南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

高次脳機能障害と認定されるためには 2

2006年04月29日 | 高次脳機能障害
 まず、第1の要件から見てみます。

 第1の要件は、「頭部外傷急性期における意識障害の程度と期間」というものです。
 これは、要するに、
 ”事故直後に意識障害の程度が深刻であれば、短時間であっても高次脳機能障害が疑われる、意識障害の程度が軽症である場合は、有る程度の時間意識障害が継続していなければ高次脳機能障害は認められない”
 というものです。

 具体的な基準としては、
 「半昏睡以上の意識障害(JCSで3桁か、またはGCSで8点以下)が6時間以上続くか、または、軽症意識障害(JCSが2から1桁、GCSで13から14点)が1週間持続、ただし、高齢者はこれより短くてもよい。」
ということになります。
 半昏睡やらJCSやらGCSと医学用語や略語が続くとそれだけで嫌になりますが、実はそんなに難しいことをいっているわけではありません。

 JCSというのは、意識障害のレベル(程度)を評価するのに、日本で多くの医療関係者が使用している基準(スケール)で
 ジャパン・コーマ・スケール(JCS)
の略です。

 JCSでは、意識障害患者を観察する場合、
  覚醒している(一桁)、
  刺激すると覚醒する(二桁)
  刺激しても覚醒しないか(三桁)
に大きく分けます。

 先ほどの基準だと「JCS3桁なら6時間以上」ということですから、これは
”刺激しても覚醒しない状態が6時間以上”
と翻訳することができます。

 GCSも同じような意識障害のレベルの評価方法です。
 これについては以前このブログでも書きましたので、ご興味のある方はそちらを参照してみてください(→こちら)。
 

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高次脳機能障害と認定されるためには 1

2006年04月27日 | 高次脳機能障害
 交通事故で高次脳機能障害を負ったことについてはどのような基準で認定されるのでしょうか。

交通事故による高次脳機能障害といえるためには
  1) 外傷の際に脳が傷つき
  2) 患者が訴える症状がその外傷によるものであること
が必要です。
 その判断基準としては、厚生労働省、自賠責などがそれぞれの基準案や基準を明らかにしていますが、ここでは自賠責の基準について見てみます。

 自賠責の高次脳機能障害の判断基準は次ののとおりです(吉本智信:「高次脳機能障害と損害賠償」p101参照)。

 1 頭部外傷急性期における意識障害の程度と期間
 半昏睡以上の意識障害(JCSで3桁か、またはGCSで8点以下)が6時間以上続くか、または、軽症意識障害(JCSが2から1桁、GCSで13から14点)が1週間持続、ただし、高齢者はこれより短くてもよい。

 2 家族や実際の介護者や周辺の人が気付く日常生活の問題。

 3 画像所見として、急性期における何らかの異常所見、または、慢性期にかけての局所的な脳萎縮とくに脳室拡大の進行。
 急性期は脳内の点状出血、脳室内出血、くも膜下出血であり、慢性期は事故後の画像と比較して限局性またはびまん性の脳萎縮または脳室拡大。

 4 頭部外傷がなく、あるいは頭部外傷があっても、ふだんの日常生活に戻り、その後数ヶ月以上を経て次第に高次脳機能障害が発現したようなケースにおいて、外傷による慢性硬膜下血腫も認められず、脳室拡大の進展も認められなかった場合には、外傷とは無関係に内因性の痴呆症が発症した可能性が高いものといえる。

 以下、それぞれの要件について説明していきます。

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高次脳機能障害5級の裁判例 2

2006年04月25日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害で5級、嗅覚障害・味覚障害で12級(併合4級)で労働能力喪失率85%を認めた裁判例が自保ジャーナルにのっていました(1632号5頁)。

 労働能力喪失率というのを何パーセントにするのかというのは、非常に難しい問題なのですが、「労働能力喪失率表」というものを厚生労働省が定めておりまして、この等級なら何パーセントというのが決まっているので、これを参考にして裁判では労働能力喪失率を出すことになっています。

 5級というのは、労働能力喪失率表では79%
 4級だと93%
 3級以上だと100%
になります。
 
 この裁判では、被害者側は高次脳機能障害は5級なのだけれども、労働能力は100%失われていると主張したのですが、裁判所は、4級と5級の中間の85%という値を認定しました。
 正に、足して2で割るという折衷的な判決ですが、判決によれば、「嗅覚障害・味覚障害は労働能力割合に影響は与えない」ということなので、高次脳は5級であるけれども、その程度が重いので79%という労働能力喪失率表そのものではなく、それを超えた喪失率を認めたと評価すべきかもしれません。

 なお、この判決、高次脳5級ですが、介護料日額2500円、介護者である妻の固有の慰謝料を200万円認めています。これも5級としてはなかなか珍しいことです。




 

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労災のアフターケアー制度

2006年04月23日 | 労働関係
 交通事故の民事の損害賠償請求では、症状固定後の治療費というものは、なかなか認められません。

 これは、症状固定前は治療の対象となり、治療費を原則として支払うが、症状固定後は後遺症の問題であるから、治療は原則として必要ないという考えに基づいています。

 もっとも、症状が固定しても治療が必要な後遺症というものは存在するのですが、それらについては相当の証拠を出さないと、症状固定後の治療費として認められないのが現状です。

 交通事故による傷害が労働災害の適用を受ける場合(例えば、通勤災害)は、症状固定後にもアフターケアー制度というものを労災が定めており、この適用が受けられれば、労災の方で治療費を支出してもらうことが可能です。

 このような制度があるのは、症状固定後も後遺症状が動揺したり、後遺障害に付随する疾病が発症したりするおそれがあるので、それらを予防するためです。
アフターケアーを受けられる病院は労災病院、医療リハビリテーションセンター、その他労災が指定した病院で、範囲が限られています。

 また、その医療範囲についても定められております。
 例えば、脊髄損傷の場合は、
  *診察は原則として1ヶ月に1回
  *処置は褥瘡処置と尿路処置で
  *検査は年1回程度
等と決まっています。

 アフターケアー制度については、労働基準監督署でパンフレットを配布していますので、詳細を知りたい方は、そちらをご覧下さい。



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カルテ・看護記録の略語・用語 2

2006年04月21日 | 未分類
 本日は脳外傷関係の略語です。

☆TBI=脳外傷
 traumatic brain injuryの略です。
 脳外傷と訳されます。
 脳外傷は高次脳機能障害となる原因のひとつです
 交通事故事件で問題となる高次脳機能障害はもっぱら脳外傷が問題となりますので、この用語は頻繁に出てきます。

☆DBI=広範性脳損傷 または びまん性脳損傷
☆DAI=広範性軸索損傷 または びまん性軸索損傷
 
 DBIは diffuse brain injuryの略で、広範囲の脳損傷を有するものをさします。
 このDBIのうち、軸索(神経線維のこと)を中心に広範囲の断裂や出血が見られるものをDAI(diffuse axonal injury)といいます。

 TBIやらDBIやらと似たような略語が続くと、何がなんだかわからなくなってきがちですが、
 TBIは脳損傷のこと
 DBIは、脳損傷の程度についての用語で、その程度がびまん性(この日本語がまた見慣れないのですが、多分広範囲にやられてしまっているということ)ということを示すものと理解しました。


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カルテ・看護記録の略語・用語 1

2006年04月19日 | 未分類
 カルテや看護記録を見ますと、略語だらけです。
医療関係者であれば、日常目にしたり、教育を受けるので自然とわかるようになるのでしょうが、そのような訓練を受けたことのないものには、チンプンカンプンというものが沢山あります。わかってしまえば、なーんだとなるのですが、そこに辿り着くまでが大変なのです。

*BP 又は Bp = 血圧
  Blood Pressure のそれぞれの頭文字をとったものでしょう。
  記載例:「Bp 130~140台」
  解説 :血圧には最高血圧と最低血圧がありますが、こう書いてあれば、最高血圧だけを記載したものと見るべきでしょう。意味としては「最高血圧が130~140台である」 となります。

*HR = 心拍数
  Heart Rate のそれぞれの頭文字をとったものでしょう。
  記載例:「HR80~90台」
  意味 :「心拍数が1分間に80~90台である」という意味になります。

*DIV= 点滴
intravenous injection by drip の略ということがカルテ用語のホームページに載っていましたが、これがどうしてDIVと略されるのかは不明です。
 記載例:「ソルメドロール30mg/kg 15min div」
 意味:「ソルメドロール(薬の名前)を患者の体重1キログラム当たり30mgの割合で、15分間点滴する」



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労災認定理由の開示

2006年04月15日 | 労働関係
 交通事故がおきた場合、被害者は多くは、加害車の車両の任意保険と接点をもつことになるわけですが、通勤の途中の事故であるとき等は、労働災害(労災)補償の問題も関わってきます。

 後遺症が残った場合、労災でも後遺症認定をしますが、自賠責の認定とは全く別のルートで行っています。自賠責は自賠責で認定を行い、労災は労災で認定を行うことになります。

 それぞれ別個の立場で調査をし、認定をしますので、自賠責では7級認定だったのに、労災では5級認定だったというように、労災の方が等級がいい場合や、あるいはその逆ということもありえます。

 自賠責では認定理由について書面で欲しいと要求すれば、簡単に手に入りますが、労災の場合は書面での認定理由の開示を、拒まれることもたびたびでした。
被害者の方が労災に認定理由を聞きに行くと、口頭では丁寧に教えてくれるのですが、書面で欲しいと要求しても、これを拒まれることがしばしばありました。
しかし、保有情報の開示を求めることは、本来個人の権利ともいうべきものであり、口頭では開示するが、書面では開示しないという扱いは、妥当ではないと思います。
 法律上も「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」というものがあり、それにより開示が行われるべきです。(同法18条1頁)

 労災もようやく末端にまでそのことが徹底されたのか、最近は保有情報の開示を、書面でするようになりました。

 ある被害者に開示されたものは
・障害認定調査結果復命書
・医師の意見書
でした。
 
 この「障害認定調査結果復命書」というのは、調査官のレポートで
・ 災害の概要(交通事故の場合は事故状況)
・ 療養の経過
・ 調査記録、調査内容
・ 調査官の意見
が記載されています。

 これを見れば、労災側がどのような調査をし、どのような事実を認定して、等級を認定するに至ったかがわかります。

 もっとも、これらが全て開示されているわけではなく、意見を記載した医師の氏名、住所等は黒塗り(非開示)とされていました。
これは「行政機関の保有する保護情報の保護に関する法律」が開示を請求する者以外の、特定の個人を識別できる情報は、非開示とすることができると、記載しているからです。(14条)

 一番知りたいことがわかれば、黒塗りをされても気になりませんが、一番知りたいところが黒塗りされているときは問題です。この場合は、異議を申立てる道が残されていますので、その手続きを取る必要があります。




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介護料

2006年04月13日 | 未分類
 自動車保険ジャーナルに、比較的高額な介護料を認めた裁判例が載っていましたので紹介します。

☆大阪地裁 H17.9.8判決(自保ジャーナル 1629号2頁)
○ 介護者である妻が67歳になるまで
→1年のうち240日は日額2万円、125日は日額8000円
○ 介護者である妻が67歳となった以降
→日額2万円
 高次脳機能障害、排泄障害で1級3号の後遺障害を残したケースです。
被害者が日常生活に車椅子が必要であること、介護ベッドを使用していること、リハビリパンツを使用していることはわかるのですが、それ以上の詳細は自保ジャーナルが一部判決を省略してしまっているためわかりません。

☆ 大阪地裁 H17.9.27判決(自保ジャーナル 1630号3頁)
○ 介護者である妻が67歳になるまで
→日額1万円
○ 介護者である妻が67歳となった以降
→日額1万5000円
四肢麻痺、失語症等で1級3号の後遺障害を負った事案ですが、それ以上の詳細はわかりません。

☆ 大阪地裁 H17.9.21判決(自保ジャーナル 1630号7頁)
→月~土は、日額1万7000円(職業付添1万4000円+近親者付添3000円)日曜は、近親者付添日額8000円
脊髄損傷で四肢麻痺1級1号の認定を受けた事案です。被害者の介護としてどのようなことがされているのかを、判決文で認定しており参考になります。
実際に週6回職業付添人を午前8時から午後7時まで受けており、その費用が日額2万3000円~2万8000円かかっているというのも、このような高額な介護料を認める理由になっていると思います。



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間接損害

2006年04月11日 | 未分類
 例えば、交通事故で小学生の子どもを失い、しかも母親はその事故を目前で見ていて、精神的に打撃を受け、以後仕事をするにも差し障りがあるような状態になった場合、交通事故の加害者に、母親が休業損害や後遺症による逸失利益を、請求できるでしょうか。

 実際に、上記のようなケースで母親がPTSDを発症したとして、裁判になったものがあります。(東京地裁 平成15年12月18日 判決交通民集36巻6号1623頁)

 結論としては、母親の休業損害や、後遺症による逸失利益は認められない、慰謝料のみ認めるという判断となりました。

 その理由としては、母親は交通事故の直接の被害者ではない。母親が被った損害は、事故により直接生じたものではなく、二次的、間接的なものだというのです。
このような二次的、間接的な損害を間接障害といい、裁判所は間接障害については、被害者の近親者の慰謝料請求は認めるが、そのほかは原則として認めないという態度をとっています。

 それもあってか、このケースでは母親は、自分がPTSDであるという主張をしていたのですが、裁判所はPTSDかどうかは判断しない、端的に母親の精神的打撃がどのようなものかを、判断すれば足りるとしました。
その上で、

母親の慰謝料  600万円
父親の慰謝料  200万円

と判決をしました。(別に、被害者本人の慰謝料が1800万円認められています)

 両親の慰謝料が異なるというのは珍しいですが、母親が交通事故を目撃して、ことのほか精神的打撃を受けており、仕事が出来なかった時期があることを、考慮してのものと思います。




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PTSD 4

2006年04月09日 | 未分類
PTSDにはあたらないと判断されても、後遺症が全く認められないというわけではありません。
PTSDにはあたらないというのは、あくまでも民事の裁判上のことであり、医師がPTSDと診断したような症状は残っているからです。

東京地裁の裁判例でも「原告の症状はPTSDには該当しないが、その神経症状は本件事故を原因とする外傷性の神経症であり、労働能力喪失率は5%である。」としています。(もっとも、その期間は10年で素因の為に20%減額するとしていますが)

原告は、自分がPTSDであって、9級相当(労働能力喪失率35%)と主張していたので、それより大分低くなってしまいましたが、全く認められなかったというわけではない結論となりました。



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