南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

高次脳。自賠2級,判決で3級,介護料日額4000円

2013年07月02日 | 高次脳機能障害
高次脳で,自賠では2級認定も,判決では3級認定。症状固定後の介護料は,日額4000円という裁判例がありましたので紹介します。

 東京地裁平成25年3月27日判決(自保ジャーナル1896号53頁)

 判決で3級と認定されたポイント
 ① 公共交通機関を利用して一人で外出できている
 ② 金銭の管理をし,買い物をしたり,精算をしたりすることができる
 ③ 自分の理解力が低下していることを認識して,他者とコミュニケーションをとることができている


 自賠責が2級認定であるのに,判決は3級認定ということで2級と3級はどこが分岐点なのかを考える上では参考になります。
 2級も3級も「神経系統の機能又は精神に著しい障害」を有していることは共通なのですが,3級が「終身労務に服することができないもの」とのみされているのに,2級が「随時介護を要するもの」としているところが違います。
 2級と3級の違いはこの「随時介護の要否」ということになります。

 それでは高次脳では,具体的にどういう場合が2級で,どういう場合が3級なのかが問題となってくるのですが,上記東京地裁判決は「ポイント」のような点を理由に,本件の被害者は2級ではなく,3級のレベルにあると判断しました。

 3級であるので,随時介護とまではいえないものの,声かけや看視を主な内容とする付添介護の必要はこの裁判例でも認められており,症状固定後の介護料として,日額4000円が認定されています。



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高次脳3級介護料裁判例(症状固定後 日額5000円)

2013年07月02日 | 高次脳機能障害
高次脳3級の介護料の裁判例です。

 東京地裁平成25年2月22日判決(自保ジャーナル1895号)
 症状固定後の介護料=日額5000円

 被害者は日中は一人で自宅で暮らしているというのがこのケースの特徴です。
 ・事故後,障害者雇用枠で採用されたが,実際に働いてみると高次脳が問題となり,契約が1年で打ち切られた
 ・内縁の妻と二人暮らしで,妻がフルタイムで働いているので,日中は自宅で一人で過ごしている

 ここまでの事実ですと,1人で家で過ごせるのではないか,介護の必要はないではないかという反論を任意保険側がしてきそうです。
 実際,本ケースでもそのような反論がされたようです。

 しかし,次のようなところがポイントとなって介護料が認められています。
・自発的に必要な行動を考えて行動することはできないので,食事等の必要なことは妻が出かける前に準備している
・妻が日中行うべき課題を指示したり,勤務先から電話で声かけをするなどして行動を促している
→社会性・活動性のある生活を送るには日中も看視・声かけなどの随時介護が必要



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自賠責で高次脳機能障害認定を否定。判決では認定

2013年05月28日 | 高次脳機能障害
 自賠責で高次脳機能障害5級が認定され,裁判所には否定された判決を紹介したことがあるが(→過去記事),今回はその逆。自賠責では高次脳機能障害が否定され,裁判所では高次脳機能障害が認められたケースを紹介する。

 東京地裁平成24年12月28日判決(自保ジャーナル1893号)

 自賠責での否定の理由が,それでいいの?と思わせるような理由だ。
 自賠責は頭部の画像をみて,脳挫傷痕や脳萎縮の所見はある。しかし,脳挫傷痕の範囲,程度等からすると,重度の高次脳機能障害を生じさせるものではないというのだ。

 画像所見があっても、高次脳機能障害の認定を否定したということになり、違和感を覚える。

 裁判所はこの自賠責の考え方を採用していない。

 画像所見から,びまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆する画像所見があるということを指摘して,高次脳機能障害を肯定する理由としている。

 裁判所の考え方がスタンダードだと思う。
 
 高次脳機能障害が認められるかそうでないかでは,損害賠償額が非常に異なる。
 この辺の訴訟遂行能力は,弁護士により差が生じるところだろう。


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自賠責で高次脳機能障害を認定。しかし、判決は否定。

2013年05月23日 | 高次脳機能障害
自保ジャーナルに高次脳機能障害の被害者側としては,ちょっと気をつけなければならないぞという判決が掲載されていた。

「34歳男子の自賠責5級認定高次脳機能障害を意識障害なく画像所見からも否認して14級神経症状を認定した」(東京高裁平成25年2月14日判決,東京地裁平成24年2月23日判決;自保ジャーナル1893号)

 自保ジャーナルが裁判例に付ける題はわかりにくいものが多いのだが,つまりは,「高次脳機能障害で自賠責で5級認定されたが,訴訟では否定されて14級しか認定されなかった」ということである。

 自賠責で等級認定をしてもらえれば,それを裁判所は認めることが多いのだが,必ずしもそうではないんだぞということを教えてくれる裁判例である。

 なぜ,こんなことになったのか。

 判決文を読んでみると,自賠責もすんなりと高次脳機能障害を認めたわけではない。
 3回異議申立をして,ようやく高次脳機能障害5級が認定されているのだ。
 しかも,その理由も微妙な表現である。
 「頭部画像上は,本件事故の受傷によって生じた残存する症状の原因を捉えられるような客観的な異常所見に乏しいものの,受傷当初に軽度の意識障害が長期にわたって継続していたこと,神経心理学的検査などにおいて高次脳機能障害の存在が明確になっていること」が理由となっている。

 頭部の画像では所見がないので,軽度意識障害継続が高次脳機能障害を認定する唯一の理由といっていい。
 つまり,「軽度の意識障害が継続していた」という点を否定されたら,高次脳機能障害が認定できないことになる。
 訴訟ではまさにこの点が問題となり,地裁でも高裁でもこの点を理由として高次脳機能障害が否定された。

 このような展開になることは,そう頻繁なことではない。
 そうだからこそ,自保ジャーナルも1893号のトップにこの裁判例をもってきているのだろう。
 この裁判一審だけで7年ほどかかっているようなのだが,これもまた異例である。

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高次脳7級に付添費を認めた判決

2012年12月10日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害で後遺障害7級のケースに,症状固定後の付添費日額2000円を認めた事案がありましたので,紹介いたします。

   東京高裁平成23年10月26日判決(自保ジャーナル1861号1頁)

 高次脳機能障害では,5級以下では付添費を認められるか,認められないかが,シビアな争いとなってくるというのが私の感覚です。
 結局,症状固定後の障害の状態がどうなのかがポイントになってきます。

 上記判決のケースでは,
 ・医師が「精神障害を認め,日常生活における身の回りのことも,多くの援助が必要である」と診断している。
 ・被害者は,外出するときには,行ったことのないところに一人で行って,場面に応じて臨機応変に対応することは苦手であるため,必ず誰かの付き添いが必要。
 ・薬の管理は母がしている。
といった状態にあったため,裁判所は,
 「日常生活動作自体はできるが,自発的にはできず,声かけが必要であり,外出時には付き添って看視することが必要であるものと認められる」
と認定しています。

 7級といっても,人によって状態は様々なわけでして,このような状態があれば付添費が認められるという一つの目安とはなるでしょう。


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高次脳機能障害の等級の争い

2012年10月28日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害の方を被害者とする訴訟を多く担当してきた。
 
 高次脳機能障害の訴訟には、等級の争いというのがつきものである。

 例えば、自賠責の等級判断で3級と判断されたとする。

 当方は、自賠責の認定理由を元に3級を前提として請求をする。

 すると、加害者側代理人は、カルテなどの医療記録を裁判所を通じて取得して、その記録を医者に渡し、医者に意見書を作成してもらう。
(詳しくは以前のブログ記事「加害者側代理人からの医療記録の取り寄せ」をご参照下さい)

 
この「医師」というのは、被害者の主治医とは別の医師で、任意保険会社側が依頼した医師である。

当然、患者である被害者は直接診ていないし、この機会に診るということもない。

彼らは、カルテなどの医療記録だけで、医療的な問題について加害者側弁護士に意見書を提出するのである。

等級についても必ず触れてある。

自賠責で3級と判断されていても、「その等級判断は妥当ですね」っていう意見書はまず出てこない。

大体が、「5級又は7級である」とか、それよりも下の等級を言ってくる。

加害者(=任意保険会社側)では、被害者の請求額をいくらかでも下げたいと考えているのだから、意見書を書く医師も、自分の依頼者の利益になるように書くのだろう。

高次脳機能障害というのは、多彩な症状を呈するし、こんなところはできないけれども、こんなところはできるというようなこともあって、できるところばかり繋ぎあわせれば、等級はそれなりによく見えるのである。

任意保険会社側の医師の意見書はそんなのばっかりである。

ただ、医者が医学的な言葉を交えて書いているので、この意見書にきちっと反論するには、それなりの医学的な知識と等級認定についての知識がないといけない。

弁護士としては、任意保険会社側医師に負けないだけの、医学的知識が必要なのだ。


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高次脳機能障害7級の場合の労働能力喪失率と日常生活状況報告表

2011年01月11日 | 高次脳機能障害
 自賠責の等級は1級から14級まであります。
 1級が一番重く、14級が後遺障害としては、一番軽い等級になります。
 
 それぞれに労働能力喪失率の基準というものがあり、1級は100%、14級は5%です。

 7級の場合、56%が基準値となっています。

 高次脳機能障害の場合、この労働能力喪失率が争われることが多いです。
 被害者側からは、基準値をとって、「労働能力喪失率は56%である」と主張しても、被告側からは、「それよりも下であって、35%程度である」というような主張がなされます。

 この点について争われた裁判例として次のようなものがあります(横浜地裁の判決;末尾参照)。

 ア 自賠責では高次脳機能障害7級4号と認定されました。
 イ 訴訟では、原告(被害者)が56%の労働能力喪失率を主張し、被告(加害者側)は、「原告の等級は9級に該当するに過ぎない」と主張して、等級自体が争点となりました。
 ウ 裁判所は、等級認定はしないで労働能力喪失率を45%(8級の基準)としました。

 裁判所がそのように判断したのは、自賠責において認定の根拠となった、日常生活状況報告表などの資料自体の信用性に疑問があるというものでした。

 この判決から言えることは、日常生活状況報告表などの信用性自体が後々から問題とならないように、内容を吟味して作成しておくべきであるということです。
 
 日常生活状況報告表の作成は、文章を書かなければならず、普段から文章を書き慣れていない方には、作成が難しいかもしれません。

 そのような場合は、弁護士に相談するなどして、作成を援助してもらったほうがよいです。

(参考)
 横浜地裁平成21年12月17日判決(自保ジャーナル1818号126頁)


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高次脳機能障害2級の付添費(参考裁判例)

2010年09月29日 | 高次脳機能障害
高次脳機能障害2級の付添費(介護料)を、次のように認めた裁判例を見かけましたので、紹介します。
(水戸地裁下妻支部平成21年12月17日判決自保ジャーナル1820号35頁)

・入院付添費 日額8000円
・症状固定後の付添費 年額441万6864円
→日額にして約1万2000円

2級としては、かなり高額な付添費を認めていますが、これは高次脳機能障害の2級ではあるが
①便・尿漏れがあり、おむつ交換を介護者がしなければならない
②妄想、幻覚がある
③デイサービスを利用しており、公費負担分も含めて年額約194万3580円かかっている(月額16万1965円)
という理由があります。

高次脳機能障害2級であっても、症状固定後の状態によって、介護の負担というのは異なるので、その点を明らかにしていくことが必要になるかと思います。





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高次脳の場合の自賠責の被害者請求はどのくらい期間がかかるか

2010年07月12日 | 高次脳機能障害
Q 自賠責の被害者請求をしてから、認定が出るまでどのくらい期間がかかりますか?

A 障害の内容によって違うので、一概にはいえません。
 ここでは、高次脳機能障害の場合について目安を申し上げます。

 統計をとっているわけではありませんが、私の感覚として、
  申請をしてから早くて4ヶ月くらい 
  通常は6ヶ月くらいみておいてくださいとご説明しています。

 自賠責の調査事務所から疑問点を聞いてきたりしますので、それにどれくらい早く対応できるかによって多少前後します。

 高次脳の場合は、高次脳審査会をとおるので、ほかの後遺障害よりも多少時間がかかります。
 高次脳審査会については、下記記事を参照してください
http://blog.goo.ne.jp/lodaichi/e/4dc77c4636c94682bd498c186e4051f5

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高次脳機能障害5級で労働能力喪失率100%を認めたケース

2009年12月18日 | 高次脳機能障害
高次脳機能障害の認定は5級であるのに、労働能力喪失率が100%と認定されたケースがありますので、紹介します。

東京地裁平成21年7月3日判決(自保ジャーナル1804号)

通常5級というのは、労働能力喪失率は79%とされています。

しかし、これはあくまでも「基準」なので、実態として労働能力が全くないと裁判所が判断することはできます。

東京地裁は色々な理由をあげていますが
・一般就労は困難又は不可能であるとの医師の診断書が複数ある
・被害者は事故後全く就労していず、外部との対人関係を維持することもできない(妻の看視介護のもとに引きこもりのような生活をしている)
ことから「高次脳機能障害の為に、原告の作業能力は一般人に比較して、著しく制限されており、仮に就労しえたとしても、その維持には職場の理解と援助を欠くことができないものというべき」としています。

また、右足関節の機能障害もあることから
「被害者の将来の就労は現実的には全く不可能」
=労働能力喪失率100%
としています。

高次脳機能障害5級で、労働能力喪失100%を認めることはまれです。(本来3級以上でないと100%が認められません)

このケースも、被害者の症状を判決で読んでいると、3級レベルにあるのではないかとさえ感じられます。

5級といっても、3級に近いものから、7級に近いものまであり、このケースは、3級に限りなく近く、かつ他の後遺障害(右足関節機能障害)が存在したことから労働能力喪失率100%を認めたのではないかと思います。

なお、この判決は介護料も認めており
日額3000円
を認定しています。

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