基準というのは微妙に違うんです。
 自賠責の今の認定システムは2001(平成13)年1月から実施されています。
 労災は、2003(平成15)年からなんです。
 自賠責の方が高次脳の認定システムは早くできてしまって、労災が後からシステムをつくったので、労災と自賠責の認定基準が微妙に違うわけです(注)。

 報告書では、
 成人の被害者に対しては、従前の自賠責の考え方を用いて後遺障害等級を認定した後、労災保険で使用している「高次脳機能障害整理表」に当てはめて検証し、最終結論とすることが労災保険に準拠する自賠責保険とのしての妥当な認定方法と考える
と書いてあります。
 つまり、労災の考え方は自賠責を考える上でも十分に役に立つということを言っています。

 しかし、労災というのはあくまでも働いている人が災害にあったときの補償ということですが、交通事故は働いていない乳幼児や高齢者も認定の対象になってきます。
 労災よりも自賠責の方が対象者が広いことになりますね。

 報告書もこの点をきちんと把握してありまして、小児や高齢者は労災基準を修正することが必要ですと述べています。


(注)
 高次脳機能障害ではこのように自賠基準と労災基準が微妙に異なるのですが、本来、自賠責の等級認定は原則として労災における障害の等級認定の基準に準じて行うことと定められています(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」)。

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高次脳機能障害認定システム検討委員会報告書

2007年02月22日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害については、このブログでもたびたび取り上げてきましたが(まとめたものを、私のホームページに掲載しております)、その認定はなかなか難しい問題であり、自賠責の方でも認定システムをどうしていくのかということについては検討がされているようです。

 2月2日に、国土交通省の方で、
 自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会の報告書
がまとめられ、発表されました。 
 その概要及び報告書そのものについては、こちらをご参照ください。
 
 大橋正洋医師(神奈川リハビリテーション病院)を座長に据えたこの委員会の報告書は、わかりやすくまとめられれており、非常に勉強になりました。

 折に触れてこのブログでも、その内容をご紹介していこうと思いますが、今日は高次脳機能障害の自賠責での認定件数について、お話ししておきたいと思います。

 自賠責の高次脳機能障害の等級は、上から順に1級、2級、3級、5級、7級、9級となりますが、この1級~9級の合計数は
 平成13年度 2529件
 平成14年度 3060件
 平成15年度 3015件
 平成16年度 2865件
 平成17年度 2754件
となっています。

 このようにここ5年間では、毎年2500件~3000件程度になっています。
 しかし、たとえば、平成17年度をみると、
1級 503件
2級 372件
3級 330件
となっており、1級が一番認定が多く、2級や3級の方が少ないとのですが、このように1級認定が2級、3級に比べて多いという現象が起こっています。

 これが、2級や3級のケースが被害者サイドで見過ごされてしまっている結果でないとよいと思っています。
 委員会の報告書では、この結果自体については考察は加えられていませんが、今後これについてどのような原因によるのか明らかになればと思います。

 委員会も「脳外傷による高次脳機能障害が、依然として見すごされやすい障害である」と警告を発しております。
 2級や3級のケースもみすごされず、きちんと申請のできる体制が整えられるよう願ってやみません。

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遅延損害金の上乗せを獲得するために訴訟を行う

2007年02月20日 | 交通事故民事
 訴訟をしても和解で終わってしまうと、遅延損害金がカットされてしまうということを前回お話ししましたが(訴訟をしても遅延損害金がカットされてしまう話)、それでは訴訟を行うメリットがないのではないかと思われる方もいらっしゃると思います。

 しかし、遅延損害金はカットされてしまいますが、訴訟での和解であれば、遅延損害金を見込んである程度の上乗せがされることが多くなってきております。
 ここに交通事故の損害賠償で訴訟をするメリットがあります。

 東京地裁の交通部の裁判官はある講演で、
”最近は和解においても、「解決金」や「調整金」の名目で遅延損害金の一部を上乗せすることが少なくありません。たとえば、事故から4年を経過した事件では、判決になれば、認容額に弁護士費用約10%と遅延損害金20%が加算されます。(中略)これを全額カットすることが原告・被告の衡平を失する場合があります。この場合には、争点の内容、立証の程度等を総合的に考慮した上で、元金に10%ないし15%くらいの上乗せをしております”
と述べています(2001年版赤い本p283)。

 つまり、遅延損害金は和解では全部は上乗せにはならないけれども、一部上乗せをする。その上乗せの程度は事故から4年を経過したもので、10%から15%くらい(判決であれば、遅延損害金は20%)
 ただし、無条件ではなくて、争点の内容や立証の程度にもよる
ということです。

 訴訟をしなければ、これらの上乗せ分はほとんど期待できませんから、訴訟をしてきっちり立証をする、すると和解でもある程度遅延損害金を考慮した金額を受け取ることが可能になるということです。

 ここに大変な労力をしてでも訴訟をするメリットがあります。

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訴訟をしても遅延損害金がカットされる話

2007年02月18日 | 交通事故民事
 交通事故の損害賠償には遅延損害金(年5%)がつくのが法律で定められている、しかし、実際の解決はこの遅延損害金がカットされてしまうということをお話ししてきました(詳細は、前回をご覧ください)

 そこで、法律上の手段をとらない限り、遅延損害金はカットされてしまうと書きましたが、もう少し詳しくこの点をご説明したいと思います。

 というのは、法律上の手段をとっても、遅延損害金がカットされるという現状があるからです。

 こう書きますと、法律上は遅延損害金がつけられるとなっているはずなのに、遅延損害金が法律上の手段をとってもなぜカットされるのか不思議に思われる方もいらっしゃるのではないかと思います。
 この点を説明するには「法律上の手段」とはなんなのかから説明する必要がありますでしょうか。

 法律上手段というのは、「訴訟」のことです。
 訴訟については、以前にも書きましたのでそちらを参照していただければと思います(法的解決までのロードマップ 訴訟
 
 しかし、訴訟をしても遅延損害金をカットされる場合がありうるのです。
 これは、訴訟をした場合でも、「裁判上の和解」(通常、「和解」といわれます)という示談のようなものを進められるからです。

 和解というのは、お互いの合意で金額を決めることです。
 「和解」というくらいですから、どちらかの完全勝利(または完全敗北)というのはありえません。
 原告と被告、双方がある程度歩み寄らなければ和解にはなりません。

 交通事故の場合、裁判官がこういう算定でどうですかという和解の勧告をだすことを多いですが、この和解案で真っ先に削られるのが遅延損害金なのです。

 訴訟を起こしても、遅延損害金がカットされることがあるというのはそういうことです。もちろん、判決までいった場合に遅延損害金がカットされることはありえません。
 要は、民事の訴訟は和解で終わることがあり、その場合、遅延損害金はカットされることが多いということなのです。

 


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遅延損害金がカットされる話

2007年02月16日 | 未分類
 遅延損害金は、利息のようなもので年利5%が事故日から損害賠償金についてくるという話をしてきました。
 これは、民法や最高裁判例で決まっているものです。

 元本が保証される金融商品で、年1%のものなんか滅多にない時代ですから、年5%というのは、ものすごく高い金利です。

 ところが、この法律で決められている遅延損害金がカットされる場合があります、というより多くの場合遅延損害金がカットされているという方が正確でしょうか。

 交通事故の損害賠償の多くは、示談といわれている方法で解決されます。
 示談というのは、当事者の合意で、これだけの金額で解決しましょうということで結ばれるものです。
 示談書という形で最後に両者が判子を押すという形式が多くとられています。

 示談で終わる場合、事故日からの遅延損害金はつけられていません。
 損保会社は示談案の提示をしてきますが(詳しくは、以前書いた「示談案の提示」をご参照ください)、この提示に遅延損害金はつけられていないからです。

そういうことで、遅延損害金はカットされてしまいます。
損保会社は、年5%の負担を免れるだけでも、かなりの出費抑制になります。

では、遅延損害金を損保会社に請求した場合、損保会社が払ってくれるかと言えば、そう簡単に払ってはくれません。
大多数が、遅延損害金カットで動いてしまっている現状で、示談という形では損保会社は遅延損害金を支払うということはしないでしょう。
つまり、法律上の手段をとらない限り、遅延損害金はカットされてしまうのです。
 





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五分?

2007年02月14日 | 交通事故民事
〈2020年4月に民法改正がなされており、遅延損害金の利率が変わっておりますが、改正前の記事として残してあります〉

 遅延損害金について引き続きお話しします。
 (遅延損害金がどのようなものかについては、前回を参照してください)。

 遅延損害金の意味がよくわからなかった方も、とりあえず次のことは押さえておいてください。
 
 交通事故の損害賠償金は交通事故の事故日から5%の利息のようなもの(正確には「遅延損害金」)が法律上はつく

 これだけ押さえておいていただければ、知識としては大丈夫です。
 弁護士など法律の専門家は「遅延損害金」というテクニカルタームを使用しますが、おおざっぱには「ああ利息のようなものか、それは5%で算定するんですね」ということを心の中で思えるようになれば、弁護士との会話は問題がなくなります。

 しかし、それでもわからない言葉がでてくることがあります。
 法律家は、5%ではなく、「5分」(ごぶ)という言葉を使いたがるからです。

 訴状か判決を見てください。
 冒頭のところで、こんな言葉がでてきます。
 「被告は、原告に対し、金**万円及びこれに対する平成*年*月*日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え」

 このうち、「平成*年*月*日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え」という部分が遅延損害金を表している部分です。

 上記の言葉は定型の言葉で、司法試験を通過し、司法修習生になりますと、上記の言葉が使えるようになるように訓練をうけます。
 したがって、法律家はこの言葉を当たり前のように使っていまいますが、今の時代、「5分」なんて言葉は使いませんので、みなさんにはわからなくなってしまうのです。

 プロ野球の打率を計算するのに、3割2分1厘といっていますが、その「分」と一緒です。ただ、現代用語で「分」を使うのはこの打率の言い方しか耳にしませんね。法律用語には古い日本の言葉が生き残ってしまっているのです。

 5分=5%です
 実はこれだけのことなのですが、「ごぶ」と言われてしまうとなんのことやらわからなくなっていますますね。
 法律家も気をつけなければなりません

 


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遅延損害金とは

2007年02月12日 | 交通事故民事
 このブログ、交通事故の損害賠償について書いていますが、いつまで続くかなあと思っていた時期もあります。
 弁護士の業務という枠なら、ほぼ無限にテーマがあると思っていましたが、交通事故の損害賠償というテーマだったら、そのうち書き尽くしてしまうのではないかなと思っていたからです。

 しかし、今となっては杞憂のようです。
 交通事故の損害賠償だけでも、ご説明したいことが山ほどあることが自分でもわかってきました(ブログに続けて書く気力があるかは別問題ですが・・・)。
 また、もうすでに説明したと思っていても、まだ全然説明しなかったことがあることもわかりました。

 そんなものの一つに、
「遅延損害金」(ちえんそんがいきん)
があります。

 交通事故の損害賠償金を算定するには、治療費や休業損害や逸失利益といったものを個別に計算して、それを足し算していくという方法をとるのですが、それを全部足したものを、損害賠償金の元金ということにしておきます。

 この元金、法律上加害者サイドはいつ支払わなければならないのでしょうかというと、
 交通事故の事故当日から
ということになっています。

 非常に不思議に思いませんか。
 治療費、休業損害、逸失利益それぞれの損害は、事故当日には算定できません。
 治療費は日々発生していきますし、休業損害だってそうです。

 しかし、法律では(というか実は最高裁の判例なのですが)、
  交通事故の損害賠償金は、交通事故の当日に支払わなければならない
としています。
 当然支払うことなんておよそ無理です。
 算定ができないのですから。
 そうすると、どうするかというと、事故当日から5%の利息のようなものをつけるのです。
 
 そうすることによって、支払うべきものを支払わなかったとういペナルティーのようなものを民事上課することになるわけです。

 このペナルティーのようなものを「遅延損害金」と呼ぶわけです。


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過失相殺基準本の使い方

2007年02月10日 | 交通事故民事
 過失相殺で「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本が、交通事故の損害賠償請求をする際にはよく使われていることは、前々回紹介しました。

前回は少々脱線して、これは本ではなくて、雑誌扱いであることを説明しました。

今回は、この本の特徴や使い方です。
この本は、事故態様ごとに図が入っていますので、その図のパターンにあいそうなものをあてはめていけばよいのです。
法律の本としては、わかりやすい方だと思います。
というのは、法律の本は、だいたい図が入っていませんから。
赤い本なぞ、すべて文字だけです。
というより、法律の本はすべてといってもいいくらい字ばかりです。

ただ、図がある、わかりやすいといっても、それですべてがわかったような気になってしまってはいけません。
まず、パターンがいろいろ書いてあります。
どのパターンにあてはまりそうなのか、それだけでもいろいろなところを見なければなりません。

また、事故態様ごとに「基本」の過失相殺と「修正要素」がかかれており、どの「基本」をあてはめたらよいのか、どの「修正要素」をどう考慮したらよいのかは、本をよく読まないと駄目です。

また、この基準本の基準自体が少しずつ変わっていっています。
これまでに4回、改訂されています。
その都度見直されるものもありますし、そのままのものもあります。

ですから、この基準本の基準を絶対視してはいけません。
法律家としては、あくまでも基準として、常に道路交通法という基本に立ち返って、さらに他の裁判例も検討することが必要と心がけています。

 実際の事例では、どのような交通事故態様だったか自体が争われる場合もあります。事実自体がゆれる可能性もありますから、そのような場合はもっと難しくなってきます。

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