南斗屋のブログ

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民事訴訟の流れを把握する

2018年05月22日 | 交通事故民事
【民事訴訟の流れをなぜ把握するのか】
「弁護士さんに裁判を依頼しているのだが、何をやっているのかさっぱりわからない。」「ちゃんとした説明がない」「説明はされているがよくわからない」というご相談をいただいたりします。
お話をよく聞いていると、弁護士から裁判所での期日の報告書は届いており、それなりに丁寧に書かれていたりもします。
つまりは、弁護士の説明と依頼者の聞きたいことが合致していない。
弁護士の説明は、依頼者の求めるものと違うので、「ちゃんとした説明がない」等というリアクションになってしまうのです。
まずは、民事訴訟というものの流れを大雑把に理解していただくことが必要ですが、そのような説明がされていないことが多いので、参考にしてみてください。
なお、ここでの説明は民事訴訟の流れを踏まえてはいますが、どこの本に載っているのでもなく、「こう説明したらわかりやすいかな」と私が考えているだけですので、その点はご容赦ください。

【訴状はテーマの提示】
民事訴訟はまずは原告が「訴状」を裁判所に提出することから始まります。
被告は訴状についてこたえる「答弁書」というものを提出します。
原告が提出する「訴状」は民事訴訟のテーマだと思ってください。
テーマは原告が決めます。
例えば、離婚訴訟ですとテーマは、離婚することだったり、親権者を誰にするかだったり、養育費をいくらにするかだったりしますので、何を求めるかを決めて訴状に書きます。
このテーマを出さないことには裁判は始まりません。
テーマは原告が設定するものであり、裁判所はそれを見ているだけです。
訴状でいちばん大事なのはこのテーマの提示でして、できるだけ漏れのないようにテーマを提示する必要があります。

【被告側の応答】
原告がテーマを提示したことに対して、被告はどう応答するのかを決めることになります。
まずはざっくりとした方針を決め、訴状に対して認否をしていかなければなりません。
「認否」というのは、訴状に書かれている事実について認めるのか否認するのか、ということをいいます。
この認否は「答弁書」やその後に提出する「準備書面」といったものに記載することになりますが、方針を決め、その方針のもとに書面を記載していくことになります。
原告側に比べて被告側は準備時間が短いのが通常ですが、このような作業を疎かにすると後々苦労することとなります。

【その後は争点を整理するための主張・証拠の提出の応酬】
訴状で訴訟のテーマが出され、その後被告側がテーマに対する応答をしていきますと、次は原告側、被告側双方が主張・証拠を提出することの応酬になります。
民事訴訟上の用語では「争点整理」といいます。
争点を整理するためには、原告側、被告側そして裁判所が的確に争点を把握し、主張・証拠を提出していく必要がありますが、必ずしも噛み合った議論になるとは限りません。
場合によっては非常に散漫になったり、関係のないことを延々と論じたりしている場合もあります。
このようなときに、依頼者からは「何をしているのかわからない」という声がでやすくなります。
依頼者サイドとしては、弁護士に「何が争点となっているのですか。その争点についてどのような主張がそれぞれ出されているのですか。よくわからないので争点の整理表のようなものを作って見せていただけませんか」とリクエストするのも良いかと思います。
争点の整理というのは、常に「何が争点となっているのか。その争点についてどのような主張がそれぞれ出されているのか。」を意識していなければならないのですが、弁護士もこれを頭の中でやっていることが多く(かくいう私もそうです)、中にはなんとなくしか考えていない弁護士も少なくないと思われますし、そのような弁護士は依頼者にもうまく説明ができないでしょう。そのためには、簡単でも争点の整理表を作成してもらえば双方の理解に役立つのではないかと思います。

【争点の整理が終われば尋問、判決】
双方の主張が平行線になってきて、証拠も提出されれば、争点の整理が終わったと裁判官も考えますので、その後は必要があれば尋問を行い、判決という流れになります。
現在では尋問はよほどの大きい案件でもない限り、半日程度で終わらせますので、尋問は期間的にはそれほど長くなりません。
一番長くなるのは、争点の整理手続き、つまり主張・証拠の提出の応酬をしている時間ですので、訴訟の流れを掴むには争点整理で何が行われているのかを把握するのが重要です。

【和解について】
以上ざっと判決までの流れを見てきましたが、実は重要なことを書いていません。
訴訟上の和解についてです。
民事訴訟では「和解」というものが非常に重要で、かつ、多くの案件は和解で終了しますので、和解について書かないといけないのですが、和解のタイミングというのはいろいろあってこれを入れてしまうと流れがわかりにくくなってしまいますので、今回は和解については書きませんでした。
この点についてはまたいつか書きたいとと思っています。

(写真は本文と関係ありません)

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最近の判決は短めになってきましたが、その理由について考えてみました

2018年05月07日 | 交通事故民事
20年くらい前と比べると民事とか家事の判決というのはだいぶコンパクトになったような気がします。簡潔になった。これはどういう原因からか厳密にはわかりませんが、裁判官が忙しくなった。そういうことも影響しているように思います。

民事事件の件数は全体的には減少傾向なので、裁判官が以前に比べて忙しくなっているというのは、なぜなんだろう?と思ってしまいます。しかし、裁判官が忙しくなっている、余裕を失ってきているというのは事実のようでして、裁判官が書く論文も減っているようですし(判例タイムズも今や月刊・以前は月2回でした)、現役裁判官が本を出版するのも減っているように思います。

判決がコンパクトになってきているのは、裁判官が忙しくなっているというのとは別の原因もあるのかもしれません。最高裁長官を務めた矢口洪一は、「判決を見てきたように細かく書くのはやめたほうがいい。民事、刑事の関係なく、書けば書くほど『ここも間違っている。ここも違っている』ということになる。書かなければいいんです」といっている。

さらに、「裁判の本質は精緻な判決を書くことにあるのではない」とまで言っている。矢口洪一は海軍の軍法会議(会議とありますが、軍規違反の裁判のことです)の経験があって、「1日20件くらいは当然やりますからね」というスピード感なので、そういうのが念頭にあるんでしょう。1日20件も判決をするのでは、そんなに詳しい判決を書くことはできないですから。

矢口洪一の言説は、発言の当時「精緻な判決を書くのがよい」という考え方があったことが透けてみえます。20年以上前に私が出合った判決はかなり詳細なものであり、それだけに判決が出るのも時間がかかってました。

今は、民事の場合は弁論終結したら2ヶ月後には判決言渡しが原則ですからね。一審も二審もその辺はおんなじです。これだけのスピード感だと精緻な判決は書いていられないというのが裁判官側にあるのかなと思ってます。

つまり、今風にいうと判決は「ざっくり」なんですね。事実認定もざっくり。法の適用もざっくり。結論もざっくり。ところが、依頼者サイドからすると今の判決には不満がたまってます。「何でそういうふうな事実認定になるのかわからない」という感想が多い。

事実認定がざっくりというのは、当事者間に争いがない事実、客観的な証拠から確実にいえることだけ認定すること。当事者は判決を読んで、いろいろ主張したことは何だったのという徒労感に襲われる。最近そんな声が多いです。

それで、納得できないから控訴する。控訴しても和解勧試もなくてあっさりとした一審と同じような判決だと全然納得できない。それは弁護士サイドでもおんなじです。裁判官がどんな思考でそう考えるのかがわからないことが増えました。だから、依頼者に説明しようにも説明できない。

その訴訟はその判決で終わりになるけれども、紛争というのはそれだけじゃないことがあります。交通事故の損害賠償請求なら1回限りで、それ以上の紛争拡大はないのが普通でしょうが、夫婦間の紛争とかは火種がいくつも転がっています。

今の裁判官は「紛争の全体的解決」ということは言わなくなりましたね。以前はこのスローガンのもとに和解を熱心に裁判官が主導していたはずですが、いつのまにか下火になった。紛争を全体的に解決するよりは、今係属している訴訟の処理だけに専念したいようです。

だから、紛争の火種が残っているところでは、紛争が継続していく。その顕著な例が家裁での調停・審判事件の激増ではないでしょうか。

詳しいだけの判決が良いとは思いませぬが、詳細な判決に当事者が納得することもあります。一審でもめにもめて和解も全然ダメ、これは控訴必至だと弁護士サイドが思っていた事案で、判決がやけに詳細で今風な判決でなかったのがありましたが、当事者双方とも判決に納得。控訴なしで終わりました。

その判決はこうも考えられるし、こうも考えられる、でも結局これはこうだろうみたいな事実認定で、おまけに判決期日が延期で弁論終結から2ヶ月では言渡されなかったのですが、言渡しの遅れはともかく、そういう事実認定が人を納得させることもあるのだと認識しました。


(写真は本文と関係ありません)

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