南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

夷隅事件と予審終結言渡書

2021年07月30日 | 歴史を振り返る
(夷隅事件とは)
 千葉県いすみ市というと、最近は都会からの移住先として注目されていますが、明治時代は自由民権運動の盛んであったところであり、以文会という結社がありました。明治17(1884)年11月以文会の幹部ら12名を爆裂弾製造の容疑で拘束した自由民権運動への弾圧事件が夷隅事件です。

(夷隅事件予審終結言渡書)
 夷隅事件の予審終結言渡書(明治18年1月31日付)が「夷隅町史資料集」に収められています。
 同資料集の見出しは、「夷隅事件予審調書」としていますが、予審調書と予審終結言渡書とは別物ですので、この見出しは正確ではないでしょう。


(夷隅事件の公訴内容)
公訴を提起され、被告人とされたのは次の12名です。
井上幹、松崎要助、河野嘉七、岩瀬武司、吉清新次郎、久貝潤一郎、石井代次、田中恒次郎、高梨正助、君塚省三、中村孝、田辺庸吉
公訴を行ったのは、千葉始審裁判所詰検事補の磯好道及び山本辰六郎。
公訴内容は、
①被告人らは、官許を得ずに、破裂薬を製造した
②被告人らは、官吏である戸長の職務に対し侮辱をした
③被告人吉清新次郎及び松崎要助は、軍用の銃砲を所有した
というものでした。

(予審の結果)
予審は、辻淡千葉軽罪裁判所予審判事補が担当しました。
辻淡裁判官の判断は次のとおりです。
①の破裂薬製造罪については、被告人ら全員について、犯罪を起こしたとする証拠は不十分。
②の官吏侮辱罪については、被告人のうち8名(井上幹、松崎要助、河野嘉七、吉清新次郎、久貝潤一郎、岩瀬武司、石井代次、田中恒次郎)が行ったことは証拠十分であるが、その他の被告人についてはそのような行為を行っていないものもあるし、証拠が十分でない。
③の銃砲所有については、被告人吉清新次郎及び松崎要助が犯罪を行ったことは証拠十分である。
 被告人らは、爆裂弾製造の容疑で拘束されたのですが、この容疑については証拠は不十分で免訴とされています。

(判決)
 明治18年4月20日に、千葉軽罪裁判所にて、被告人ら8名について、重禁錮4月罰金10円の判決が言い渡されました(夷隅町史通史編)。
 予審終結言渡書は史料として残っているので、夷隅町史資料集に収められているのですが、判決は残存していないようであり、夷隅町史通史編では、朝野新聞を判決の史料としています。
 同書では、「明治18年11月1日、4か月の服役の後、井上幹ら8名は東京鍛冶橋監獄署を出獄した。」とするのですが、4月に判決でそのまま服役していたら11月出獄は計算があいません。控訴をしたのか、又は罰金を払わずに、労役上留置とした関係で出獄時期が11月になったという可能性がありますが、この点は明らかではありません。

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身元引受(身柄引受)のルーツは治安維持法時代にあり

2021年07月26日 | 歴史を振り返る
(身柄引受とは)
 刑事事件では、身柄引受書というものを書くように親族の方等に要請されることがあります。 この身柄引受書というもの法律上に根拠のあるものではありません。ですから、身柄引受書(身元引受書)について、厳密にどのような意味を有するのかは、実は曖昧です。
 インターネットを見ると、弁護士が書いているものでも、身柄引受人・身元引受人の定義は一定しません。「一般的には責任をもって身柄を引き受ける人」をいうとするものもあれば、「身体拘束を受けている被疑者や被告人が罪証隠滅行為や逃亡しないよう監督を期待されている人」とするものもあります。

(身元引受・身柄引受の根拠は治安維持法の運用にあった)
このような定義がはっきりしない、甚だ曖昧なものが、なぜ必要とされるのか、長らく疑問に思っていました。 最近ある本を読んだところ身元引受がなぜ必要とされるのかが分かりました。
その本とは、「証言治安維持法」( NHK出版新書)です。

(目的遂行罪新設での検挙者数の増大)
治安維持法は、1925年に制定された法律で、元々は国体を変革し又は私有財産制度を否認することを目的とした結社を取り締まる法律でした。直接的には、共産党を取り締まる目的です。
 その後治安維持法は改正を重ねており、その中で目的遂行罪という犯罪類型が加わりました。この目的遂行罪は、治安維持法が規制する結社に所属していない人でも、その目的を手助けする何らかの行為をしていれば罰することができるというものでした。構成要件としてかなり曖昧なもので、その運用いかんによっては、様々な方が検挙される危険性を秘めていました。そして、まさにその懸念のとおり共産党とは関係のない多数の方も治安維持法で逮捕されました。

(起訴留保処分の活用と身元引受)
多数の者を逮捕しても、全員を起訴したのでは大変なので、検察は起訴留保処分を活用し、起訴率を下げました。この留保処分という制度は、ある検挙者に対し起訴または不起訴の決定を留保するものです。一定期間検察官がいつでも取り調べができる状態のまま社会に戻して生活をさせ、改悛の具合を見て処分を決定するというものでした。
 そしてこの改悛の有無・程度を見るために活用されたのが身元引受人でした。その根拠は、昭和7年12月26日秘2006号、検事正宛司法大臣訓令「思想犯人に対する留保処分取扱規程」にあります。
 前掲「証言治安維持法」によれば、身元引受人は少なくとも月一回、留保処分を受けた者について、当局に視察報告、つまり監視して報告することを義務づけられていました。報告内容は、本人の交友関係や外出先で、手紙がどこから届いたか、収入や支出の内訳、読んでいる本の内容まで生活の隅々に渡っていたというのであります。
 このように身元引受人というのは、治安維持法時代においては、まさに本人を監視監督するためのものであったのです。

(現在に生きる治安維持法の影響)
 治安維持法は廃止になりましたので、身元引受も法的な根拠は失われました。しかし、捜査機関にとっては、甚だ便利であったのでしょう。身元引受書、身元引受人という言葉は生き続け、現在にまで影響を及ぼしています。



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弁護士の懲戒事例〜2021年7月号から

2021年07月22日 | 法律事務所(弁護士)の経営
(はじめに)
日弁連の会誌「自由と正義」には、懲戒処分の公告が掲載されます。弁護士の懲戒処分には、戒告、業務停止、退会命令、除名の4つがあります(弁護士法57条1項)。
2021年7月号掲載分から、気になったものを紹介します。この号には7件の懲戒処分の公告が掲載されていますが、いずれも処分は戒告でした。

(義務的研修を受講せず)
事例1 2015年に受けなければならなかった研修を受けなかった。弁護士会の会長が2017年3月に勧告、2018年及び2019年に命令を行ったが、それでも研修を受講しなった。⇒戒告
【感想】
 義務研修を受講しないことを理由とする戒告です。弁護士は概ね5年に1回、弁護士倫理に関する研修を受けなければならないことになっています。2021年6月号でも同様の事案を紹介しましたが、7月号でも1件掲載されていました。

(着手金返還に伴うトラブル)
着手金の返還に伴うトラブルで懲戒となった事例が2件ありました。
事例2 ある事件を受任し、着手金5万4000円を弁護士は受領した。3か月後に委任契約が解除となったので、弁護士は依頼者との間で1万円(相談料)を控除し、残金4万4000円を返還する約束をしたが、依頼者から返金要求をされても、懲戒の判断の見通しがつくまで返金をしなかった。
⇒戒告

事例3 ある訴訟事件を受任した弁護士が、依頼者からメールで辞任を求められ、着手金から10万円を差し引いた金額の請求を依頼者から受けていた。弁護士は、実名のツイッターアカウントから「死ね」「殺される」等の表現を用いたツイートを発信した。
⇒戒告
【感想】
 いずれも依頼者から途中で委任契約の解除を求められたケースです。
 委任契約は、いつでも解約できるのが原則ですから、解約を求められたら、金員の精算を行って終了とすればよいはずですが、着手金の一部を返さなかったり、ツイッターで不適切な発言をしてしまったことで懲戒とされています。
 なお、事例3では、「正規の金が払えない言うなら法テラスにいきなさい」というツイートも処分の理由の要旨に記載されていることからすると、ここには「死ね」や「殺される」という言葉は入っていませんが、不適切なツイートであると認定されたのではないかと思います。

(委任契約書作成せず)
委任契約書を作成しなかったことでの懲戒事例がありました。
事例4 Aの財産について管理の依頼をその子Bから受けたが、Aは事理弁識能力にかける状況にあったのに、A本人の意思を十分に確認せず、また、委任契約書を作成しなかった。
⇒戒告
【感想】
 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければなりません(弁護士職務基本規程30条1項)。同条には、例外事由も規定されていますが、例外事由がない限り、委任契約書を作成することは弁護士の義務です。
 当たり前のことなのですが、まだまだ順守されていない弁護士がいるようです。




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自治体施設と民営化手法~指定管理者制度について

2021年07月19日 | 地方自治体と法律
<指定管理者制度とは>
 地方自治体は様々な施設を保有しています。しかし、その施設の運営それ自体をすべて公務員が行わなくてもよいのです。公務員が直接運営すると、お役所的な発想でのものとなり、市民の視点では利用しづらいものとなることが多々あります。
 そこで、自治体が施設の所有権は保有するけれども、経営は民間に任せるという制度がつくられました。
 これが、「指定管理者制度」で、法律上の根拠は地方自治法にあります(地方自治法244条の2)。
 メリットとしては、民間事業者として蓄積したノウハウがあり、多様化する住民ニーズに応えやすくなる、従来の自治体にはないサービスを提供することができる、自治体の経費縮減につながることが挙げられています。

<図書館での指定管理者>
(事例1)
 東京都のある区が、図書館の運営・管理について会社を指定管理者としました。指定管理者の会社は、迷惑行為をする利用者に対して、入館禁止処分や退館命令等を行いました。利用者は、この処分等を不服として、精神的苦痛を被ったと主張して、指定管理者及び区を被告として訴訟を提起しました。
 裁判所は、指定管理者の処分は適法であったとして、利用者の請求を認めませんでした(東京地方裁判所令和2年6月12日判決)。
 図書館を指定管理者とする手法は、”TSUTAYA図書館”が様々な話題を振りまいて報道されたため有名ですが、他の会社も参入しているようで、これは東京都のある区での事案です。
 図書館の迷惑行為者への入館禁止処分や退館命令は、図書館長が行えるとこの自治体では条例で規定していたのですが、指定管理者が図書館を運営をしているので、指定管理者が選任した図書館長の名前でこれらの処分は出されることとなります。
 図書館長の処分に違法があれば、損害賠償請求をされる可能性もあり、実際この訴訟では、指定管理者も自治体とともに被告にされています。
 
<球場の指定管理者>
 プロ野球又はJリーグの本拠地となる野球場又はサッカー場の中には、指定管理者制度が採用されている例があります。
 2017年時点では、QVCマリンフィールド(千葉市所在)は、千葉ロッテマリーンズが、茨城県立カシマサッカースタジアムは、鹿島アントラーズFCが指定管理者となっています(宇賀「地方自治法概説」第7版)。
 球場の指定管理者に対して損害賠償が提起された事例として次のようなものがあります。
(事例2)
 札幌市は、市営ドーム球場の指定管理について、会社を指定管理者としました。被害者は、内野席でプロ野球観戦中に、打者の打ったファウルボールが顔面を直撃し、右眼球破裂等の傷害を負いました。被害者は、球団、指定管理者および札幌市を被告として損害賠償の訴えを提起しました。
 一審札幌地裁は、球団、指定管理者及び市のいずれの責任を認めましたが、二審札幌高裁は、球団のみの責任を認め、市に対する請求は認めませんでした(札幌高裁平成28年5月20日判決・判例時報2314号40頁)。

<指定管理者制度が採用されている場合の契約の主体>
 指定管理者制度は、施設所有権は自治体、運営主体は民間という制度なのですが、利用者との契約はどこに生じるのかが問題となった事案があります。
(事例3)
 兵庫県は、病院の運営・管理についてA医療センターを指定管理者としました。同病院内で医療過誤があったことから、被害者は兵庫県及びA医療センターを被告として訴えを提起しました。
 本件では、診療契約を締結していたのが、A医療センターなのか、県なのかが争われましたが、裁判所は、契約の主体はA医療センターであり、兵庫県は契約主体ではないと判断し、A医療センターに対する損害賠償を認め、県に対する請求は認めませんでした(神戸地裁平成28年3月29日判決・医療判例解説66号64頁)。
 この裁判例では、契約の主体は、運営主体である民間業者としています。

<住民の施設の利用について>
 自治体や指定管理者は、正当な理由のない限り、住民の公の施設を利用することは拒むことはできません(地方自治法244条2項)。条例では、「施設の管理上支障があると認められるとき」は利用申請を拒否できると規定されていたりするのですが、最高裁は、「施設の管理上支障が生じるとの事態が、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に限る」と限定して解釈しており、住民の利用権の保障に厚い判断をしています(最高裁平成8年3月15日判決民集50・3・549)。
 最近(2021年6月、7月)、表現の不自由展の開催のため、大阪府立労働センターをめぐって、利用取消が問題となり、大阪地裁・大阪高裁とも利用を認める判断を出していますが、この最高裁判決の流れに沿った判断のように思えます。


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結婚していない男女の付合いで妊娠・中絶したことへの損害賠償

2021年07月16日 | 家事事件関係
(はじめに)
 結婚していない男女の付合いで、女性が妊娠し、やむなく中絶に至った場合、女性は男性に対して損害賠償できるのかという問題があります。両者でよく話し合って解決すべき問題ですが、話し合いがうまく行かない場合に問題となります。

(男性の損害賠償義務を認めた東京高裁の判決)
 妊娠中絶した場合に女性から男性に対して損害賠償を請求できるかという問題に一つの解決を与えたのが、東京高裁平成21年10月15日判決(判例時報2108号57頁)です。
 この判決は、女性から男性への損害賠償請求が認められる場合があると判断しました。
① 妊娠中絶をしたときから、女性は直接的に具体的及び精神的苦痛にさらされるし、経済的負担をせざるをえない。
 よって、女性は男性からその不利益を軽減し、解消するための法的利益を有する。
 男性が女性の不利益を軽減・解消しない場合は不法行為となって、男性が損害を賠償する義務を有する。

(請求できる額)
 では、何を請求できるかですが、紹介した東京高裁判決のケースでは、治療費と慰謝料が認められています。
 治療費は68万円かかっていたのですが、請求できるのは、その半額34万円としています。また、別途慰謝料(100万円)を認めています。
 慰謝料は個別要素により左右され、別の判決では、慰謝料50万円としたものもあります(東京地裁平成24年5月16日判決)。

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最高裁への異議申立〜特別抗告と許可抗告

2021年07月12日 | 家事事件関係
(はじめに)
 婚姻費用の家事審判について即時抗告を高裁に対して申立て、それについて高裁の決定が出たとき、高裁の決定に対してどのような異議申立の方法があるか考えてみます。例えば、次のような事例になります。
(事例)妻から夫に対して婚姻費用の請求の調停が申し立てられ、調停は成立せず、家裁で審判が出た。夫はこれに不服であり、高裁に即時抗告をした。高裁は夫の主張を一部認め、家裁の審判を一部変更した。

(最高裁への異議申立〜特別抗告と許可抗告)
 事例のような場合、妻側からも夫側からも不満が残る可能性があります。
 不服申立の方法としては、最高裁への特別抗告と許可抗告があります。それぞれについて見ていきましょう。
 なお、いずれの場合も申立てをしただけでは執行停止の効力がありません。つまり、高裁での決定どおりに婚姻費用が支払われない場合は、妻は夫に対して強制執行ができ、夫の給料などの差押えができます。執行停止の効力を得たければ、別途執行停止の裁判を経る必要があります。

(特別抗告)
 特別抗告は、憲法解釈の誤りがあるか、憲法違反があることを理由とすることが申立ての要件です。
 憲法問題にならないと、特別抗告を申立てできないのです。高裁への即時抗告に比べると非常に狭き門です。

(許可抗告)
 許可抗告は、判例違反又は法令の解釈に関する重要な事項を含む場合に限られます。特別抗告が憲法問題に限られていることからすると、こちらの方が申立ての要件としては広いとはいえるでしょう。
 〈許可〉抗告といわれる理由は、申立てに一応理由があるかどうかを決定をした高裁が許可する権限があるからです。つまり、高裁が許可しないと最高裁にまで事件が上がらない、そこでおしまいということになります。このような制度にしているのは、最高裁には裁判官が15名しかおらず、処理能力が限られているからです。通常の訴訟に比べて、即時抗告の決定については、最高裁に審理してもらうこと自体が高いハードルがあるのです。
 
(手続き)
 特別抗告又は許可抗告は、高裁の決定を受けとってから5日以内にしなければなりません。高裁への即時抗告は14日以内ですか、これに比べるとかなり忙しいことになります。非常に短期間に行わなければならないので、弁護士を依頼されている場合は、最高裁まで争うか否か、高裁決定が出る前に協議をしておいた方が良いです。


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静岡県土採取等規制条例について (熱海市の土石流関連)

2021年07月09日 | 地方自治体と法律
(はじめに)
 熱海市の土石流(2021/07/03発生)につき、静岡県が盛土の問題点を指摘しています。
 報道によると、静岡県土採取等規制条例が問題となっているようですので、同条例の内容について調べてみました。

(条例の目的)
 この条例の目的は、
①土の採取等に伴う土砂の崩壊、流出等による災害の防止
②土の採取等の跡地の緑化等の整備を図る
ことにあり、もつて県民の生命、身体及び財産の安全の保持と環境の保全に資することとされています(同条例1条)。
 今回問題となったのは、土砂の崩壊、流出による災害ですが、そのような災害を防止する目的が一番目に掲げられています。

(土の採取等の定義)
 目的にでてきた「土の採取等」という文言は以下のように定義されています(同2条)。
(1) 切土、床掘その他の土地の掘さくをする行為
(2) 埋土又は盛土をする行為
 今回問題となったのは、「盛土」ですから、「土の採取等」に該当します。

(土の採取等に関する規制の概要)
 県が行う規制については、次のように規定されています。
(1)土の採取等を行おうとする者は、土の採取等の計画を定めて、必要書類とともに県知事に届け出る(同3条)。計画に変更があったときもその内容を届け出る(同4条)。
(2)県知事は、届出の内容をみて、土砂の崩壊、流出等による災害が発生するおそれがあると認めるときは、届出者に、変更の勧告を行える(同5条)(計画変更の勧告)。
(3)勧告に従わないで土砂の採取等を行っている場合や、土の採取等に伴う土砂の崩壊、流出等による災害が発生するおそれがある場合は、県知事は、土の採取等を行つている者に対し、期限を定めて、災害防止に必要な措置をとるよう命令できる(同6条)(措置命令)。
(4)措置命令に従わなかった場合や、土の採取等に伴う土砂の崩壊、流出等による災害の防止のため緊急の必要がある場合は、県知事は、土の採取等を行つている者に対し、土の採取等の停止を命ずることができる(停止命令)。
 このように、事業者に計画を届出させ、災害防止に必要なときは、計画変更の勧告や措置命令・停止命令ができるという権限を県知事に与えています。

(現在までの報道で判明した行政の対応)
 現在(7月8日)までのところ、静岡県の方では、行政指導を行ったということは報道されていますが、措置命令や停止命令という権限を行使したとはされていません。
 これらの命令は、「土砂の崩壊、流出等による災害が発生するおそれがある場合」(措置命令の場合)、「土砂の崩壊、流出等による災害の防止のため緊急の必要がある場合」(停止命令の場合)にその規制権限を行使できることとなっており、静岡県の方でこの点についてどのように認識をしていたのかが、個人的には気になっています。

(2021/10/18追記)
2021/10/18になって、静岡県と熱海市は措置命令をだす手続きを進めていたが、最終的には措置命令はなされず、放置されていたことが明らかになりました。
「県と市は11年6月、強制的に対策をさせる措置命令を出す手続きを始めることを決定した。業者側が対策に着手したため命令は見送られたが、その後に対策は中断されて完了しなかったという。」(朝日新聞2021/10/18付)
 このことから、2011年当時には措置命令の要件に該当する状況にあったことがわかります。即ち、土の採取等に伴う土砂の崩壊、流出等による災害が発生するおそれがあったということです。
 

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検察審査会〜検察官の不起訴処分への不服申立手段

2021年07月08日 | 刑事関係の話題
(検察官の不起訴処分への不服申立手段)
 検察官は、被疑者を起訴する権限があり、起訴・不起訴を決定します。
 検察官は、以下のような場合に不起訴処分とします。
・事件の嫌疑が認められない、又は、起訴をして裁判をしても有罪にもちこめる証拠がない
・有罪にする証拠は十分であるが、微罪であり起訴して有罪判決等をとるまでもない(起訴猶予)
 このような不起訴処分に対しては、検察審査会に申し立てをするという不服申立て手段があります。

(検察審査会とは)
 検察審査会は、一般人11名で構成される議決機関です。検察審査会のメンバーは一般人から抽選で選ばれ、審査は非公開です。
「検察審査会」とあることから、検察庁に置かれていると思われる方が多いのですが、検察を「審査する」、つまり検察とは一線を画すことが必要なため、裁判所に置かれています。
 ですので、申立ては、裁判所の検察審査会の窓口にします。
 どこの裁判所に行ってもよいわけではなく、不起訴処分をした検察庁に対応する裁判所に提出することになっています。
 例えば、千葉地検の検察官が不起訴処分をしたときは、千葉地検に対応する裁判所は、千葉地方裁判所なので、同裁判所の検察審査会に申し立てをすることになります。

(検察審査会への申立てができる方)
 検察官の不起訴処分は、被害者にはマイナス方向なのですが、被害者(犯罪により害を被つた者)は検察審査会への申立てができます。
 被害者が死亡した事件では、遺族(配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)が申立てができます。
 そのほか、事件について、告訴や告発をした者等も申立てができます(以上、検察審査会法2条2項)。

(申立て方法)
 申立てには、検察官がその事件について不起訴処分をしたことを証する書面(これは検察庁で発行してもらえます)と検察審査会への申立書を提出すればよいことになっています。これだけであれば、申立書さえ書くことができればよいので、それほど難しくはありません。
 もっとも、不起訴処分を覆すために、証拠を添付したり、説得的な主張をしたいという場合がありえます。
 検察官が一旦行った不起訴処分を覆すのは、なかなか難しいのが現状ですので、できれば追加の証拠や、主張を行った方がよいといえるでしょう。
 こうなりますと、弁護士と相談したり等して進めた方がよい場合があります。
同じ事件については1回しか、検察審査会に申し立てができません(一時不再理の原則;検察審査会法32条)。検察審査会は1回勝負なのです。
 よって、申立ては慎重な準備の上で行った方がよいことになります。

(検察審査会の決定の種類) 
 検察審査会の決定には、以下のものがあります。言葉が似ているので、少しややこしいのですが、次のようなものです(検察審査会法39条の5)。
 ①不起訴相当・・・不起訴が妥当だということで、検察官の判断を検察審査会も認めたということです
 ②不起訴不当・・・不起訴は不当であり、検察官の判断を認めない場合です。
 ③起訴相当・・・不起訴は不当であるだけでなく、起訴が相当であるという、不起訴不当よりもさらに強い意見です。
 ①と②は、審査員の過半数で決めます(検察審査会法27条)。
 検察官の不起訴の判断について賛成の者が多い場合は、不起訴相当(①)。
 検察官の不起訴の判断について反対で、起訴すべきだという者が多い場合は、不起訴不当(②)となります。
 起訴相当(③)となるのは、審査員11名のうち8名以上が起訴すべきだという意見の場合です(検察審査会法39条の5第2項)。

(検察官の対応等)
 不起訴相当(①)の場合は、検察官の不起訴の判断が認められたのですから、検察官は何もする必要はありません。
 不起訴不当(②)及び起訴相当(③)の場合は、起訴すべきだという意見が審査員の過半数に達しているので、検察官はこれに対して議決を参考にして、改めて事件を見直し、起訴をするのか否かを検討することになります。
 検察官が判断を見直して、起訴となれば、通常の起訴と同じように、被告人に対して刑事裁判が進行することになります。
 検察官が従前の不起訴処分の判断を見直さず、改めて不起訴処分をするということも実際には多いのです。
 起訴相当(③)の場合は、再度検察審査会に審査の場が移り、検察審査会は起訴議決をすることが可能です(検察審査会法41条の6)。

(起訴議決は2009年からの制度です)
 最後に説明した起訴議決は、2009年に改正法が施行されて可能となりました(施行期日は2009年5月21日で裁判員裁判の開始と同じ日です)。
 それ以前は、起訴相当(③)の議決があっても、検察官は法的に拘束されず、検察官の裁量に任されており、検察審査会が起訴が相当であるといっても、検察官が起訴しないことはあり、そうなってしまうともう起訴の手段は存在しないという時代がありました。
 2009年以降は、検察審査会の起訴議決により、強制的に起訴がされる制度が設けられることになりました。


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千葉県郷土史研究連絡協議会

2021年07月04日 | 歴史を振り返る
「千葉県郷土史研究連絡協議会」という会があり、「房総の郷土史」という会誌を発行しているようです。私が目にたのは、2006年発行の第34号。
 この号によると、会の連絡先は千葉県立中央図書館(千葉市中央区市場町11-1;043-222-0116)となっています。県立中央図書館はよく使うのですが、この協議会の案内のチラシなど見たことがありません。
自分が気がついていないからかな・・・・?

「千葉県郷土史研究連絡協議会」でインターンネットを検索すると、この会のホームページに行き当たりましたが、2019年で更新が止まっています。

同研究会は文化講座及び古文書口座を年間各10回開催しており、「房総の郷土史」も毎年発行してきた歴史のある(1974年が第1号)会のようです。

しかし、県立図書館のサイトで、「房総の郷土史」が45号まで発行されていることは確認できましたが(2017年発行)、それ以降の確認がとれませんでした。

2006年の会誌でも、会長(川村優氏)が「昨今の前途を考えると、時折はっとすることも稀ではない。いわく会員の減少、若者の入会の極端な減少、財政力の貧困など、難問課題は数えきれない」と挨拶されているほどであるので、現在の状況が心配です。

Twitter等を見ると、若い方でも歴史に興味を持っている方は多いのですが、老舗の会が元気がなさそうなのは、気にかかります。

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不倫をしている地方公務員を懲戒にできるか

2021年07月01日 | 地方自治体と法律
<はじめに>
 離婚関係の相談の中には、「配偶者が不倫している。配偶者は、地方公務員として勤務しているのだが、勤務先に配偶者が不倫していることを話して、懲戒処分にしてもらいたいが、そういうことはできるのか。」というものがあります。不倫をしている地方公務員は懲戒されるのでしょうか。

<地方公務員の懲戒の要件と不倫>
 地方公務員法では、懲戒の要件について次のように規定しています。
①地方公務員法やこれに基づく自治体の条例、規則または規程違反
②職務上の義務違反、又は職務怠慢
③全体の奉仕者たるにふさわしくない非行を行ったこと
 では、不倫は①~③にあたるでしょうか。
①・・・地方公務員法や条例、規則または規程には、「不倫をしてはいけない」と書かれてはいません。よって、①の要件にはあたりません。
②・・・不倫しないことが職務上の義務であるという規定もないようです。よって、②の要件にもあたりません。
③・・・「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」とは抽象的な言葉ですが、不倫がこれに当たるでしょうか。
 考え方としては分かれそうです。「不倫はけしからんし、全体の奉仕者たるにふさわしくない」と考えることもできそうですし、また、「不倫は悪いことは悪いことだけど、地方公務員の職務とは直接は関係ないのではないか。プライベートなことだから、懲戒処分までするのは行き過ぎではないか」と考えることもできそうです。
 懲戒されそうな立場の人からすると、こんな抽象的な言葉で何でもかんでも懲戒されてはたまりませんし、懲戒する側の立場から見ても、こんな抽象的な文言だけで判断してくださいといわれても困ってしまいます。
<懲戒処分の基準に関する規程>
 そこで、処分の基準を定めておくことが大事になってきます。
 自治体では、そのような基準をちゃんと定めているところが多く、「懲戒処分の基準に関する規程」というようなものがあります。懲戒にあたる行為とはどのようなものか、どの程度の懲戒処分になるかは地方公務員法より詳しく書かれています(自治体ごとに異なる可能性があります)。
 イメージをつかんでいただくために、欠勤を例にしてみると、ある自治体では、
ア 正当な理由なく10日以内の間勤務を欠いた場合⇒戒告又は減給
イ 正当な理由なく11日以上20日以内の間勤務を欠いた場合⇒減給又は停職
ウ 正当な理由なく21日以上勤務を欠いた場合⇒停職又は免職
と書かれています。
 では、不倫(不貞行為)について、規程ではどうなっているのかというと、通常は、不倫とか不貞という言葉は見当たりません。そうしますと、不倫をしたからといって、それだけでは懲戒処分にはならなさそうです。
 もっとも、不倫が契機となってトラブルが生じていれば、そのトラブルの内容次第では懲戒に該当する事由が生じる場合があります。
 例えば、不倫相手にあうために、病気休暇又は特別休暇について虚偽の申請をしたというような場合は、「休暇の虚偽申請」にあたります。また、不倫相手に会うために、勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り公務の運営に支障を生じさせたというような場合は、「勤務態度不良」にあたります。

<まとめ>
 不倫自体は懲戒処分対象になりませんが、それが具体的に職務に影響を与えれば、懲戒処分になりうるといえます。なお、これはあくまでも、懲戒という行政処分についての話であり、別途民事責任に問われる可能性があります(配偶者との関係では離婚原因になりますし、不倫相手が結婚していれば、その配偶者から損害賠償請求されます)。

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