(はじめに)
成年後見制度については、政府も一生懸命広報して、利用者を多くしようとしているのですが、どうも政府の思惑通りには伸びていないという感じです。
成年後見の申立て件数は、平成25年以降は年間約3万4000件程度で推移しておりましたが、平成29年には3万5000件を突破し、増加傾向にあるのですが、日本で認知症の高齢者は推計600万人と言われていますから、その数に比べると少ないということなのでしょう。
(成年後見制度利用促進基本計画)
今後も認知症の高齢者の増加が見込まれることなどから、国では、市町村事業として中核機関の立ち上げ支援、中核機関の先駆的取組の推進を計画しています(成年後見制度利用促進基本計画)。
しかし、中核機関の設置は全市町村の55%にとどまっており、地域の体制整備が進まず、利用支援に課題があるなどと報じられています(2021年4月15日付日経新聞)。
「中核機関」は、後見制度の広報、制度利用の相談、制度利用促進(マッチング)、後見人支援等の機能を整備する機関です。
市民後見人の研修、育成も中核機関が行うこととされています。中核機関は、市町村が直営するほか、委託も可とされています。
国は成年後見制度の利用促進を計画しても、地方自治体の動きはにぶいということになりましょうか。
(成年後見人にはどのような者がなっているのか)
成年後見人は、以前は親族がなることがほとんどで、家族ではない第三者(弁護士、司法書士等)がつくこともあるという印象があったのですが、平成30年には、親族で成年後見人となったのは約23%、第三者が約77%となっています。今では、第三者が成年後見人につくのが当たり前に当たり前になってしまったのですね。
第三者のうちでは、司法書士がトップで、弁護士、社会福祉士が続きます。親族以外では、この三者で約85%を占めます。
このように成年後見人には資格保有者が選任される傾向がありますが、社会福祉協議会や市民後見人が成年後見人につくこともあります。
(成年後見人の申立人等)
成年後見人をつけるには、家庭裁判所に申立てが必要です。
申立てをするのは、やはり親族が多く全体の約60%。次いで多いのが、市区町村長申立てです(約21%)。
親族申立てに次ぐ件数があり、市区町村長申立ては増加傾向にありますので(平成25年~平成30年の間に2700件以上増加)、市区町村長申立ては重要な役割を果たしているといえます。
(市区町村長申立ての根拠条文)
市区町村長申立ての根拠条文は次のとおりです。
①老人福祉法32条
「市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは(中略)審判の請求をすることができる。」とあって、65歳以上の者であること、福祉を図るため特に必要があることが要件となっています。
②知的障害者福祉法28条
「市町村長は、知的障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは(中略)審判の請求をすることができる」
とあって、知的障害者であること、福祉を図るため特に必要があることが要件となっています。
③精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2
「市町村長は、精神障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは(中略)審判の請求をすることができる」
とあって、精神障害者であること、福祉を図るため特に必要があることが要件となっています。
以上からわかるように、市区町村長申立ては、法律の根拠は高齢者、知的障害者、精神障害者で別々に分かれており、地方自治体の担当する課も分かれていることが多いのではないかと思われます。
そのため、自治体で成年後見を推進してほしいとなった場合でも、どの課がやるかということについて一本化できないという現象が起こっている可能性があります。
中核機関を立ち上げるにも、このことは少なからず影響を与えているのではないでしょうか。