南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

女子の逸失利益は男子よりも低い 7

2005年10月08日 | 年少女子の逸失利益問題
 年少女子労働者の逸失利益について、
  ある高裁が全労働者の平均賃金
  別の高裁が女子労働者の平均賃金
を採用していながら、最高裁が双方の判断を是認したということは、最高裁は双方の意見を統一することなく、高裁の判断に任せるということです。
 つまり、この問題については、高裁までが勝負というのが現在の状況です。
 そこで、高裁でも耐えられるようなレベルの判決を獲得するためにはどのようにしたらよいのかについては、全労働者の平均賃金を採用した高裁は具体的にどのようなことをのべているのかを検討する必要があります。
 まず、東京高裁平成13年8月20日判決(判例時報1757号38頁)ですが、この判決は
 「高等学校卒業までか少なくとも義務教育を修了するまでの女子年少者については、逸失利益算定の基礎収入として、賃金センサスの女子労働者の平均賃金を用いることは合理性を欠く」
と結論付けました。
(続)



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女子の逸失利益は男子よりも低い 8

2005年10月08日 | 年少女子の逸失利益問題
 その理由は、以下のとおりです。
1 賃金センサスで男子と女子の平均賃金の差が生じているのは、男女の役割分担についての従来の社会観念が原因(具体的には、女子のほうが家事労働をしており、結果的に就労期間や労働時間あるいは職務内容が制約された状況にある)
2 本来有する労働能力については、個人による差はあっても、性別による差は存在しない
3 就労可能年齢に達していない年少者の場合は、多様な就労可能性を有しているのであり、その就労可能性の幅に男女差はもはや存在しないに等しい状況にある
4 近い将来に男女の平均賃金の格差が解消するという見込みがあるとは言いがたいが、このことと年少者の一人一人について就労可能性が男女を問わず等しく与えられていることは別問題

 以上が、東京高裁判決の理由付けです。
 男女の平等という観念を、「本来有する労働能力については、個人による差はあっても、性別による差は存在しない」と表現し(2項)、「就労可能年齢に達していない年少者の場合は、多様な就労可能性を有しているのであり、その就労可能性の幅に男女差はもはや存在しないに等しい状況にある」(3項)という
論理をもとに結論を出しています。
 そのため、全労働者の平均賃金を採用できる年少女子の幅が「高校卒業までか義務教育を修了するまでの女子年少者」に限定されてしまっているといえるでしょう。
 この判決の論理は、未就労者でも、大学在学中の女性については使えないことがお分かりいただけるかと思います。
(続)

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女子の逸失利益は男子よりも低い 9

2005年10月08日 | 年少女子の逸失利益問題
次に、
 大阪高裁平成13年9月26日判決(自保ジャーナル1414号)
を検討してみましょう。
 この判決は、「特段の事情のない限り、全労働者の平均賃金の方が、未就労年少女子にとって、より合理的な算定方法である」と結論付けており、東京高裁判決が高校女子かそれ以下の年齢に限定しているのに比べ、「未就労年少女子」としているだけに幾分含みをもたせているようにも見えますが、「年少女子」と述べていることや大阪高裁で問題となったケースは死亡当時14歳でしたから、東京高裁と同様の考え方をとっているとも読めます。
 大阪高裁の理由付けは、以下のとおり。
1 近い将来に男女の平均賃金の格差が解消するという見込みがあるとは言いがたいが、未就労年少者は、現に労働に従事しているものとは異なり、不確定的な要素があり、多くの可能性を有する
2 女性の労働環境をめぐる法制度、社会環境はそれなりに大きく変化しつつあり、女性の賃金格差の原因ともいうべき従来型の就労形態にも変化が生じ、男性の占めていた職域にまで女性が進出する社会状況がそんざいする
3 よって、女性も男性並に働きかつ、男性と同等に扱われる社会的基盤が形成されつつあるといえる
というものです。
(続)

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女子の逸失利益は男子よりも低い 10

2005年10月08日 | 年少女子の逸失利益問題
 以上のように、全労働者の平均賃金を認めた東京高裁及び大阪高裁は、
1 「近い将来に男女の平均賃金の格差が解消するという見込みがあるとは言いがたい」
という認識については共通しているものの
2 未就労年少者の将来の可能性や女性の労働環境の改善
という見地から、全労働者の平均賃金を認めたものといえます。
 これに対し、あくまで女子の全年齢平均賃金を適用すべきだとする高裁判決は、上記の1項、つまり男女の平均賃金の格差が解消する見込みはないという点を重視しているのです。
 いずれの見解を採用しても不合理ではないと最高裁が述べてしまっている以上、どちらの結論を採る裁判官にあたるかで勝敗が決せられてしまうのが現状といえるでしょう。
 改善の方向性を示している裁判例が出てきたことは、重視されるべきで、被害者側としては挑戦を重ね、全労働者の平均賃金を認める裁判例を多く出していくことが必要になります。
 そのためには、女性の労働環境の改善という点を粘り強く証拠によりアピールする必要があります。
(続)

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