南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

高次脳5級で労働能力喪失率50%とした裁判例

2006年10月30日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害で後遺障害等級5級を認定しながら、労働能力喪失率は50%とした裁判例を見かけました(長野地裁松本支部平成18年2月27日判決自動車保険ジャーナル1657号16ページ)。

 後遺障害等級と労働能力喪失率の関係は、なかなか難しいものがありますが、自賠責保険では、
 1級~3級 労働能力喪失率100%
 5級            79%
と定められており、民事訴訟になれば、裁判官がこの基準をも参考にしながら判断するという仕組みになっています。


 上記の長野地裁松本支部のケースは、高校卒業後、大学受験に失敗し、予備校生であったときに事故にあって受傷。
 その後、事故の関係でもう1年予備校生をして、大学に合格しましたが、大学に入って4ヶ月後に大学への通学ができなくなり、1年間で大学を中退したというものです。
 後遺障害等級としては高次脳機能障害の5級が認定されています。

 後遺障害等級が5級と言うことになれば、自賠責保険では労働能力喪失率は79%となりますが、この判決は、それよりも低い50%という労働能力喪失率を認めています。

 被害者は大学を中退した後、アルバイトで結婚式や宴会の準備、配膳・サービス片づけ等の仕事はこなせていたようであり、日常生活上の記憶障害や社会的行動障害は軽度であることから、低い労働能力喪失率を認定したようです。

 しかし、判決を見る限り、被害者は対人接触の少ない単純労働的な仕事しかできておらず、一般人の50%も仕事ができるかどうかは疑問に感じました。

 今後高次脳機能障害者の支援体制が整備され、働くことができるようになると、加害者サイドからは「現実に働けているのであるから、自賠責保険よりも低い労働能力喪失を認めるべきである」との主張がますます増える可能性がありますが、本件はそのような中でひとつの判断をしたものということができるでしょう。


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9級で介護料が認められた裁判例

2006年10月28日 | 未分類
 自動車保険ジャーナルを見ていましたら、後遺障害等級が9級のケースで介護料が認められた裁判例がありました(大阪高裁平成18年8月30日判決自保ジャーナル1657号2ページ)。
 この裁判例、大阪高裁のもので、被害者はRSDの後遺障害が残ったとして9級が認定されています。
 RSD(反射性交感神経萎縮症、又は反射性交感神経性ジストロフィー)というのは、尺骨神経等の主要な末梢神経の損傷がなくても、微細な末梢神経の損傷が生じ、外傷部位に強度の痛みをもたらすものです。

 このケースでは、被害者の母親が就寝時の準備、衣類・下着等の着脱、入浴、食料品・日用品その他の買い物、掃除、洗濯等の介助を被害者のために行っており、その近親者介護料を日額1000円として認めました。
 
 介護料として、額は低いですが、9級という高いとはいえない級で介護の必要性を認めて、介護料を1000円とした意味は小さくないと思います。

 これが他の後遺障害でも認められるかどうかはひとつの問題だと思います。
 RSDの特殊性によるものかもしれません。
 いずれにせよ、被害者の生活実態を明確に見据えた上で、訴状において請求をし、立証をしていかなければ、介護料は認定されませんから、等級が低い場合でも被害者側の代理人としては、この裁判例を参考として、介護料が請求できるか否か検討すべきでしょう。 


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訴え提起まで時間がかかる原因

2006年10月26日 | 法的解決までのロードマップ
 現在訴訟を依頼されている交通事故事件では、2000(平成12)年から2003(平成15)年までの範囲に入ってきます。
 訴えを提起するまでには、ある程度の時間がかかっています。

 その原因を考えてみると、ひとつは後遺症事案では症状固定時期までにある程度の時間がかかるということです。
 症状固定というのは、これ以上治療を加えてもよくならない時期のことであり、医師が判断します。
 高次脳機能障害の場合は、事故から1年半から2年くらいかかるケースが多いのですが、当初高次脳機能障害が疑われておらず、高次脳機能障害がわかる医師に診断をしてもらえていなかった場合は、症状固定時期がさらに遅れてしまうということになります。

 症状固定をしてもそこから自賠責での等級認定(又は被害者請求)の時間がかかります。
 高次脳機能障害では取り付ける書類がある程度の数に上りますので、その手間で時間がかかるのはある程度やむをえないところですが、その取り扱いになれていない任意保険会社が窓口になる場合は、任意保険会社のところで書類が滞留してしまう現象が担当の質が悪いと見られ、被害者の迅速な解決へのニーズを阻害しています。

 等級認定がでても、訴訟を提起するというのにためらいがあり、そこへの逡巡で時間がかかるということがあります。
 確かに、日本では多くの方が訴訟に訴えるということはなれておりませんし、訴訟をしてメリットが得られるのかどうかということに悩まれるのも無理はないと思います。
 訴訟にするというメリットがあるかないかという点については、十分に吟味する必要性があります。
 裁判にした場合、損害額がどの程度となると予想されるのか、過失相殺がどの程度されそうなのかについては、非常に専門的な話になりますので、弁護士と相談の上、よく吟味するべきだと思います。
 弁護士から訴訟にした場合のメリットとデメリットを説明してもらうことが、被害者側の適切な選択には必要でしょう。
 

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高次脳機能障害者の家族

2006年10月22日 | 高次脳機能障害
 障害者をどのように支援するかとか介護するか、という視点からの本というものは、結構出版されています。
 高次脳機能障害についても最近ではいろいろな本が出版されており、テレビ等のマスコミでも取り上げられるようにはなってきました。

 しかし、高次脳機能障害者の家族をどのように支援するかというような視点からのものというのはなかなか少ないように思います。
 ”高次脳機能障害者を支援する”となれば、支援の担い手は第一次的には家族となり、その家族の努力を自然と強いるような状況になってしまうことは好ましくないと思います。

 高齢者の介護について考えてみれば、このことはおわかりいただけるかと思います。高齢者の介護は、これを家族に押しつけるのではなく、社会全体で分かち合うべきものだというのが、介護保険の基本的な考え方です。
 
 しかし、高次脳機能障害者を支える手だてが、高齢者の介護よりは貧弱であるため、高次脳機能障害者の家族の負担が重くなるというのが現実ではないでしょうか。
 そして、それは家族が身内を守ろうという心理からもそのようになってしまっていくようです。

 「外傷性脳損傷後のリハビリテーション」という本では、
 「家族は受傷した身内に最大の支援をするために、自身の関心と要望を後回しにする傾向がある。」
と書いています。
 しかし、「そのような犠牲は重大な身体的精神的な代償なしではふつう続かない」ものです。
 つまり、家族は自分の限界がくるまで無理をし続けて、自らの体又は心が壊れるまでに至ってしまうことがあるということです。

 このような事態は、家族の崩壊を招きます。
 高次脳機能障害者だけではなく、家族も被害を被ってしまうのです。
 これを避けるためには、家族が罪悪感を感じることなく、高次脳機能障害者を支える世の中が必要だと思います。
コメント (2)
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親の監督責任

2006年10月20日 | 未分類
 集団暴行された被疑者と両親に合計1億800万円の支払いを命じる判決がでたとの報道を目にしました(記事にご興味のある方は下に引用しました。)

 同じく16歳の男子高校生が、交通事故で死亡した場合も同じような判決がでるかというと、そのような高額の判決はできないと思います。

 集団暴行のような故意に行われた犯罪の場合は、交通事故のような過失によって行われた場合と比べて、慰謝料の額をかなり増額します。
 交通事故の場合は、独身男性は2000万円~2200万円が慰謝料の基準額といわれていますが、それでは到底総額が1億円を超える判決とはなりません。
 故意に行われた犯罪の場合、その態様にもよりますが、上記の基準額の1.5~2倍程度の慰謝料を認めているのではないでしょうか。

 もっとも、故意に行われた犯罪の場合は保険はききませんから、被害者側にとっては、判決ででた金額を支払ってもらえるかどうかというのが次の問題点となってきてしまいます。
 交通事故事件の場合は、加害者側が対人賠償無制限の保険にかかっていれば、判決で認められた金額の支払いは問題とはなないのが通常です。

<集団暴行死>元少年らに1億800万円賠償命令 千葉地裁 [ 10月19日 20時56分 ]
千葉県市原市で02年、出身中学の先輩らに集団暴行され、死亡した県立千葉東高1年の清村亮太さん(当時16歳)の両親が、暴行した元少年らの共同不法行為と保護者の監督義務違反があったとして、約1億2500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が19日、千葉地裁であった。仲戸川隆人裁判長は元少年6人(同16~17歳)や保護者ら計14人に約1億800万円の支払いを命じた。仲戸川裁判長は「集団暴行と死亡には因果関係がある」と「集団リンチ」を認定した。

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受刑者はどのような生活を送れるのか(受刑者処遇法)

2006年10月18日 | 交通事故刑事事件の基礎知識
 交通事故被害者としては、加害者を厳罰に処してほしい、刑務所にいれてほしいと思う気持ちは強いと思います。
 
 実際に、刑務所で受刑者がどのようなことができるのか、どのような処遇がなされているのかということは、テレビがときどき断片的にとりあげるだけであり、なかなか一般市民の目には触れないものです。

 これまでは、受刑者のことは「監獄法」という明治時代に生まれた法律が規定していましたが、監獄法が改正されて、「受刑者処遇法」という法律ができ、2006年5月から施行されています。

 この法律によってどのようなことが規定されているかということについては、日弁連が作成した「受刑者のみなさんへ」という小冊子があり、これが参考になります。
 PDFファイルですが、ネット上でも読めます→こちら

 裁判の場では、加害者に対して、被害者が「厳罰に処してほしい」という意見をいうことは正式裁判では可能になりましたが、受刑中の段階では仮釈放などに被害者の意見は反映される仕組みはつくられておりません。

 この点をどうお考えになるか、上記の小冊子は参考になると思います。

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職業介護の料金

2006年10月16日 | 高次脳機能障害
 今日の日経の夕刊に「外国人介護士戦力に育成 各社、人材不足で受け入れ準備」という記事が載っていました。
 介護業界では人材不足が深刻で、外国人を戦力として活用したいという意向を各社が持っているという内容でした。
 日本は先頃フィリピンと経済連携協定(EPA)を結びましたし、フィリピンとの連携をはかろうとしている企業がでてきているようです。

 介護業界の中でもどんどん障害者に対するサービスに進出してくれると障害者も助かるのではないかなあと思います。
 コムスンのホームページを見ていましたら、障害者向けのサービスもあるようです→こちら

 例えば、日常生活援助中心のコースだと、1時間あたり1800円程度のようです。→料金表
 民事の判決でもこれらの料金表を参照して、職業介護を認める事案ですと、1万2000円やそれ以上の判断もでてきていますので、損害賠償が認められれば実費負担でもこのようなサービスを使用することが経済的にも可能となってきます。


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障害者自立支援法の問題点

2006年10月12日 | 未分類
昨日の共同新聞のニュースで、
 利用料1割負担の凍結を 民主が自立支援法改正案
というのが出ていました(記事の一部は本文の下にコピーしておきました)。
 この見出しで「自立支援法」と書かれているのは、「障害者自立支援法」のことです。
 交通事故で後遺障害を負えば、障害者となります。
 社会的な支援の枠組みは、高齢者であれば、介護保険がありますが、そうでなければ、障害者の法的枠組みに頼らざるを得ず、その法律が「障害者自立支援法」なのです。

 ですから、交通事故の被害にあった方には、この法律がどのようなものであるか、どのように運用されるかは無視できないものがあります。

 この法律は、今年の4月から施行されたものですが、障害者が利用した金額の10%を負担するのが原則としましたので、障害者の負担がかなり増し、中にはそのために必要な支援が得られないとの声が出ているところです。
 安部首相は、障害者自立支援法を見直す考えはないとの答弁をしているので、民主党案がでても、これがすぐに採用されることはないでしょうが、障害者のために少しでも改善の方向に進んでほしいものです

民主党は11日、4月に施行された障害者自立支援法の改正案を国会に提出した。障害者の経済的負担の軽減を図るため、来年1月から当分の間、現行のサービス利用料の原則1割負担を凍結することなどが柱。これに伴い、利用者の所得に応じて負担額を設定する従来の応能負担に戻すとした。

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法テラス(日本司法支援センター)

2006年10月10日 | 未分類
 法テラス(正式名称は、日本司法支援センター)は、2006年10月2日に業務を開始しました。

 これまで法的なことで相談をしたいと思ったときに、それを支援する制度は国では行っていませんでしたが、司法改革の一環として国でもそのようなセンターを作るべきであるということになり、法テラスが生まれました。

 交通事故の被害者として法テラスの業務で関連がありそうなものとしては、
1 情報提供業務
2 民事法律扶助業務
3 犯罪被害者支援業務
です。
1 情報提供業務とは,利用者からの問い合わせ内容に応じて,法制度に関する情報や,相談機関・団体等(弁護士会,司法書士会,地方公共団体の相談窓口等)に関する情報を提供する業務です(総合法律支援法第30条第1項1号)。
 この業務は,もっぱら情報を提供し、どのような相談窓口にいけばよいかの問い合わせに応じるもので、弁護士等が,個々のトラブルの内容に応じて法的判断を行い,解決方法をアドバイスするという法律相談とは異なります。
 ですから、交通事故被害者でどこに相談にいったらいいかわからない方は、まず
法テラスのコールセンター(0570-0783764)に電話して、相談窓口を聞くという活用方法が考えられます。

2 民事法律扶助とは、資力の乏しい方が法的トラブルに出会ったときに、無料法律相談を行い、必要な場合、法律の専門家を紹介し、裁判費用や弁護士費用の立て替えを行う制度です。
 この制度は、これまで、(財)法律扶助協会というところが担ってきましたが、10月からは法テラスが行うこととなりました。
 資力の乏しい方で裁判を行いたいという方は、この民事法律扶助を利用するために法テラスに申し込みをされたらよいのではないかと思います。

3 注目すべきは、犯罪被害者支援業務で、法テラスでは、犯罪の被害にあわれた方や、ご家族の方等に対し、刑事手続への適切な関与や、お受けになった損害・苦痛の回復・軽減を図るための制度に関する情報を提供するものとされています。
 また、民間支援団体を含む関係機関・団体との連携のもと、犯罪被害者支援を行っている団体等の活動内容についても紹介します。さらに、必要に応じて、法テラス地方事務所を通じて、犯罪被害者等の支援に精通している弁護士を紹介することも行います。
 これは新しい業務なので、どの程度この業務が活発に行われるかということは今後の運用によりますが、交通事故事件も犯罪被害者であり、この業務が受け皿になるのではないかと思われます。
コメント (3)
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即決裁判手続き

2006年10月08日 | 交通事故刑事事件の基礎知識
即決裁判手続きは、2006年10月から施行される新たな刑事裁判の手続きです。(民事事件には関係ありません。)

刑事事件は、
警察、検察が事件を捜査 → 検察庁が起訴するかどうかを決める。
という流れになるのですが、これまでは、検察官が正式裁判を請求すると、事件を認めているか否か、事案が複雑か否かに関係なく、起訴から1ヶ月~1ヶ月半後に正式裁判(公判)が開かれることになっていました。
これを「比較的軽微な事件で、起訴される事実を認めている場合」には、起訴されてから2週間以内で執行猶予判決を出す、という制度を作ったのです。これが即決裁判手続きです。

これを申し立てる権限があるのは検察官なので、検察官の裁量権が更に強くなったといえるでしょう。
検察官の側からすれば、
「簡単で認めているような事件は、即決裁判手続きで早く処理する。」という方針になるでしょうから、被疑者が事実を認めていないような否認事件では、「認めれば即決裁判手続きになる。」というような誘導がされないとも限りません。
刑事弁護に熱心な弁護士の中からは、このようなことに懸念を表する人もあり、「執行猶予を得るために罪を決める、司法取引のようなことにならないか」と不安視する声もあることを指摘する報道(日経新聞10月1日付朝刊)もあります。

即決裁判手続きの適用が予想される事件としては、
初犯の窃盗、覚せい剤取締法違反(使用、所持)、入管難民法違反(不法残留)があげられていますが、交通事故事件を多く扱っているものとしては、交通事故事件がどうなるのかは注目しています。

即決裁判手続きは、必ず執行猶予判決ですので、被害者が加害者の実刑を望む場合には、即決裁判手続きにのせられてしまわないようにしないといけません。
しかし、被害者には即決裁判手続きにするか否かに関して、全く権限がありませんから、検察官に対して早い段階から「即決裁判にしないで下さい。」と主張していく必要がでてきます。
また、即決裁判手続きでは、公判にかける時間も短縮されるでしょうから、被害者が公判で意見陳述をしたり、証人尋問をするには向いていません。

このように被害者側からみると、新しい制度ができて以前より複雑になったのに、被害者側に配慮されていない構造となっておりますので、要注意です。



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