南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

家事労働について考える

2009年05月07日 | 後遺症による逸失利益
 交通事故により、被害者が後遺障害を負ったり死亡した場合は、逸失利益を損害賠償として請求することできます。
 後遺障害の場合は、
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
という式になります。
 ここで「基礎収入」とあるのは、会社の従業員であれば、基本的には交通事故の前年の収入であることが多い(個別ケースによって違いますが)です。

 では、被害者が主婦の場合はどうでしょうか。
 主婦は、主婦をしていること自体では収入をえていません。

 つまり、主婦業(家事労働といった方がよいのかもしれませんが)、は、”アンペイドワーク(無償労働)”であるわけです。

 主婦が被害者の場合は、
”賃金センサスの女子労働者の全年齢平均賃金”
を基礎収入とするというのが多数の裁判例です。

 無償労働ではあるわけですが、それなしでは、生活が立ち行かないという意味で労働であることには間違いがないのですが、家事労働をどのように収入として評価するかというのは非常に難しいため、女性の平均賃金で考えましょうということになっているのです。

 ところで、逸失利益があるというためには、
  現実に労働ができなくなり、対価が支払われなくなったこと
を被害者側が立証するのが基本です。

 たとえば、会社員の場合は、後遺障害を負ったから、収入があがらなくなったということを立証していけばよいのですが、では、主婦の場合は、どうかというとなかなか難しい問題があります。

 主婦の場合、何がどこまでできなくなったといえるのかが、外からはわかりにくいからです。
 
 たとえば、家事労働の一部として、ごみを捨てるということがありますが、それをざっと考えただけでも次のようになります。
 家事労働は考えてみると多岐にわたるのですが、これらを細かく立証していかなければならないとなると、なかなか骨が折れる作業ということになります。


<家事労働としてのごみの処理>
生活を続ければごみが発生する。
このごみの後始末をつけなければならなない。
そのためには、
・ごみが家庭内で出た場合、どこに捨てるかを決め、実行する(この実行するには家事労働を行うもの自身が行うほか、家族との間で役割を決めて家族に実行させることも含む)。
(具体的には、ゴミ箱を買ってきて、家庭内でどのごみはどのように捨てるかを決める)
・上記のことは、ごみの分別の問題とも絡み合うので、自治体ごとに違うごみの分別の仕組みを理解する必要がある。どのごみを自治体が回収してくれるのか、回収してくれるとして無料なのはどこまでか、自治体が回収してくれないものはどの範囲か、その場合はどのようにそのごみを捨てるのか
・また、ごみの収集日は、分別されたものごとに違うので、これらをも踏まえてごみをどのように捨てるかという計画を立て、実行する。
・自治体が回収するものでも有料ごみについては、支払いの手間があるので、その手続きを行う必要がある。
・自治体において回収されないもの(たとえば、エアコン、テレビ、洗濯機などの家電製品)については、その回収先を選定し、回収手続きを進める
・注意すべきは、ごみは毎日生じるものであり、それらを効率的に捨てないと、悪臭が発生するし(たとえば、生ごみ)、はなはだしい場合は健康にも害を与える可能性もある。
 よって、ごみの回収について、家事労働を行うものは、毎日配慮を行う必要があるし、自治体によって決められている回収時刻などの所定の手続きを守ってにごみを出すことを忘れずに実行する必要がある。


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後遺症による逸失利益9(最後に)

2005年12月27日 | 後遺症による逸失利益
これまで後遺症による逸失利益の問題を簡単にご説明してきました。
 後遺症のケースは、当たり前のことですが、後遺症自体の理解が必要です。
 ところが、後遺症の認定というのは、すぐれて医学的問題であると同時に、また法律の問題でもあります。
 医師には医学のことはわかりますが、法律のことは疎い方が多いです。
 法律家は法律のことはわかっても、医学のことはわからない方が多い。
 このギャップに被害者の方ははさまってしまっているときがあります。
 これを解決するには、後遺症の問題自体を解決しようとする、医師、法律家及び被害者のネットワーク化です。
 もっとも、そのようなものがほとんどない現時点においては、被害者は自分自身の努力で医師と法律家の協力を得て、適正な後遺症を認定され、適正な賠償を勝ち取るようにしていかなければならないと思います。
 
 今回で「後遺症による逸失利益」の連載は終わります。
 年末年始はこのブログはお休みをいただき、新年は1月4日から再開する予定です。
 本年中はありがとうございました。
 また、来年もよろしくお願いいたします。

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後遺症による逸失利益8(労働能力喪失率)

2005年12月25日 | 後遺症による逸失利益
 労働能力喪失率は、基本的には自賠責保険で定められた労働能力喪失率の表によるのですが、例外もありうるということを前回指摘しました。
 その例外について今回は説明します。
 例えば、「男子の外貌に醜状を残すもの」は自賠法上は14級と定められています。
 14級の後遺症は労働能力喪失率5%です。
 ところが、すべての男性被害者がこの外貌醜状で労働能力を喪失するかというとそうもいえないのです。
 例えば、お客さんと接するような仕事であれば、その分不利になる可能性が題ですから、労働能力の喪失あるといえますが、そうでないような仕事ー公務員で内勤の場合ーに労働能力を喪失するかというと、これは(もちろんケースにもよりますが)否定的に考えられる場合が多いのではないでしょうか。
 このように、労働能力の喪失というのは、被害者がどのような仕事についているのか等の要素によって判断が異なってくるといえます。
 赤い本でも、「労働能力喪失率表を参考にするが、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼動状況等を総合的に判断して具体例にあてはめて評価する」としており、ケースバイケースで判断すると述べているのです。
 裁判所ではこのように判断するので、裁判に訴える場合は、このような反論を受けやすい後遺症なのか否かを吟味しておく必要があるということになりましょう。

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後遺症による逸失利益7(労働能力喪失率)

2005年12月24日 | 後遺症による逸失利益
後遺症による逸失利益は、
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
という式で出すことについては、すでに何回か触れています。
 これまでに、「基礎収入」と「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」について説明してきました。
 最後に、「労働能力喪失率」についてお話していきたいと思います。
 労働能力喪失率というのは、労働能力をどのくらい喪失したのかという割合のことで、
 %
で表します。
 自賠責保険では、後遺症の等級というものを1級から14級まで定めており、それぞれについて、労働能力喪失率を何%とするかが定められています。
 1級から3級 100%
 4級     92%
 5級     79%
 6級     67%
 7級     56%
 8級     45%
 9級     35%
 10級     27%
 11級     20%
 12級     14%
 13級      9%
 14級      5%
 自賠責保険で上記の等級を認定されれば、任意保険会社との話し合いでは基本的には、それぞれの等級に対応する労働能力喪失率で話し合いが進むことになります。
 もっとも、例外がないわけではありません。
 その理由については次回にお話します。



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後遺症による逸失利益6(主婦)

2005年12月23日 | 後遺症による逸失利益
 主婦の場合はどうでしょうか。
 主婦は、収入をえているというわけではないのですが、「家事という労働に従事している」という考え方で、逸失利益が認められます。
 家事労働をどのように評価するかというのは非常に難しいため、
”賃金センサスの女子労働者の全年齢平均賃金”
を基礎収入とすることにしています。

 それでは、仕事をしながら家事労働もしている女性の場合はどうなのでしょう。
 この場合、
  仕事の給料+賃金センサスの全年齢平均賃金
となりそうですが、違います。
 赤い本では、
 「仕事をもっている主婦は、
  仕事の給料>賃金センサスの全年齢平均賃金
であれば、仕事の給料で計算し、
  仕事の給料<賃金センサスの全年齢平均賃金
であれば賃金センサスの全年齢平均賃金で計算する。
 仕事の給料+賃金センサスの全年齢平均賃金という考えはとらない」
としていますし、裁判例でもそのような流れです。
 このような考えが妥当なのかどうなのかは問題もあるところですが、現状はこのような流れになっており、仕事をもちながら、主婦業もしている女性にとっては、家事労働分が評価されないことになるので、不満を持たれる方も多いのではないかと思います。
 女性裁判官が今よりも多くなれば、この点は変わってくるのでしょうか。
 今後に期待したいところです。 


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後遺症による逸失利益5(サラリーマン)

2005年12月22日 | 後遺症による逸失利益
 サラリーマン(給与所得者)の場合は、基礎収入はどうなるのでしょう?
 赤い本には、「原則として事故前の収入を基礎とする」とあります。
 サラリーマンは、既に働いて実績があるので、その実績を重視するということでしょう。
 多くの場合は、事故の前の年の源泉徴収票に基づいてその収入を基礎収入とします。
 それでは、働き始めたばかりの人は賃金が低いので、不利ではないかという疑問がわきますが、この場合は、この間ご説明した賃金センサスの平均の値やることが認められます。
 赤い本にも「現実の収入が賃金センサスの平均額以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、それを認める」と記載されているのはその意味です。


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後遺症による逸失利益4(基礎収入)

2005年12月21日 | 後遺症による逸失利益
後遺症による逸失利益は、
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
という式で出すのですが、前回までは「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」についてお話ししました。
 今回は、「基礎収入」について取り上げます。
 この「基礎収入」というのは、逸失利益を計算する上で、どの金額をベースに計算するのかということです。
 これには被害者によって色々なケースがありえます。
 まず、
  ”交通事故の当時まだ学生だった”
という場合がありますね。
 この場合、働いていないわけですから、どのように基礎収入を算出するのかというのは本当は難しい問題です。
 裁判例上は賃金センサスというものを利用することにしています。
 賃金センサスというのは、厚生労働省が作成している統計なのですが、このうち裁判例でよく使用するものについては、「赤い本」などに登載されています。
 男性の学生であれば、男性の全年齢平均賃金
 女性の学生であれば、女性の全年齢平均賃金
の値を使用するということになっています。
 大学生の場合は、男女それぞれの大学卒の平均賃金というものがあり、これが全年齢平均賃金よりも高いので、こちらを基礎収入として使用する方が逸失利益としては有利になるので、通常そちらの方を基礎収入として請求することが多いようです。


 
  

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後遺症による逸失利益3(ライプニッツ係数)

2005年12月20日 | 後遺症による逸失利益
 昨日までで労働能力喪失の始期と終期をお話しました。
 なぜ、このようなことが必要なのかというと、
”労働能力喪失期間”
を出さなければならないからです。
 後遺症による逸失利益は、
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
という式で出しますと第1回で申し上げましたが、この
”労働能力喪失期間”は、
 労働能力喪失の終期ー始期
という式で出されますので、終期と始期をしっかり抑えておく必要があるのです。
 
 そこで、本日は、ライプニッツ係数について説明します。
 逸失利益の計算で出てくるライプニッツ係数を簡単に説明しますと、
  ”被害者のもらいすぎを防ぐために、一定の数をかけるもの”
ということになります。
 ライプニッツ係数を理解するためには、「中間利息の控除」という考え方への理解が必要です。
 例えば、事故当時60歳、年収600万円の被害者が事故に遭って後遺症を負い、100%働けなくなったとします。
 裁判所では、67歳まで働けると考えますので、単純に
 600万×(67-60)=4200万円
と逸失利益を考えるとこれは間違い。
 なぜかというと、年収600万円の人は、
 60歳時 600万円
 61歳時 600万円
 ・・・
 67歳時 600万円
と本来もらえたわけですが、これと
 60歳時  4200万円
一挙に得ることとは、同じではないからです.
 なぜなら、60歳時に4200万円もらえれば、その後運用ができるわけで、その運用利益分被害者が得をしてしまうことは、適切ではないだろうと考えているのです.
 そうすると、その運用利益分を差し引かなければなりませんが、これを「中間利息の控除」といい、何%で控除するのかが争われてきました。
 従来、裁判所は、民法に5%という規定があることから、5%で計算してきました.
 しかし、この低金利のご時世で5%はあまりにも被害者に不利に割り引いているのではないかとの声があがり、一部の裁判所は2%~4%の判決を出していました。
 最高裁は、これを「5%とする」と判決し、決着がついてしまいました。
 ライプニッツ係数はこの中間利息の控除をするための係数で年利5%で中間利息を控除される値となっています。

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後遺症による逸失利益2(労働能力喪失の始期)

2005年12月19日 | 後遺症による逸失利益
 昨日は、”逸失利益の計算で、人は67歳まで労働できることになっている”ということをお話しました。
 これだと、67歳以上の人は逸失利益はないのか?との質問が出そうですが、67歳以上の人の場合も逸失利益は計算されます。
 ただ、この話をしだしますと、また複雑になってきてしまいますので、ここでは67歳以下の人を対象に
 ”逸失利益の計算で、人は67歳まで労働できることになっている”
というルールを覚えていただきたければと思います。

 さて、本日は、いつから労働できると考えるかです。簡単にルール化しますと、
”その人が働く可能性が高い時期から”
ということになります。
 これでは抽象的過ぎるので、もう少し具体的にいいますと、
 ”交通事故にあった時期が18歳以下→18歳から”
 ”交通事故にあった時期がそれ以上→交通事故にあったときが原則だが、例外もある。”
となります。 
 まず、18歳以下のケースから。
 例えば、10歳の小学生が交通事故にあって、後遺障害を負ったとします。
 この場合、いつから労働を開始すると考えるのかが問題となりますが、通常の裁判官は、「高校を卒業したら働く可能性が高いな」と考えて、高校卒業時の年齢=18歳から労働できると考えます。
 つまり、10歳で後遺症を負っても、10歳から18歳までは労働はできないのだから、労働能力を喪失したことにはならないと考えるわけです。
 上記のルールで、18歳以下のケースについてはおおむね解決できると思います。 

 18歳以上のケースで、交通事故にあったのが、すでに就職した後であったという場合は、交通事故にあったときから労働できると考えます。
 では、例えば、20歳の大学生が交通事故にあって、後遺障害を負った場合はどうか?
 この大学生が大学在学期間中、全くバイトをしないと仮定しますと、裁判官は、「大学を卒業したら働く可能性が高いな」と考えますので、22歳から労働できると考えると思います。
 このような場合は例外で、個別具体的にその人がいつから働く可能性が高いかを考えるほかありません。
 

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後遺症による逸失利益1(労働可能時期)

2005年12月18日 | 後遺症による逸失利益
 損害の中でも治療費のように実際に支出したものというのは、支払ったものをその分損害賠償として請求すると考えればよいので、非常にわかりやすいですが、実際の支出を伴わないものについては、わかりにくいものがあります。
 後遺症による逸失利益はその代表的なものだと思いますし、この点についてよくご相談を受けるので今回の連載で取り上げてみたいと思います。
 まず、後遺症というのは、怪我の治療をしたが、これ以上治療を加えても治療効果がないにもかかわらず、障害が残る場合をいいます。
 後遺症が残った場合で労働能力が喪失していれば、後遺症による逸失利益を請求できるわけです。
 どうやって計算するのかといいますと、
   基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
という式になります。
 これだけでは何のことかわからないと思いますので、例で説明します。
 今、仮に年収1000万円の50歳のサラリーマンが交通事故の被害者となり、労働能力喪失率100%つまり、全く働くことができないという後遺症(例えば、遷延性意識障害=いわゆる植物状態)の後遺障害が残ったとします。
 この場合は、
  1000万円×100%×11.274=1億1274万円
が逸失利益となります。
 11.274という数字ですが、これは17年という年数に対応するライプニッツ係数です。
 17年という数字は、裁判例上は、人は67歳までは労働することが可能であるという前提になっておりますので、
 67歳ー50歳=17年
という計算をするのです。
 いきなり、色々な式が出てきてしまいましたが、本日つかんでおいてほしいことは次のことです。
 ”逸失利益の計算で、人は67歳まで労働できることになっている”
 あとのことは次回以降にまた説明していきたいと思います。

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