南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

脊髄不全損傷の認定

2009年06月29日 | 脊髄損傷
 脊髄不全損傷をどのように認定するかについて参考になる裁判例をみかけましたので、紹介します(大阪地裁平成20年7月31日判決自動車保険ジャーナル1787号10ページ)。

 このケースは、被害者側が脊髄不全損傷(3級)を主張し、加害者側が「そもそも被害者には脊髄不全損傷などない」と主張し、真っ向から主張が対立していた事案です。

 裁判所は、このケースで脊髄不全損傷を認めました。

1 事故の大きさ、事故が被害者に与えた衝撃が強いこと
 ←加害車両が時速70キロから80キロで、被害者(自転車で走行中)に衝突し、ボンネットに跳ね上げたまま衝突地点から約40メートルの地点まで進行して被害者を地面に落としたという事故でした

2 被害者の骨折箇所
 ←「被害者は、脊椎の多発骨折(第6、第7頚椎棘突起骨折、第1胸椎破裂骨折)等の骨折を折っており、第1胸椎の椎体が完全にひしゃげてしまっており、その椎体の後ろ側にある脊髄の一部が損傷を受けた可能性がある」と裁判所は判断しています。
 脊髄損傷は直接確認できないが、骨折などの明らかに診断できているところから、脊髄損傷の可能性があると判断したものです。
3 被害者の症状
 ←被害者に、両下肢痙性不全麻痺、両下肢知覚障害があることを忍t根医師、これは脊髄の索路症状と認められるとしました。
 また、排便・排尿障害があることも脊髄不全損傷を推認させるとしています。

4 画像所見がないことは決定的な証拠とはならない
 ←このケースでは、事故直後の画像所見で圧迫所見や髄内輝度所見がなかったようですね。
 しかし、裁判所は、
 「脊髄不全損傷は、知覚や運動が完全に麻痺する完全損傷とは異なり、損傷の部位・程度・損傷形態等により、代表的とされる各種症状の有無・程度には広範囲の差異があるとされ、画像で明確に捉えられない脊髄不全損傷があっても矛盾しないといえるから、画像所見のないことが決定的なものとはならない」
としています。

5 事故に近接した時期に麻痺や知覚障害がなくても脊髄不全損傷を否定することにはならない
 ←このケースでは、事故直後に上下肢に反射亢進があったようですが、裁判所は、
「仮に、本件事故に近接した時期に麻痺や知覚障害がなくても、脊椎固定隣接障害や脊髄不全損傷により遅発的に麻痺が進行したり、損傷脊髄由来の疼痛が悪化することは臨床医がしばしば経験するところであるから、脊髄不全損傷を否定することにはならない」としています。

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一時停止標識がある場合の通行方法

2009年06月26日 | 未分類
信号機のない交差点で、見通しが悪い場合、一時停止標識が設けられているところがあります。
このような場合、一時停止しなければならない側は、どのような通行方法をとらなければならないと法律上決められているでしょうか。

これは、事故が起きたときに過失相殺がどの程度になるかという問題とも絡んできます。

最近みかけた裁判例(横浜地裁平成20年8月28日判決自保ジャーナル1771号11ページ)を紹介します。

1 「一時停止標識が設置されている場合、一時停止標識に従って停止することが義務付けられる」
←これは当たり前ですね。

2 「一時停止にしたがって停止するのは、そのことで左右の確認を十分に行うことに意味があるのであり、一時停止をしたというだけで、注意義務を尽くしたという事は出来ない」
←一時停止の意味にさかのぼって考察しており、誰もが納得する議論の立て方です

以上から、
3 「信号機のない交差点の通行方法としては、
 a 一時停止した地点で左右の安全を確認し、
 b その後、見通しの状況によってはさらに少し前進した後、左右の安全の確認が要求される
 c その後徐行して進行すべき」
ということになります。

 このような通行方法をすべきことは、教習所で教わっているはずですが、免許を取得してから長い時間が経過しているほど忘れてしまいがちです。
 しかし、裁判所というところは、過失相殺という点では、まさに教習所どおりの論を展開してきますので、普段の自動車の運転でも注意が必要です。

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自賠責保険における高次脳機能障害

2009年06月21日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害がどのような場合に認定されるかということについては、なかなか難しい問題があります(過去記事「画像所見と高次脳機能障害(大阪高裁判決より)」


 交通事故の被害者が、高次脳機能障害かどうかを認定される第1関門は、自賠責保険での認定だと思いますので、
  自賠責保険が高次脳機能障害をどのようにとらえているか
について見ておきます。

 「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」という報告書があり、それが自賠責保険における立場を詳しく説明しています。
(報告書原本は→pdfファイル


 これは、平成19年2月2日に自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会で作成されたものです。
 
 この報告書によると
  自賠責保険における高次脳機能障害とは、脳外傷後の急性期に始まり多少軽減しながら慢性期へと続く、特徴的な臨床像を指すものとされています。
 標題だけあげておきますと、次のとおりです。

 1 典型的な症状ー多彩な認知障害、行動障害及び人格変化
 2 発症の原因及び症状の併発
 3 時間的経過
 4 社会生活適応能力の低下
 5 見過ごされやすい障害
 6 労働能力
 
 1項であげられている「認知障害、行動障害及び人格変化」の意味をそれぞれ見ておきましょう。

 認知障害・・・記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害のことです。
 具体的には
  新しいことを覚えられない
  気が散りやすい
  行動を計画して実行することができない
などをいいます。

 行動障害
  次のような行動の障害があげられています。
  ・周囲の状況に合わせた適切な行動ができない
  ・複数のことを同時に処理できない
  ・職場や社会のマナーやルールを守れない
  ・話が回りくどく要点を相手に伝えることができない
  ・行動を抑制できない
  ・危険を予測・察知して回避的行動をすることができない

 人格変化
  受傷前には見られなかったような自発性低下、衝動性、易怒性、幼稚性、自己中心性、病的嫉妬・ねたみ、強いこだわりなどの出現
 
 これらの症状は、軽重はあるものの併存することが多い
 

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加害者の刑務所への収容状況・出所情報を知ることができるか

2009年06月15日 | 交通事故刑事事件の基礎知識
 加害者が刑事事件で実刑判決を受け、刑務所に収容されるということがあります。

 この場合に、交通事故の被害者が、加害者の刑務所への収容状況・出所情報を知ることができます。

 法務省のHPに
  裁判後の段階での被害者支援
ということで掲載されていますので、詳細な内容はそちらをご参照ください。

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尋問に際して気をつけていただきたいこと

2009年06月10日 | 交通事故民事
第1審の訴訟が進んでいきますと、場合によっては尋問を行う必要がでてきます(必ずというわけではありません。途中で和解により訴訟が終了する場合もありますので)。

交通事故裁判では、被害者側からでる人としては、
 被害者やその家族
が考えられますが、尋問に際してどのようなことに気をつければよいでしょうか。

 まず、尋問というのは普通の会話とは違って、原則として、一問一答で答えなければならないということです。
 例えば、
弁護士「あなたは、平成*年*月*日に交通事故にあったのですか」
被害者「はい」
とだけ答えるのが、尋問に対する正しい答えです。

 これを次のように答えると、よくありません。

弁護士「あなたは、平成*年*月*日に交通事故にあったのですか」
被害者「はい。その日、私は学校がありましたので、学校からの帰り道でした。途中お腹が好いたので、コンビニによりお菓子を買いました。コンビにではそのほかに雑誌を立ち読みしました・・・」

 このようなやりとりでは、弁護士が聞きたい核心に答えていません。
 一問一答にしないと、回答が間延びしてしまいますし、聞いている裁判官のほうも”この尋問では何がいいたいのか?”とよくわからなくなってしまいます。

 尋問を何のためにやるかといえば、それは、裁判官を説得するためです。

 自分のいいたいことを無制限に話せる場ではありません。

 決められた時間の中で、自分の主張を正しく理解してもらう。

 そのためには、一問一答のルールを守って、尋問を受けていただければと思います。


関連記事 人証申請書

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訴状提出から第1回期日まで

2009年06月08日 | 交通事故民事
 訴状を提出してから、第1回の期日を迎えるまでの流れについてご説明いたします。
なお、原告側に代理人がついている場合は、裁判所とのやりとりはすべて原告側の代理人が行います。

1 訴状を裁判所に提出します。

2 裁判所は訴状を受け取ると、訴状をチェックします。
 不備が無ければ、裁判所側から、原告側に第1回期日をいつにするのか決める連絡が入ります。
 訴状提出からこの連絡が入るまでは、順調にいって1週間程度と見ています。

3 第1回期日は、原告側の代理人(弁護士)と裁判所の間でだけ決められます。

4 第1回期日が決まったら、裁判所は、被告側には、訴状などが送付されます。

5 交通事故裁判の場合は、被告は、訴状の送付を受けてから、通常
 被告→任意保険会社→弁護士(被告側代理人)
というルートで訴状などが送られますので、書類の送付がスムースに行かない場合、被告側代理人が着くのが第1回直前になるというようなケースも見受けられます。

6 第1回期日は、被告側の都合はきかずに定めているので、第1回期日のみ、被告側は欠席が許されています(参照→過去記事「期日の決め方」)。

7 被告側からは、答弁書という書面が第1回期日前に提出されます。
 だいたい第1回期日の3~7日前に原告側代理人にファクスされてくることが多いです。


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民事訴訟の期日が行われる場所

2009年06月04日 | 交通事故民事
民事訴訟の期日は、裁判所で行われます。
裁判所のどこで期日が開かれるかというのは、当事者の方や傍聴を希望される方には重要な関心があると思います。

民事訴訟の場合、期日にはいくつか種類があるので、その種類によって、期日が開かれる場所が違います。

民事訴訟の期日には次のようなものがあります。
 弁論期日
 弁論準備期日
 判決期日(判決をする期日)

このうち、
 弁論期日、判決期日→法廷
 弁論準備期日→準備室
というように場所が決まっています。

 法廷とういのは、テレビなどでもドラマで法廷シーンがありますが、まさにあのような感じです。
 法廷を見た方が「ほんとうにテレビと同じですね」という感想を言われることがありますが、テレビと同じです。
 というよりも、テレビが本当の法廷を真似して作っているので、当然そうなるわけです。

 法廷は公開ですから、誰でも傍聴することができます。
 当事者(原告・被告)の場合は、傍聴席ではなく、当事者の席に座ることができます。
 
 弁論期日や判決期日は法廷で行わなければなりませんので、このような公開の場で行われることになります。

 弁論準備手続が行われる”準備室”というのは、イメージがしにくいかもしれませんが、普通の部屋です。
 特別な施設はありません。
 普通の机や椅子が置かれているだけです。
 狭いところだと、6,7人入っただけで、一杯一杯になる準備室もありますし、もう少し多い人数が入れる準備室もありますが、それでも10人程度でしょうか。
 基本的に公開を予定していないので、一般の方が誰でも傍聴できるというわけではありません。
 当事者(原告・被告)は参加できます。

 法廷と準備室とは全然別の場所にありますので、参加される場合は、どこで行われるかは確実に抑えておいてください。
 東京地裁のように大きい法廷では、法廷の数がかなりありますから、法廷番号(605号というように番号がついています)を把握しておかないと当日迷ってしまうことになります。

 準備室の場合は、当日まず担当の係りの書記官室に集合します。
 東京地裁の場合は、民事27部(参考→過去記事)が交通事故を担当しており、この部は東京地裁の14階にありますので、弁論準備手続の場合は、必ず14階にまず集合します。
 東京地裁以外は、担当部を必ず確認して、そこの部がある、場所に行くようにしてください。


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大阪高裁の高次脳機能障害認定方法

2009年06月01日 | 高次脳機能障害
 前回、大阪高裁平成21年3月26日判決を簡単に紹介しましたが、今回は、もう少し判決の内容について紹介します。
 
 自賠責の診断基準では、CT又はMRIでの画像所見がないと、頭部外傷による高次脳機能障害という認定はしません。

 問題は、この自賠の基準を裁判所が認めるのか、それともこの基準とは別の判断をするのかです。

 この点について、大阪高裁は、自賠責の診断基準とは別の判断方法をとることとしました。
 具体的にはこのように判断しています。
「局在性損傷のないびまん性軸策損傷のみの脳外傷については、CTやMRIの画像所見では発見しにくく、画像診断において見落とされる可能性が高いとする趣旨の文献がある」
から、
「現在の画像診断技術で異常を発見できない場合に、外傷による脳の器質的損傷が存在しないと断定することはできない。」

 しかし、自賠責の認定方法が間違いだとしているわけではありません。
 大阪高裁判決は、「自賠責保険における一律的、画一的な高次脳機能障害の認定においては、客観的な基準を重視し、異常所見を必要とすることは有効である」と述べており、自賠責保険の基準の有効性は認めつつ、裁判所の判断は別であると述べているからです。

 それでは、どのように高次脳機能障害を判断するのかですが、同判決は、
「画像所見に基づく医学検査の結果をひとつの要素としつつも、事故態様、本件事故前と本件事故後の状況の比較などを総合的に考慮して判断すべきである」
としています。

 考慮する要素として、
 ・医学検査の結果
 ・事故態様及び本件事故後の被害者の治療状況
 ・本件事故前と本件事故後の状況の比較
を検討し、その上で総合的な判断をするということです。

 これだけ読んだだけでは、わかったようなわからないような気がします。
 これは、「総合的判断」という言葉が、基準の明確性を犠牲にしているからです。

 ただ、基準の明確性にこだわるあまりに医学上も高次脳機能障害と認められるものを排除するのは本末転倒でしょう。

 大阪高裁の判断は、基準の明確性をある程度犠牲にしつつも総合的な判断をして、高次脳機能障害を認定しようとするものといえます。

 

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