裁判所構成法を読む 第3編司法事務ノ取扱
第4章-第6章 (125条-144条)
公布:明治23年2月10日
施行:明治23年11月1日(上諭)
第4章 裁判所及ビ檢事局ノ事務章程
#裁判所構成法
第125条 裁判所及ビ檢事局ノ標準ト爲スべキ規則ハ、司法大臣之ヲ定ム。
2 控訴院長及ビ檢事長ハ、前項ノ規則ニ依リ、各自管轄區域内ノ裁判所及ビ檢事局ニ對シテ、事務ノ一般ノ取扱ニ關リ、成ルべク統一ヲ旨トシ、殊ニ裁判所及ビ檢事局ノ開廳時間及ビ開廷ノ時日ニ付、訓令ヲ發ス。
3 大審院ハ、自ラ其ノ事務章程ヲ定ム。但シ、之ヲ實施スル前、司法大臣ノ認可ヲ受ク。
(コメント)
①裁判所及び検事局の標準規則は、司法大臣が制定する、②控訴院長及び検事長は、この規則によって、事務取扱について訓令を発する、③大審院は自身の事務章程を制定する。
標準規則こそ司法大臣が制定するが、管轄区域内の裁判所についての事務取り扱いは、各控訴院(現高裁に相当)が訓令を出すことができるので、地域毎に事務取り扱いが異なったことが窺える。
第5章 司法年度及ビ休暇
#裁判所構成法
第126条 司法年度ハ、一月一日ニ始マリ十二月三十一日ニ終ハル。
(コメント)
司法年度とは司法事務の取り扱いについての年度であり、1月〜12月である。このことは本条により規定されていたが、戦後、裁判所構成法が廃止されてからは、下級裁判所事務処理規則2条で定められている。
#裁判所構成法
第127条 裁判所ノ休暇ハ、七月十一日ニ始マリ九月十日ニ終ハル。
(コメント)
裁判所構成法では、裁判所の休暇が定められていた。その期間は7月11日〜9月10日である。現在は夏期の休廷期間が設けられているが、その法的根拠についてはすぐには探し当てられなかった(「裁判所の休日に関する法律」には夏期休廷期間について定めていない)。
#裁判所構成法
第128条 休暇中ハ左ノ事件ノ外、既ニ著手シタル民事訴訟ヲ中止ス。且ツ、新ナル訴訟ニ著手セズ。
第一 爲替手形、若ハ約束手形、其ノ他ノ流通證書ニ關ル請求
第二 船舶、又ハ運送賃、又ハ積荷ニ對スル請求
第三 財産差押事件
第四 住家其ノ他ノ建物、又ハ其ノ或ル部分ノ受取・明渡・使用・占據若ハ修繕ニ關リ又ハ賃借人ノ家具若ハ所持品ヲ賃貸人ノ差押ヘタルコトニ關リ、賃貸人ト賃借人トノ間ニ起リタル訴訟
第五 養料ノ請求
第六 保證ヲ出サシムルノ請求
第七 取掛リタル建築ノ繼續ニ關ル事件
第八 前數項ニ掲ゲタルモノヲ除ク外、區裁判所ノ判事ニ於テ、又ハ民事訴訟法ノ定ムル所ニ從ヒ、休暇部若ハ休暇部長ニ於テ直チニ著手スべキ緊急ノモノト認メタル請求若ハ事件
(コメント)
裁判所の休暇中(127条;7月11日〜9月10日)は原則として、係属中の民事訴訟は中止となる。また新たな訴訟には着手しない。
#裁判所構成法
第129条 休暇中ニ拘ラズ、刑事訴訟、非訟事件、判決執行、破産事件竝ビニ民事訴訟法ニ依リ略式ヲ以テ取扱フコトヲ得ヘキ訴訟ハ、之ヲ停止スルコトナシ
(コメント)
裁判所の休暇中に停止となるのは民事訴訟であって、刑事訴訟等本条に記載されている類型の事件は停止しない。
#裁判所構成法
第130条 合議裁判所ニ於テハ、休暇中事務取扱ノ爲、休暇部ト稱スル一若ハ二以上ノ部ヲ設ク。
2 休暇部ノ組立ハ、休暇ノ始マル前裁判所長之ヲ定ム。第二十三條ハ此ノ部ニモ亦之ヲ適用ス。
3 二人以上ノ判事ヲ置キタル區裁判所ノ休暇事務取扱方法ハ、監督判事之ヲ定ム。
(コメント)
裁判所の休暇中に停止となるのは民事訴訟であって(民事訴訟でも例外あり)、刑事訴訟等は停止しない。そこで、本条により休暇部を設け、休暇中の事務を取扱わせる。
第6章 法律上ノ共助
#裁判所構成法
第131条 裁判所ハ、訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依リ、互ニ法律上ノ輔助ヲ爲ス。
2 法律上ノ輔助ハ、別ニ法律ニ定メタル場合ノ外ハ、所要ノ事務ヲ取扱フべキ地ノ區裁判所ニ於テ之ヲ爲ス。
(コメント)
「法律上の共助」は、現行法では「裁判所の共助」といい、裁判所が事件を処理する際に相互に与える法律上の援助をいう。
現行法は以下のとおり規定(裁判所法)。
第七十九条(裁判所の共助) 裁判所は、裁判事務について、互に必要な補助をする。
#裁判所構成法
第132条 檢事局モ亦、各自ノ管轄區域内ニ於テ、取扱フべキ事務ニ付キ、互ニ法律上ノ輔助ヲ爲ス。
(コメント)
検事局についての法律上の共助に関する規定。
#裁判所構成法
第133条 裁判所書記課モ、亦其ノ權内ノ事件、又ハ其ノ配下ノ執達吏ノ權内ノ事件ニ付キ、互ニ法律上ノ輔助ヲ爲ス。
(コメント)
裁判所書記課についての法律上の共助に関する規定。
第4編 司法行政ノ職務及ビ監督權
#裁判所構成法
第134条 合議裁判所長、區裁判所ノ判事、若ハ監督判事、檢事總長、檢事長、檢事正ハ、司法大臣ノ由テ以テ、司法行政ノ職務ヲ行フノ官吏トス。
(コメント)
本条に規定されている者が、司法行政の職務権限を行うことができる。「合議裁判所長」とは、大審院長、控訴院長、地方裁判所長のこと。各々の権限は次条(135条)に規定されている。
#裁判所構成法
第135条 司法行政監督權ノ施行ハ、左ノ規程ニ依ル。
第一 司法大臣ハ、各裁判所及ビ各檢事局ヲ監督ス
第二 大審院長ハ、大審院ヲ監督ス
第三 控訴院長ハ、其ノ控訴院及ビ其ノ管轄區域内ノ下級裁判所ヲ監督ス
第四 地方裁判所長ハ、其ノ裁判所、若ハ其ノ支部及ビ其ノ管轄區域内ノ區裁判所ヲ監督ス
第五 區裁判所ノ一人ノ判事若ハ監督判事ハ、其ノ裁判所所屬ノ書記及ビ執達吏ヲ監督ス
第六 檢事總長ハ、其ノ檢事局及ビ下級檢事局ヲ監督ス
第七 檢事長ハ、其ノ檢事局及ビ其ノ局ノ附置セラレタル控訴院管轄區域内ノ檢事局ヲ監督ス
第八 檢事正ハ、其ノ檢事局及ビ其ノ局ノ附置セラレタル地方裁判所管轄區域内ノ檢事局ヲ監督ス
(コメント)
本条は、前条(134条)に規定されている者が、各々のどの範囲で司法行政の職務権限(監督権)を行うのかを規定している。
#裁判所構成法
第136条 前條ニ掲ゲタル監督權ハ、左ノ事項ヲ包含ス。
第一 官吏不適當、又ハ不充分ニ取扱ヒタル事務ニ付キ、其ノ注意ヲ促シ、竝ビニ適當ニ其ノ事務ヲ取扱フコトヲ之ニ訓令スル事
第二 官吏ノ職務上ト否トニ拘ラス、其ノ地位ニ不相應ナル行状ニ付キ、之ニ諭告スル事。但シ、此ノ諭告ヲ爲ス前其ノ官吏ヲシテ、辯明ヲ爲スコトヲ得セシムべシ。
(コメント)
本条は、司法行政の職務権限(監督権)の内容についての規定である。
#裁判所構成法
第137条 第十八條及ビ第八十四條ニ掲ゲタル官吏ハ、第百三十五條ニ依リ行フべキ監督ヲ受クルノ官吏中ニ之ヲ包含ス。
(コメント)
司法行政の職務権限(監督権)は、内部職員だけに限らない。例えば、本条法18条は、「
區裁判所檢事局ノ檢事ノ事務ハ、其ノ地ノ警察官・憲兵・將校・下士又ハ林務官、之ヲ取扱フコトヲ得」と規定しており、憲兵等にも及ぶ。監督権はこれらの官吏にも及ぶ。
#裁判所構成法
第138条 裁判所、若ハ檢事局ノ官吏ニシテ、適當ニ其ノ職務ヲ行ハザル者、又ハ其ノ行状其ノ地位ニ不相應ナル者ニ付キ、第百三十六條ヲ適用スルコト能ハザルトキハ、懲戒法ニ從ヒ之ヲ訴追ス。
(コメント)
裁判所・検事局の官吏を懲戒すべき場合についての規定。監督権者は、訓令・諭告を行うことができるが(裁判所構成法136条)、同条を適用することが不適当なほど、職務を行わない者等については懲戒法により対処すべきである。
#裁判所構成法
第139条 前數條ニ掲ゲタル司法行政ノ職務及ビ監督權ハ、判事、若ハ檢事其ノ官吏タルノ資格、又ハ其ノ他ノ資格ヲ以テ爲シタル事ニ對シテ起リタル請求ニ付キ、其ノ請求ヲ滿足セシムル爲、之ヲ執行スルコトヲ得ズ。
(コメント)
司法行政の職務及び監督権は、判事・検事の官吏の資格又はその他の資格による行為に対して起こった請求については、執行することができない。
#裁判所構成法
第140条 司法事務取扱ノ方法ニ對スル抗告、殊ニ或ル事務ノ取扱方ニ對シ、又ハ取扱ノ延滞、若ハ拒絶ニ對スル抗告ハ、此ノ編ニ掲ゲタル司法行政ノ職務及ビ監督權ニ依リ之ヲ處分ス。
(コメント)
司法事務取扱方法に対する抗告は、司法行政の職務及び監督權によって対処する。
#裁判所構成法
第141条 裁判所及ビ檢事局ハ、司法大臣、又ハ監督權アル判事若ハ檢事ノ要求アルトキハ、法律上ノ事項又ハ司法行政ニ關ル事項ニ付キ意見ヲ述ブ。
(コメント)
①司法大臣、②監督権ある判事又は検事が要求すれば、裁判所・検事局は法律上の事項、司法行政に関する事項について意見を述べなければならない。
#裁判所構成法
第142条 司法官廳ニ對シテ起リタル民事ノ訴訟ニ於テハ、其ノ訴訟ヲ受ケタル裁判所ノ檢事局ハ、司法官廳ヲ代表ス。
(コメント)
司法官庁を被告として訴訟が提起されたときは、その訴訟を受付た裁判所の検事局が司法官庁を代表する。
#裁判所構成法
第143条 此ノ編ニ掲ゲタル前各條ノ規程ハ、裁判上執務スル判事ノ裁判權ニ影響ヲ及ボシ、又ハ之ヲ制限スルコトナシ。
(コメント)
本編(司法行政ノ職務及ビ監督權)の各規定は、裁判を執務する裁判権に影響を及ぼしたり、制限することはできない。
附則
#裁判所構成法
第144条 此ノ法律ノ施行ニ關ル規程、竝ビニ從來ノ法律ニシテ、此ノ法律ニ牴觸ストモ當分ノ内仍ホ効力ヲ有セシムルモノハ、別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム。
(コメント)
附則。以下は別に法律をもって定める。
①本法律の施行に関する規程
②本法に抵触するが、当分の間は有効とするもの