南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

賃貸人が死亡したときの賃料の扱い

2019年05月29日 | 民事訴訟
1 親名義でアパートを所有して賃料収入を得ていたが、親が死亡して相続が発生したというような場合、賃料はどうなるのでしょうか。
 相続が生じた場合の賃料については、最高裁で決着がついています(平成17年9月8日最高裁判決)。
 「分割債権となって、法定相続割合で賃料は相続される」ことになります。
 法定相続人が子どもだけでAとBの2名という場合で、賃料が月10万円ということですと、それぞれ2分の1ということになりますから、Aさんが月5万円の賃料、Bさんが月5万円の賃料ということになります。
 このような扱いとなるのは、相続の開始(親の死亡)から遺産分割協議までの賃料です。
 不動産についての遺産分割協議が成立しますと、その時点以降の賃料は不動産を相続した者のものとなります。例えば、Aさんが不動産を全部相続したということになると、Aさんが賃料月10万円を取得することとなります。
 以上をまとめると次のようになります。
 ①相続時~遺産分割協議時 
Aさんが月5万円の賃料、Bさんが月5万円の賃料
 ②遺産分割協議によりAさんが所有者となる
  以降の賃料はAさん(月10万円)

2 平成17年の最高裁判決で以上のことは、法理論的には明確になったのですが、現実には賃借人は難しい対応を迫られることとなります。
 というのは、賃貸人がお亡くなりになったかどうかは、賃借人にとってはわかりにくいことですし、誰が法定相続人になるかということは更にわかりにくいことだからです。
 かといって、賃料を不払いとするのは大変危険です。
 賃料不払いは、賃貸借契約の解除事由となりかねないからです。
 賃借人は賃料を支払う義務があり、この義務を怠ると賃貸借契約の解除⇒明渡しを余儀なくされることになってしまいます。

3 このような場合、賃借人としては、「債権者を知ることができない」(債権者不確知)ということで法務局に供託するほかないということになるかと思います。
 法務局ということ自体なじみがない方も多くいるかと思います。
 例えば、法務局というのは、福島県ですと、福島市、相馬市、白河市、会津若松市、いわき市にしかなく、身近な存在とは言い難いところです。このような法務局の供託所に毎月毎月賃料を供託すること自体が大変な作業ですが、賃貸人が死亡して相続が生じてしまうと、このような手続きをせざるを得ないリスクがでてくるのが平成17年最高裁判決の意味するところです。
 間に管理会社等が入って、適切な管理をしているところでは、このようなリスクは相対的に低いかと思いますが、不動産の物件の中には、仲介は不動産会社がしているが、管理は賃貸人が直接行っているというところもあり、このような物件では相続争いの影響を賃借人が受ける可能性があります。

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浪江町原発集団訴訟、第一回口頭弁論

2019年05月22日 | 原子力損害
5月20日、福島地裁で浪江町住民の原発事故による損害賠償訴訟(集団)の第1回口頭弁論期日がありました。


(浪江町集団訴訟の経緯)
浪江町では当初は原発ADRで手続きをしましたが、原発ADRで解決がつかずに集団で訴訟となったことに特徴があります。ADRが終了するまで5年近くの歳月がかかっています。

2013年5月 町が代理人となりADR申し立て(1万5000人の町民が参加;震災前の町民の7割)
2018年4月 ADRが打ち切りとなる(東電の和解案拒否による)
同年11月 第1陣訴訟提起 109名 約13億1800万円の請求
2019年5月20日 第1陣の第1回口頭弁論期日。
報道によれば、115名の町民が追加で同日提訴し、最終的には1500~2000人が訴訟に加わる予定とのことです。

(ADRとの関係で注目されている)
この集団訴訟が注目されているのは、原発ADRとの関係です。
東電が和解案を拒否したため原発ADRでの解決がつきませんでした。

そのため、報道でも弁護団長の発言ということで、原発ADRが取り上げられています。

読売新聞
「東電は受諾を拒否すれば逃げ切れる。ADR制度は瓦解していると言わざるを得ない」

これを読むと弁護士は「ADRの制度は既に瓦解している」と発言しているみたいですね。
しかし、他紙をみるとニュアンスの違うものもあります。

河北新報
「和解拒否を続けて逃げ切れるなら、ADR制度は瓦解(がかい)する。裁判で責任の所在と適切な賠償額を追及していく」

この発言だと、このまま逃げきれるということであれば瓦解するという意味となり、現時点で瓦解しているという発言ではありません。

 


   



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原子力損害賠償紛争解決センター

2019年05月21日 | 原子力損害
1 原発事故の被災者は東京電力に対して損害賠償請求できます。
 原子力事故の被災者に損害が生じた場合、損害賠償の支払い義務を負うのは東京電力です。
「原子力損害の賠償に関する法律」という法律があります。
 条文上の根拠は3条1項になります。
「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」
この条文の「原子力事業者」が東京電力ということになります。
原発事故の被災者は東京電力に対して損害賠償請求できます。
よって、原発事故の被災者は東京電力に対して損害賠償請求できることになります。

2 東京電力は、原子力損害賠償について自社の基準により支払いをしています。この基準はあくまでも東京電力の内部の基準であって、被災者の請求額や主張とは異なることがありえます。
 このような場合、最終的な決着をつけるには、裁判所での訴訟ということになりますが、訴訟というのは手間暇のかかるものです。紛争解決手段として減額な手続き的保障が法律上与えられていますが、それだけに手続きが煩瑣になり、使い勝手が良いとはいえないところもあります。
 そこで、国は原発事故について、紛争解決センターという、和解案の仲介をする組織を作りました。
 紛争解決センターの手数料は無料で、センターの担当調査官や仲介委員が相当程度バックアップしてくれますので、訴訟に比べれば弁護士を依頼しなくても手続きを進めることが可能な手続きになっています。

3 紛争解決センターは、組織的には文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会に属していますから、東京電力とは別の組織です。
 和解の仲介を本務としており、申立てを受けて調査を進め、和解案を出すことが紛争解決センターのメインの役目となります。
 東京電力への直接請求したが賠償を受けられなかった、または一部しか賠償を認められなかったという場合には、紛争解決センターを活用することも一つの選択肢して考えることが
できます。

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