法律事務所大地(代表弁護士金子宰慶)のブログ

法律事務所大地は千葉県弁護士会所属の弁護士事務所です。

明治時代、弁護士は代言人と言われておりました

2018年04月16日 | 歴史を振り返る
明治150年なんて言われているので、明治時代のことを考える機会が多くなりました。そういえば、弁護士という名称も明治時代からだよなと思って調べてみたら、1893(明治26)年からで、この年に「弁護士法」が制定されたことによります。

では、それ以前はというと、弁護士は「代言人」(だいげんにん)と呼ばれていました。代言人という制度ができたのは、1872年(明治5年)8月3日「司法職務定制」によってです。代言人時代は1872年か1893年の21年間に過ぎません。

1893年以降、弁護士という言葉が定着したかというと、そんなこともなかったようです。代言という言葉の方が一般的には慣れ親しんだものであったようで、夏目漱石の「吾輩は猫である」には、弁護士を指す言葉として「代言」が使われています。

「吾輩は猫である」は「ホトトギス」の1905年(明治38年)1月号にその第一話が掲載されています。1893年の弁護士法から12年が経っていますし、知識人の漱石が弁護士という名称を知らなかったとは考えにくいので、代言の方が定着していたんでしょう。

因みに、この「代言」が住んでいるのは苦沙弥先生の隣家。三毛という猫を飼っています。この三毛がいうことが奮っていて、今でも通じる弁護士批判になっています。

三毛曰く「人間というのはちっとも所有権が分かっていない。猫の世界では目刺しの頭なぞは先に見つけたものがこれを食べられることになっているのに、人間はそんな観念がないものと見えて、猫から食べ物を掠奪する」と、代言(弁護士)は所有権というものが分かっておらんと憤っています。

「吾輩は猫である」で代言がでてくるのはここだけのようです。三毛の物語と絡めて後に展開してほしかったところなのですが、残念ながら代言人は第一話でこんな形でしか登場してきません。

ところで、弁護士が書いたものをみると、「代言人」というのはなくすべきものであったという論調になってきます。例えば、「千葉県弁護士会史」では「司法職務定制は代言人の資格を定めなかったため、無学・無識の代言人を多数排出させ、いわゆる『三百代言』の悪名も残している」とあります。

当初、代言人は免許制度ではなく、つまり無試験で代言人として振る舞うことができたというのは事実なのですが、それが「無学・無識の代言人を多数排出させた」というのは史料上の裏付けがあるのかなと疑問に思っています。

夏目漱石のからかい方からすると、この時点で「三百代言」というような悪名が世間一般の風潮であったようには思えないんです。そこまで悪徳だったら、隣人なのだから第二話以降で苦沙弥先生の悪口が炸裂しそうなものですが、そうはなったいないですから。

明治時代の人が、弁護士に対してどのような感情を抱いていたのかは、もっとほかの明治時代の小説にあたってみる必要があるのかなと思っています。

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交通事故の損害賠償請求と定期金賠償

2018年04月09日 | 遷延性意識障害
【交通事故の損害賠償請求と定期金賠償】
交通事故で重度の後遺障害が残り、介護が必要となった場合には将来の介護費用を損害賠償として請求することができます。
この将来の介護費用をどのように算定するかは、「将来」のことだけに難しい問題があります。
裁判官の将来を予測できる能力を持っているわけではないですから、現時点での状況から類推していくしかありません。
将来の介護費用は一括請求することが多いのですが、被害者が遷延性意識障害の場合には、裁判例の中には定期金での賠償としているものもあります(東京地裁平成24年10月11日判決判例タイムズ1386号265頁)。
今回は「定期金賠償方式」と言われるものについて説明します。

【定期金賠償方式とは?】
「一括払」「定期金賠償」を言葉で説明すると次のようになるかと思います。
・一括払・・・一括で請求する方式
・定期金賠償・・・将来の介護費用の場合は「その死亡に至るまで1ヶ月○円の割合による金員を支払え」というように死亡まで毎月支払われる方式

これだけですとピンとこないと思いますので、実際に判決でどのように命じられるのかと見てみましょう。
<一括払い方式の場合>
「被告は原告に対し、6000万円を支払え」
<定期金の賠償方式の場合>
「1 被告は原告に対し、4000万円を支払え
 2 被告は原告に対し、平成24年7月20日からその死亡に至るまで1ヶ月25万円の割合による金員を毎月19日限り支払え」

このように一括払い方式だと将来の介護費用も含めて一括での支払い(6000万円)となるのに、定期金賠償方式だと将来の介護費用の分は月額25万円となり、その他の部分(逸失利益等)は一括払い(4000万円)となります。
定期金賠償方式といっても全部が月々払いになるわけではなく、一括支払い部分と定期金部分が分かれるということになります。
(写真の下に記事続きます)


(写真は本文と関係ありません)
【定期金賠償方式のメリットは?】
交通事故の損害賠償請求は一括請求であることがほとんどなので、定期金賠償方式はメジャーではありません。
東京地裁の平成24年の判決でも被害者側は一括請求を求めていたのですが、裁判所の裁量で将来の介護費用について定期金賠償を命じられています。
定期金賠償のメリットどこにあるかというと、中間利息を控除されないということが最大のメリットです。
中間利息の控除については詳しくは別の記事を書きましたので、そちらをご参照いただきたいのですが(⇒過去記事)、簡単にいうと将来の分を割り引いてしか受け取れないということになります。
中間利息は現状では年利5%という想定のもとで割り引かれるので、金利が上がらない現代ではかなり差し引かれている感があります。
定期金賠償では、そのような中間利息の控除がない(差し引かれない)ことがメリットとしてあげられます。

【なぜ定期金賠償の請求は少ないのか】
ただ、被害者側からの定期金賠償の請求は多くありません。
被害者側からすると、「任意保険会社とは早く縁を切りたい。関わり合いになりたくない」という声があります。
定期金賠償は先ほどの例ですと月々25万円を支払ってもらえるということになりますが、任意保険会社が途中で倒産するかもしれません。
そうなると、判決では決められているけれども実際は支払ってもらえないという事態はありえます。
また、定期金賠償部分は例えば25万円と決まったらそれで終わりというわけではなく、事情の著しい変更があった場合は、判決の変更を求めることができることになっています。
これは民事訴訟法に規定されています。
「口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。」(民訴法117条)。
この変更判決については裁判例を見たことがありません。私の勉強不足によるものなのかもしれませんが、少なくとも裁判例があまりない分野であり、今後この点が問題となった時にどのような程度であれば変更を認めるのか、どのくらいの変更となるのかが予測不可能ということにはなります。
 変更ということは、増額も減額もありうるということなります。被害者側からすると減額もあるのかということになると、それだけで定期金賠償請求をしたくないという心情は理解できます。
 このように被害者側からするとなかなか定期金賠償での請求に踏み出せないというのが現在の状況ではないかと思います。
 もっとも、裁判所は被害者側が一括払い請求をしても、定期金賠償方式での判決を出せると考えており、当面そのせめぎあいが続きそうです。


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婚姻費用を計算式で求めてみましょう

2018年04月04日 | 家庭裁判所関係
【婚姻費用の計算式を知っておく意味】
婚姻費用は、婚姻費用の算定表というものが裁判所から発表されております。
東京家裁のホームページを見ると、「家庭裁判所において,養育費又は婚姻費用の算定をする際に参考として活用している資料です。」との説明がされておりますが、調停委員さんからは、「算定表で婚姻費用を決めるのが普通」などという説明がされることもあります。
それだけ実務上は大きな影響力のある算定表ですが、「4~6万円」「6~8万円」というように2万円刻みで表が作成されており、ピタリとした数字ではでません。
婚姻費用を1円単位で算定しても意味がないところもありますので、算定表で実務上も十分なのです。
ところが、審判などでは婚姻費用を計算式で出す裁判官もおります。
この計算式は、算定表の考え方を計算式で表したものなのですが。計算式の意味内容まで審判で細かく説明してはくれませんから、この点について解説をしてみましょう。
この計算式の考え方を覚えておくと、婚姻費用を1円単位で計算式で出すことができますので、表ではよくわからないとお考えの方にも役立つかもしれません。


【ケース】
以下のようなケースをもとに考えてみます。
夫婦と子ども1人(10歳)の家族で、妻が子どもを連れて別居して、夫に対して婚姻費用を請求する。
夫婦はいずれも会社員で、夫の給与収入は600万円、妻も600万円である。


【基礎収入を求める】
婚姻費用の計算は、給与収入から「基礎収入」というものを求めることから始まります。
この基礎収入というのは、 「婚姻費用や養育費を捻出する基礎となる収入」のことをいいます。
つまり、給与の中に「基礎収入」に当たる部分とそうでないものがあって、基礎収入」に当たる部分は婚姻費用に振り向けてくださいという意味です。
基礎収入以外の部分とは何かというと、「公租公課」、「職業費」および「特別経費」であると説明されています。
これを一つ一つ説明していくと煩瑣ですので、「税金とか仕事をしていくために必要な費用(被服費、交通費、 交際費)とかその他いろいろ生きていく上で支払わなければならないものを差し引くことは認めますよ」ということだと理解していただければよいのではないかと思います。
人によって生活スタイルが違うので、この差し引くべき金額は人それぞれで違うはずですが、そのようなことをやっていては計算ができませんので、「基礎収入の割合表」というものを利用するほかありません。
つまり、給与収入の一定割合を計算して基礎収入とするという考え方です。
この割合を4割として計算するものが多いようです。
そうすると、先ほどのケースでは基礎収入は次のように計算します。

1 給与収入
夫・・・600万円
妻・・・600万円
2 基礎収入の算定
給与収入が600万円、基礎収入の割合を4割として計算します。
夫=600万円×40%=240万円
妻=600万円×40%=240万円
夫婦合計で基礎収入は480万円となり、これが婚姻費用にあてるべき金額となります。
(写真の下に記事続きます)


(写真は本文と関係ありません)

【生活指数を使って基礎収入を振り分ける】
次に、この480万円をどうやって振り分けるのかということが問題となります。
一番わかりやすいのは、人数割りですね。
夫は一人で暮らし、妻は子どもとの二人暮らし。
よって、夫には3分の1、妻には3分の2というのが一つの考え方です。

しかし、その考え方で妥当でしょうか?
この考え方の前提は、子どもと妻とは同じ生活費がかかるということになりますが、子どもと成人とでは同じ生活費ということはないですよね。
とすると、この考え方で行くと夫側に負担が重くなってしまいます。
そこで、子どもの生活費が親と比較してどのくらいかかるのかという考え方をします。
これが「生活指数」と言われるものです。
裁判所が用いている生活指数は次のようなものです。

親の生活費=100
14歳までの子の生活費=55
14歳以上の子の生活費=90

これは、14歳までの子の生活費は成人の55%、14歳以上の子の生活費は成人の90%ということを意味します。
そうすると、事例での生活指数は次のようになります。

3 生活指数
妻側=155(100+55) ・・・①
夫側=100・・・②

この生活指数を使って夫婦の合計の基礎収入(480万円)を振り分けます。

4 妻が生活費として確保できる金額の算定
480万円×①/(①+②)=480万円×155/255=291万7647円・・・③
←この金額が妻が生活費として確保できる金額となります(年額)。

5 妻に支払われるべき金額
妻の基礎収入は240万円なので、夫から妻に支払われるべき金額は③から240万円を引きます。
291万7647円ー240万円=51万7647円(年額)
⇒月額とすると4万3137円

婚姻費用の計算の基本的な考え方はこのようなものになります。
この計算方法を知っておくと、婚姻費用や養育費というのがどのような考えに基いて決められているのかを理解することができます。
実際には、今回のケースのようにシンプルなものは算定表を使っても、結論はほぼ一緒になるのでこのような計算をするメリットはあまりありませんが、算定表では算定できないケース(例えば子どもが4人の場合)については計算を使って算定していかなければなりません。

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こんな場合は単純承認になるでしょうか?~その2

2018年04月01日 | 相続関係

【こんな場合は単純承認になるでしょうか?】
以前、こんな場合は単純承認になるでしょうか?という記事を書きましたが(→こちら)、本日はその続編です。

【今回のケース】
今回は次のようなケースで考えてみます。
父親が亡くなったAさんは、父親の銀行口座に300万円あったので、そこからお金を引き出し、火葬費用、お父さんの治療費の残額、葬儀費用を支払いました。
その後お父さんに1000万円を超える債務があることが分かったので、相続放棄の申述をしました。

【単純承認が問題になる理由】
民法では「相続財産の一部を処分した」場合には単純承認をしたとみなすという規定があるので、銀行口座からお金を引き出し、火葬費用、治療費、葬儀費用を支払ったのが「相続財産の一部を処分した」ことにあたるかが問題となります。

【火葬費用ならびに治療費残額について
の判例】
火葬費用ならびに治療費残額について判断している裁判例があります。
結論はこのようなものを支払っても単純承認にはならないとされています。

この裁判例が言おうとしていることを私なりに噛み砕いていうと次のようになるかと思います。

故人のお金を使うのは厳密にいうと「相続財産の一部を処分した」と言えるかもしれませんね。しかし、火葬費用とか治療費を支払ったくらいで単純承認にしてよいものでしょうか。その程度のこともできないということになると、倫理とか道義とかがなくなってしまいませんかね。単純承認になるからということで、火葬費用を支払わない、治療費も支払わないという世の中になったらどうなりますか。火葬費用は自治体が負担しなければならないだろうし、治療費は病院が負担しなければならない。遺族が得するためにそのようなことになるのは不公平で
はないですか。そういうのを法律上では「信義則」というんです。そういう風に考えれば、火葬費用の負担、治療費の支払いは法律上は相続財産を処分したとして、単純承認したとまでは言えない、そう考えるのが妥当ではないでしょうか。

裁判例の原文を上げておきます。
大阪高裁昭和54年3月22日決定(家月31・10・61)
「遺族として当然なすべき被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払に充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、相続人が相続財産の存在を知つたとか、債務承継の意思を明確に表明したものとはいえないし、民法九二一条一号所定の「相続財産の一部を処分した」場合に該るものともいえないのであつて、右のような事実によつて抗告人が相続の単純承認をしたものと擬制することはできない」


【葬儀費用についての判例】
葬儀費用についても判断している裁判例があります。
葬儀費用を支払っても単純承認にはならないとされています。

この裁判例は読みやすいのでそのまま判断箇所を挙げておくだけでよいでしょう

大阪高裁平成14年 7月3日決定(家月 55巻1号82頁)
「葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
 したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。」

やはりポイントは「常識」のようです。
相続財産があるのにこれを使用することができなくて、葬儀もできないというのは非常識ではないですかという価値判断があります。

【仏壇や墓石の購入はどうか?】
この大阪高裁の事例では仏壇や墓石の購入まで行っているケースでしたので、その点についても判断しています。
葬儀費用とは異なり、仏壇や墓石については微妙な問題となるようです。

「葬儀の後に仏壇や墓石を購入することは、葬儀費用の支払とはやや趣を異にする面があるが、一家の中心である夫ないし父親が死亡した場合に、その家に仏壇がなければこれを購入して死者をまつり、墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に、遺族がこれを利用することも自然な行動である。
 そして、抗告人らが購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、抗告人らが香典及び本件貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したものである。
 これらの事実に、葬儀費用に関して先に述べたところと併せ考えると、抗告人らが本件貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が、明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できないというべきである。」

葬儀費用については、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないと明言しているのに、仏壇や墓石については「断定できない」と言葉を変えていることからも、葬儀費用とは異なる取り扱いがありうるということがおわかりいただけるかと思います。


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こんな場合は単純承認になるでしょうか?~相続放棄と単純承認

2018年03月24日 | 相続関係
【単純承認をしてしまったら相続放棄はできません】
以前相続放棄のことを記事にお書きしまして、そのときに相続放棄をするのであれば単純承認というものをしてしまってはいけませんよ、 単純承認をしますと 相続放棄は法律上できないことになっていますからということをご説明致しました(→過去記事)。

【こんな場合は単純承認になるでしょうか?】
どういうことをしたら単純承認になってしまうのかは微妙な問題がありまして、裁判での争いとなることがあります。

例えば、こんなケースで考えてみます。

Aさんのお父さんは生命保険をかけていました。受取人はAさんになっていました。
お父さんが亡くなったので、Aさんは保険金を受取りました。
お父さんの債務30万円を受け取った保険金からAさんは支払いましたが、その後お父さんに1000万円を超える債務があることが分かったので、相続放棄の申述をしました。

これのどこが悪いのかと思われる方がおられるかもしれませんが、裁判で争われた論点が入っています。

【生命保険金の受取りは単純承認になるか?】
まず、保険金を受取ることは単純承認にはならないのか?です。この点が争われた裁判があるので、裁判例があります。

結論を分かりやすくいいますとこんな感じになります。
「保険金の受取人がAさんということですね。保険金の受取りはAさんの固有の権利です。遺産を受取ったことにはなりません。単純承認というのは、相続財産の一部を処分したことと法律に書いてあるけれども、相続財産を受取ったわけではないんですから、Aさんの行為が単純承認に当たりません。」

実際の裁判での言い回しも紹介しておきましょう。
福岡高等裁判所宮崎支部平成10年12月22日決定(家庭裁判月報51巻5号49頁)
「抗告人らのした熟慮期間中の本件保険契約に基づく死亡保険金の請求及びその保険金の受領は,抗告人らの固有財産に属する権利行使をして,その保険金 を受領したものに過ぎず,被相続人の相続財産の一部を処分した場合ではないから,これら抗告人らの行為が民法921条1号本文に該当しないことは明らかである。」

生命保険の保険金を受領するのは、保険金の受取人になっていれば問題ないのです。

【受け取った保険金からお父さんの債務を支払った場合は?】
次にAさんが保険金からお父さんの債務を支払ったことが問題になりそうです。

債務を支払ったら単純承認になってしまうのではないか、という問題意識ですね。

「単純承認にならない」という裁判例があります。
先ほどの高裁の決定の判断です。

Aさんが自分が受け取った保険金から支出しているというところがポイントです。
先程保険金の受取は、Aさんの固有の権利であって、遺産ではないとご説明しました。
遺産から出せば単純承認になりますが、遺産でないものから出しても単純承認にはなりません。
つまり、Aさんが自分のポケットマネーから出せば単純承認にはならないのです。
もらった保険金を法律上から見ると、Aさんのポケットマネーということになります。
法律上の言い回しだと、「Aさんの固有の財産」というような言い回しをします。

裁判例の判断部分をみておきましょう
「抗告人らのした熟慮期間中の被相続人の相続債務の一部弁済行為は,自らの固有財産である前記の死亡保険金をもってしたものであるから,これが相続 財産の一部を処分したことにあたらないことは明らかである。」

ここで「自らの固有財産である死亡保険金」と書かれているところがポイントになります。
固有財産=ポケットマネーであり、遺産ではない、ここがポイントです。


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控訴審の審理とはどのようなものでしょうか

2018年03月19日 | 交通事故民事裁判用語集

【はじめに】
この記事では控訴審について説明致します。
扱うのは民事事件や人事訴訟(例えば離婚訴訟)の控訴審についてです(刑事事件の控訴審は 手続きはかなり違いますので、この記事では扱いません)。

【控訴とは】
一審の判決への異議申立てを「控訴」といい、控訴は14日以内にしなければなりません。
一審の判決が出ると、数日のうちに控訴をするのか否かの決断を迫られることになります。
控訴審がどのようものか知っておくことも必要かと思います。

【控訴審の手続きの流れ】
控訴審の手続きの流れをおさえておきましょう。
ア 控訴の申立て
一審判決をした裁判所に控訴状を提出します(判決受領から14日以内)。この控訴状には控訴の詳しい理由を書かなくても大丈夫です。
イ 控訴理由書の提出
控訴の申立てをした日から50日以内に控訴理由書を提出します。
ウ 控訴審の審理期日
東京高裁ですと控訴理由書提出から1~2カ月以内という扱いのようです。
多くの事件は審理は1回で終了となってしまいます。ここが一審との大きな違いです。
審理終了と同時に判決期日が指定されます。
東京高裁ですと、審理期日から2ヶ月程度となることが多いです。
エ 和解又は判決
多くの案件では裁判官により和解が試みられます。判決期日までに和解の成立の見込みがないと和解協議は打切られ、判決となります。

【控訴審はどのくらい時間がかかるか】
判決から控訴理由書提出までは約2ヶ月です。
細かくみると
ア 判決から控訴状提出まで14日
イ 控訴状提出から理由書提出まで50日
正確には64日ですが、約2ヶ月として覚えておいてください。

理由書提出から審理期日判決までが3ヶ月から4ヶ月です。
細かくみると
ウ 理由書提出から審理期日まで1ヶ月〜2ヶ月
エ 審理期日から判決まで2ヶ月

これを合計しますと、一審判決から控訴審の判決までは5ヶ月〜6ヶ月となります。
これはあくまでも通常多く見られるケースの最速の日程であり、裁判所からみて重大な案件や複雑とみられる案件はこれよりも遅くなります。

【控訴審では裁判官は3名の合議】
一審の裁判官は1名が担当するということが多いのですが、控訴審の審理は3名の裁判官で行われます。
これは一審の判決が妥当かどうかを3名で慎重に検討するためです。
実際には、3名の裁判官でも役割分担があります。
裁判長は事件の統括役、他の2名の裁判官のうち1名が担当となり、記録を細かく見る役割となります。
あとの1名は合議で妥当性をみる係りということになりましょうか。
実質的には、担当裁判官と裁判長で流れが決まるといっても良いのかなと思います。

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一審の判決が出たときの注意点

2018年03月12日 | 法的解決までのロードマップ

本日は、民事事件や離婚の訴訟事件の一審の判決が出たときの注意点について説明いたします。


【控訴期限に注意=判決受領日に注意】
 判決に対しては異議申立てができます。
 一審の判決への異議申立てを「控訴」といいます。
 控訴は14日以内にしなければなりません。
 スタートは判決の受領日からになりますので(言渡しの日ではありません)、ご注意ください。


【控訴をするかどうかの判断をどのようにするか】
 判決が出ると、数日のうちに控訴をするのか否かの決断を迫られることになります。
 控訴をするかどうかは非常に迷うところですが、次のようなことに留意してください。
ア 一審判決が納得できない点はどこか
イ 納得できない点があったとしても、それを控訴して変わりうるのかどうか
ウ その納得できない点が金額的にみてどの程度の影響を与えるのか(金銭請求の場合)
 いずれについても担当した弁護士の意見をもらうべきです。
 弁護士としても、控訴審での予測というのは難しいところですが、できるだけ依頼者の方が判断できるように情報や見解を提供することが必要です。


【控訴審の手続きの流れ及び費用】
 以上のような判決の内容についての理解のほかに、控訴審での審理にかかる日数や控訴審の費用についての理解も控訴をするかどうかの決断に関わると思いますので、この点についてもご説明致します。
 控訴審での審理時間ですが、1回の期日で審理が集結することが現在では当たり前のようになっております。1回結審ですと、一審の判決から6ヶ月〜8ヶ月程で二審の判決ということになります。一審とは違ってスピード感があり、あっという間に終わってしまう可能性が十分にあるということを覚えておいていただければと思います。

 費用についてですが、弁護士費用と裁判所への印紙代等が発生します。
 金額としては弁護士費用が最もかかるかと思いますので、控訴審での弁護士費用がいくらかかるかはきちんと説明を受けておくことが大事です。

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損害賠償請求における「弁護士費用」

2018年03月05日 | 交通事故民事裁判用語集
 損害賠償請求の訴状や判決では、損害として「弁護士費用」という項目があります。
 ここでいう「弁護士費用」というのは、実際に支払う弁護士費用とは額が異なってきますので、注意が必要です。

【具体例】
具体例をあげてご説明致します。
依頼者の方がA弁護士に損害賠償請求の訴訟を依頼しました。
損害賠償の請求額は300万円です。
A弁護士の弁護士費用は次のとおりでした(消費税は考えないことにします)。
着手金=24万円(請求額300万円の8%)
報酬金=判決又は和解で獲得した金額の16%(例えば、300万円であれば48万円、100万円であれば16万円になります)

裁判をして依頼者の得られた金額が100万円とすると、A弁護士に支払う金額の合計は
24万円+16万円=40万円
になります。

では、この弁護士費用を加害者側に請求できるでしょうか?

【実際に支払った弁護士費用を全額は請求できるわけではないが、請求額の1割は請求できる】
結論は、実際に支払った支払った弁護士費用を全額は請求できるわけではないが、請求額の1割は請求できるということになります。

 交通事故の損害賠償で弁護士がよく使用する「赤い本」というものがあるのですが、ここにはこう書いてあります。
「弁護士費用のうち、認容額の10%程度を事故と相当因果関係のある損害として加害者側に負担させる」

訴状で300万円を請求するとなると、弁護士費用を上乗せして、
300万円+30万円(これが弁護士費用分の上乗せ)=330万円
を請求するということになります。

裁判官は判決の場合は、
100万円+10万円(これが弁護士費用分の上乗せ)=110万円
という判決を出すこととなります。

このように実際に支払う金額と、裁判所が認める「弁護士費用」は異なる金額となります。
訴状や判決で「弁護士費用」と書いてあるものは、弁護士を依頼してあるから10%上乗せするという意味なんだとご理解いただければよいかと思います。


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相続放棄。特に3ヶ月を超えてからする相続放棄で注意べきこと

2018年03月05日 | 相続関係
今回は相続放棄についてお話します。

【相続放棄=相続しないこと】
 まず相続放棄の基本的な事柄について押さえておきましょう。 相続放棄というのは 被相続人の財産を 一切相続しないということです 。
 マイナスの財産が大きいというときには、相続放棄を行うことが多いのですが、マイナスの財産が大きいということは 法律上の要件にはなっていませんか ら、プラスの財産 多くても 相続放棄は 可能です。
相続放棄は 相続の開始を知った時から3か月以内にしなければならないことになっています。相続の開始を知った時というのは、 被相続人がお亡くなりになった時 という意味になります。 相続放棄は 被相続人の住所地の家庭裁判所に申述をすることで行います。

【熟慮期間の原則は3ヶ月】
 相続放棄は 3ヶ月以内に しなければいけないことに なっています(熟慮期間)。 3ヶ月で 被相続人の財産を調査することが基本になりますが なかなかそれでは難しいという時は 家庭裁判所に延長の申請をすることができます。

【相続放棄を行うのであれば単純承認をしてはいけません】
 相続放棄をする際に気をつけなければならないのは、 単純承認をしてしまってはいけません。 単純承認をしますと 相続放棄は法律上できないことになっています。
 単純承認というのは、自分は相続をしますよということを意味しますが、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときも原則として(例外があります)単純承認をしたことになってしまうので、注意が必要です。
 つまり、相続放棄を行う可能性があるのであれば、相続財産を一部でも処分することは避けなければいけないということになります。
 相続財産の一部でも処分しなければならないが、相続放棄も考えているという場合は、慎重にことを運ぶ必要がありますので、専門家への相談をお薦めします。

【被相続人の債務があとからわかった場合に相続放棄ができるか:最高裁判決】
 次のようなケースを考えてみましょう。
 相続人には被相続人には 財産が全くなく 単純承認も 相続放棄もしていなかった 。しかし半年後に 被相続人の債権者を名乗る人から請求書が届き 被相続人には債務があることがわかった。 つまり全体的にはマイナスの財産が多かったということが後でわかった という場合です。
 このような場合相続放棄の期限3ヶ月は過ぎてしまっていることから相続放棄ができるのかが問題になります。
 この点については 最高裁の判例があります(昭和59年4月27日最高裁判決)。
 この最高裁判決は「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた」というような事情及び様々な事情(注)を考慮して相続放棄を認めるとしています。
 このように相続放棄が認められるためには、結構厳しい要件をクリアーしなければなりません。

【熟慮期間を超えて相続放棄をする場合の注意点】
 相続放棄の熟慮期間の3か月を超えて相続放棄をする場合は家庭裁判所はこの最高裁の要件を念頭において審査しますのでしますですので、 申述をする場合もこの要件をクリアーするような 形であることを示さなければなりません。
 そのためには専門家に相談するなどして進めた方がよいかと思います。


(注)
 考慮する事情は、判決文には「被相続人の生活歴、 相続人と相続人との間の交際状態、 その他諸般の状況からみて 当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な状況があって相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるとき」とされています。



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離婚訴訟の訴状。弁護士が作成した訴状案で注意すべき点

2018年03月01日 | 家庭裁判所関係
【はじめに】
訴訟を始めるには「訴状」を、裁判所に提出することが訴訟のスタートになります。
今回は離婚訴訟の訴状の基本的なことについて押さえておきます。

【訴状の記載内容】
訴状の記載内容は、大きく分けて二つの部分に分かれます。
ひとつは結論部分。これを「請求の趣旨」といいます。
もうひとつが「請求の原因」で、どのような理由で裁判を求めるのかを書くところです。

【請求の趣旨とは?】
「請求の趣旨」は求める裁判の結論部分です。
 未成年のお子さんがおられる場合は次のことを書かなければなりません。
〈記載例1〉
 1 原告と被告とを離婚する。
 2 原告と被告間の長男**の親権者を原告と定める。

この記載例は
・離婚を求めること
・未成年の子どもがいるので、長男の親権者を原告とするように求めるものです。

記載例1は絶対に書かなければならないものですが、次の記載例はそのような申立てを希望する場合のみ書くものです。

〈記載例2〉
3 被告は原告に対し、養育費として、判決確定の日から前記長男が20歳に達するまでの間、相当額の金員を支払え。
4 被告は原告に対し、財産分与として相当額の金員を支払え。
5 原告と被告との間の「年金分割のための情報通知書」記載の情報にかかる年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める。


3項は、養育費を請求するので、裁判所で養育費の額を定めてほしいという意味です。
4項は、財産分与を求めたいので、裁判所で財産分与の額を定めてほしいという意味です。
5項は年金分割を求めるので、年金分割を申立てるというものです。

慰謝料を請求する場合は次のような請求の趣旨を付け加えます。

〈記載例3〉
6 被告は原告に対し、金300万円及びこれに対する離婚判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

慰謝料として300万円を請求するという意味になります。

また、訴状の請求の趣旨には最後に必ず次のような言葉が入ります。

〈記載例4〉
7 訴訟費用は被告の負担とする。
 訴訟費用の説明は少しややこしいので、ご興味のある方はこちらを参照してください。あまり問題になることはないので、ここまでの記載で理解がいっぱいいっぱいの方はとりあえずは無視していただいても構いません。

【「請求の原因」とは?】
「請求の原因」では「請求の趣旨」で求めたものを基礎づける事実を記載することとなっています。
つまり、請求の趣旨=結論、請求の原因=理由ということになります。

 「離婚原因」をどのように書くのかが弁護士のテクニックの見せどころです。

 弁護士の書いたものの中にはレベルの低いものも見られるらしく、裁判官はある論文で次のように厳しく批判しています(文章は改変してあります)。

”離婚原因は重要なポイントを整理し簡潔に記載してください。そのためには、
事前に十分な事情の把握をする必要がありますよ。それに法的な検討も必要です。離婚原因となる具体的事実を書いてください。端的に示すエピソードが必ずあるはずです。それを交えて記載するとわかりやすいものになりますよ。
 それなのに十分な検討をしていないものが見受けられますよ。具体的事実を書かずに、主観的な評価ばかり。裁判官の読みたいのは価値判断ではないんです。具体的な事実が裁判官の知りたいこと。それに法律の要件を念頭に置くのを忘れないで下さい。法律上の文章なんですから。長年にわたって結婚の生活史を延々と書いても全然ポイントに成りませんよ。そのようなポイントを外した訴状が結構多いのは困りものです”

【訴状では主張したいことを全て書く必要があるか?】

 先ほど書きましたように、裁判官は「簡潔に」書くことを期待しています。
 裁判官が論文で指摘しているところですので、私も簡潔に書くように心がけています。
 主張したいことを全て書く必要はないのか?との質問がよくでるところではありますが、訴状で全てを書く必要はありません。
 というのも、訴状を提出した後も、準備書面といったもので主張する機会は与えられるからです。
 最初から詳細な主張をしてしまうとポイントがぼやけてしまいますので、詳細な主張は後からすることにしています。

【訴状を読むときの留意点】
弁護士から訴状案を示されたときはどのようなことに注意してみたら良いでしょうか。

 まずは、「請求の趣旨」に漏れがないかどうか確認してください。

 また、「請求の原因」に書かれている事実に間違いがないかどうかを確認してください。ご自分では「これは重要なのに」と思っていることが、「請求の原因」に書かれていないときは、なぜそれが書かれていないのか弁護士さんに質問をしてください。
 弁護士も質問されることにより新たな視点を得ることもあるからです。



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