南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

介護料と中間利息の控除

2018年02月26日 | 遷延性意識障害

【はじめに】
 交通事故の後遺障害が残るケースの損害賠償の計算では、「中間利息の控除」というものが出てきます。
 このような考え方に馴染みのない方も多いので、今回は介護料をもとに「中間利息の控除」とはどのようなものかを説明していきます。

【事例】
例えば、60歳で症状固定となり、平均余命が20年で、年額300万円の介護料がかかる後遺障害を負ったケースを考えてみましょう。

【一般的な感覚での計算が違う理由】
請求できる介護料を求めてくださいというと、多くの方は次のように考えるのではないでしょうか。
300万円×20年=6000万円

しかし、このような計算は損害賠償の計算として間違いとされます。
その理由は損害賠償が通常は一時金として請求される、つまりいっぺんに介護料を請求できるからです。

【中間利息を控除する理由】
もう少し詳しく見てみましょう。
 介護料は次のように支払われますね。
 1年目 300万円
 2年目 300万円
 ・・・
 20年目 300万円
しかし、損害賠償を一時金で受け取るとすると、
 60歳時 6000万円
となりますが、このお金は運用できて利息を得ることができることから、その運用利益分被害者側が得をしてしまうことは、適切ではないだろうという考え方です。
 この運用利益分を「中間利息の控除」といいます。

【中間利息とは何%?】
この中間利息は5%で計算されてきました。
なぜ5%かといいますと、民法に5%を遅延損害金とするという規定が存在するからです(法定利息)。
 しかし、この低金利のご時世で5%はあまりにも被害者に不利に割り引いているのではないかとの声があがり、一部の裁判所が2%~4%の判決を出したこともありました。
 しかし、最高裁が平成17年6月14日の判決で中間利息は年5%とすると決めてしまいましたので、今ではこれに反する裁判例がでる余地はなくなっています。


【5%で中間利息を控除すると設例はどうなるか?】
 5%で中間利息を控除すると設例の事案では介護料はいくら請求できることになるでしょうか?
 中間利息を控除するには、特殊な係数(ライプニッツ係数)を掛けて算出します。
 5%で20年のライプニッツ係数は12.46221
です。
計算は次のようになります。
300万円×12.46221=約3738万円
単純に掛けると6000万円だったものが、3800万円以下になってしまいます。これが中間利息控除の効果になります。
損害賠償請求で将来のものを請求する場合(逸失利益等)は同じような問題が生じます。


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簡裁で受付けても地裁に移送されることがあります

2018年02月16日 | 未分類
【はじめに】裁判所というのは、地裁やら家裁やら簡裁やら、そのほかに高裁や最高裁まであって、なんでこんなに分かれているのかと不思議に思われる方もおられることかと思います。

これを全部説明しているといくら時間があっても足りませんので、本日は地裁と簡裁についてお話しします。
地裁の正式名称は地方裁判所、簡裁の正式名称は簡易裁判所です。

【地裁か簡裁かは請求額によります】裁判を起こす(訴訟を提起する)のに地裁なのか簡裁なのかというのは、請求金額によって決まります。

 被告に請求する金額が
  140万円以下→簡易裁判所
  140万円を超える場合→地方裁判所
です。

それでは140万円以下の金額、例えば30万円とか50万円の請求だったら簡裁で最後まで面倒を見てくれるかというと、これがそうとも限らないからややこしい話です。

【簡裁の得意分野】
これは簡裁が得意とするものと、不得意とするものがあるからです。

簡裁の得意なものとして、貸金の請求事件
があります。今ても簡裁で一番多い事件は貸金請求事件ではないでしょうか。

貸金業者からの取り立てのための請求を代表格として、貸金請求事件は簡裁が最も多く受付けるものの一つです。

交通事故事件も簡裁の守備範囲です。
140万円以下の請求に限られますから、人身事故よりも物損事故の割合が多くなります。
「わかりやすい物損交通事故紛争解決の手引」という本が民事法研究会というところから出版されているのですが、著者は簡裁の裁判官です。

【簡裁は事件を地裁に移送することができる】
それ以外の事件となると、簡裁はあまり得意ではないらしく、簡裁で判断するのを嫌がります。

裁判官が判断を渋るということを不思議に思われる方もあるかもしれませんが、簡裁の裁判官に味方する規定が民事訴訟法にはちゃんとあるのです。

(簡易裁判所の裁量移送)
簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる(民事訴訟法18条)

法律の条文というのはどうも読みにくいものですが(20年以上弁護士をしていますが、未だ条文の取っ付き憎さには辟易しています)、つまりはこういうことです。
「簡裁の裁判官が『相当』と思ったら、地裁に移送して良いよ」

これはまた随分簡裁に甘い規定ですが、結構活用されています。

【地裁に移送される事件の例】
例えば、労働法に絡む事件。損害賠償請求といっても、交通事故のような件数の多いものではなく、典型的でないもの。

このような事件については、ある程度審理を進めて、和解ができそうにないなと思ったところで、伝家の宝刀を抜いて地裁に移送するというのが簡裁の手法です。

地裁に移送されますと、地裁の担当の裁判官が決まり、そこでまた審理が始まります。

このように簡裁で全てやってもらおうと思っても、簡裁裁判官が地裁に移送するということがありますので、注意が必要です。

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年度末、年度初めは裁判所の期日が入りにくい

2018年02月15日 | 未分類
【年度末、年度初めは期日が入りにくい】
裁判所の期日というのは、1ヶ月ごとに設定されます。
例えば、2月1日に期日があると、その次の期日は3月の上旬ころという感じです。

ところが、裁判所の都合で期日が入らない、入りにくいという時期があります。その一つが年度末~年度初め(3月下旬~4月上旬)です。

この時期に入りにくいのは、裁判所で人事異動があるからです。

民事訴訟に直接影響があるのは、裁判官と書記官の異動です。
裁判官の異動と書記官の異動は基本的には4月に行われます。

【裁判官の異動】
裁判官の異動の目安は3年です。
もちろん3年以上という方もいますが3年位経つと、この裁判官はそろそろ異動かなと思ったりします。

裁判官がどのような異動歴をもつかは
 新日本法規の裁判官検索
というサイトがありますので、私はいつもこれで裁判官の異動歴を調べています。

 異動の予定のある裁判官は、3月末から4月上旬にかけて引っ越しの手続きをしなければなりませんし、事件の引継の準備もしなければなりません。
 異動先では、係属している事件を引き継がなければなりません。
 異動してきた裁判官は、その事件の記録を一から読んで、頭にいれなければなりませんから、赴任してきてからすぐに法廷というのをいれることができません。
 それで大体4月の最初の2週間程度は期日が入りません。

【書記官の異動】
裁判官が異動しなくても、書記官の異動はあります。
裁判官と書記官のペアは1年、長くても2年のようですね。 
書記官も全ての事件記録に目を通す必要がありますから、異動時期前後は非常に忙しいのではないかと推察しております。

【2月下旬の次の期日は4月になってしまうかも】
2月下旬の次の期日というのは、1ヶ月後ですと3月下旬になりますから、期日が入らない可能性が高くなります。
そうすると、4月中旬から下旬の期日ということになります。
まだ、2月中旬ですが、そろそろ年度末、年度初めを意識する季節になってきたなと思います。

まだまだ寒いですが、季節は春に向かって進んでいます。





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法務省が共有私道についてガイドライン作成

2018年02月03日 | 民事訴訟

法務省が 共有私道の 保存や管理に 関する問題をまとめたガイドラインがでました。
報道でも取り上げられていましたね。

ガイドラインは法務省のホームページで公開されています。
全体で126ページ(!)あり、PDF ファイルですので PDF ファイルのに入る前の ページをリンクで貼っておきます ます。

法務省のホームページ


正式な名称
⇒複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書 ~所有者不明私道への対応ガイドライン~

どうしてこう法律家の名付ける文書名というのは難解かつ長たらしいのでしょうね。

こんな名称では読もうとする気を削ぐためにあるのか!とすら思ってしまいます。

副題の方だけ理解しておけば十分です。
「所有者不明 私道への対応ガイドライン」

この「所有者不明」というのが ポイントですね 。「所有者不明」といえば、所有者不明土地。これをどうするかは今の日本で大きなテーマです。

これまで所有者不明土地については 総務省サイドに 押され気味で 法務省としては目立った成果がなかったような記憶ですが、今回は共有私道における、所有者不明土地について法務省としてきちんと対策を立てましたというアピールをしてきたように思います。

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弁護士がインフルエンザになったら期日はどうなるか(民事事件の期日変更)

2018年02月01日 | 未分類
今年もインフルエンザが大流行しています。

弁護士も風邪もひけば、インフルエンザにかかるときもありますので、そのようなときに裁判所の期日は どうなるのか? について 本日はお話しいたします 。

結論からいいますと、民事事件の期日を変更してもらうことで対処することが可能です。


民事事件の期日は 、一定の要件を満たせば変更することができます。

法律では次のように規定されています。

「口頭弁論及び弁論準備手続の期日の変更は、顕著な事由がある場合に限り許す。ただし、最初の期日の変更は、当事者の合意がある場合にも許す(民事訴訟法93条3項)。

この規定の意味は次のとおりです。
1 最初の期日変更 、つまり期日の変更が初めての時は当事者の合意があれば裁判所も期日の変更を認めますということ。

2 しかし2回目以降 については、当事者の合意があっても 期日の変更は「顕著な事由」がないと 裁判所は認めませんよとなっています。

このように規定されているのはの 、当事者が馴れ合いで期日変更を繰り返し、 裁判所の処理が遅滞するのを避ける ということにあります。

ですので、最初の1回目の変更は仕方ない、当事者の合意があれば変更は認めてあげるけれども、2回目以降は厳しくしますよというのが法律の立場なわけです。

弁護士がインフルエンザにかかった場合は 、医師から外出の禁止を指示されますので まず相手方も同意してくれますし、同意がなくても「顕著な事由」に当たるものと考えられます。


法律の鬼ではないので、 このように期日の変更という弾力的な運用が可能となるような規定が入っています。

これまで述べてきたのは民事事件の期日変更ですが、刑事事件は民事事件よりも 期日の変更が認められにくいです。

刑事事件は裁判員裁判もあり、そう簡単に期日変更が認められてしまうと民事事件のときよりも広範囲に影響が生じてしまうということがその理由です。

そういう意味で 刑事事件の弁護士(弁護人)を務めるのは 体力が必要ですし、体調管理がより一層 求められることになります。民事事件の場合は 刑事事件ほどではありませんが 、依頼者に 迷惑をかけてしまうのは間違いないことですので やはり体調管理には 気をつけないといけません。



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