南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

日本での死亡者数の増加

2021年10月07日 | 相続関係
 高齢化社会というのは、出生数の減少、死亡者数の増加の2つの要素が同時に生じていることから起こります。
 死亡者数の増加は、相続に絡む問題が増えるということを示しています。
 どのくらいの人数が1年間に死亡しているのかを、令和2年版高齢社会白書から見てみましょう。
  2006年 108万人
  2010年 120万人
  2018年 136万人
 以上は確定値です。
 2006年から12年間で28万人死亡者が増えています。 
 今後はどうなるでしょうか(以下、前記白書による推計値)。
  2025年 152万人
  2030年 160万人
  2040年 168万人
 2040年が死亡者数のピークとされており、この後は徐々に死亡者が減りますが、それでも2065年に156万人と現在よりも多くの人数がお亡くなりになると推計されています。
 人が死亡すれば相続が起こりますから、相続件数も増加しますので、法律的な処理が各所で増えることは間違いありません。

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こんな場合は単純承認になるでしょうか?~その2

2018年04月01日 | 相続関係

【こんな場合は単純承認になるでしょうか?】
以前、こんな場合は単純承認になるでしょうか?という記事を書きましたが(→こちら)、本日はその続編です。

【今回のケース】
今回は次のようなケースで考えてみます。
父親が亡くなったAさんは、父親の銀行口座に300万円あったので、そこからお金を引き出し、火葬費用、お父さんの治療費の残額、葬儀費用を支払いました。
その後お父さんに1000万円を超える債務があることが分かったので、相続放棄の申述をしました。

【単純承認が問題になる理由】
民法では「相続財産の一部を処分した」場合には単純承認をしたとみなすという規定があるので、銀行口座からお金を引き出し、火葬費用、治療費、葬儀費用を支払ったのが「相続財産の一部を処分した」ことにあたるかが問題となります。

【火葬費用ならびに治療費残額について
の判例】
火葬費用ならびに治療費残額について判断している裁判例があります。
結論はこのようなものを支払っても単純承認にはならないとされています。

この裁判例が言おうとしていることを私なりに噛み砕いていうと次のようになるかと思います。

故人のお金を使うのは厳密にいうと「相続財産の一部を処分した」と言えるかもしれませんね。しかし、火葬費用とか治療費を支払ったくらいで単純承認にしてよいものでしょうか。その程度のこともできないということになると、倫理とか道義とかがなくなってしまいませんかね。単純承認になるからということで、火葬費用を支払わない、治療費も支払わないという世の中になったらどうなりますか。火葬費用は自治体が負担しなければならないだろうし、治療費は病院が負担しなければならない。遺族が得するためにそのようなことになるのは不公平で
はないですか。そういうのを法律上では「信義則」というんです。そういう風に考えれば、火葬費用の負担、治療費の支払いは法律上は相続財産を処分したとして、単純承認したとまでは言えない、そう考えるのが妥当ではないでしょうか。

裁判例の原文を上げておきます。
大阪高裁昭和54年3月22日決定(家月31・10・61)
「遺族として当然なすべき被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払に充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、相続人が相続財産の存在を知つたとか、債務承継の意思を明確に表明したものとはいえないし、民法九二一条一号所定の「相続財産の一部を処分した」場合に該るものともいえないのであつて、右のような事実によつて抗告人が相続の単純承認をしたものと擬制することはできない」


【葬儀費用についての判例】
葬儀費用についても判断している裁判例があります。
葬儀費用を支払っても単純承認にはならないとされています。

この裁判例は読みやすいのでそのまま判断箇所を挙げておくだけでよいでしょう

大阪高裁平成14年 7月3日決定(家月 55巻1号82頁)
「葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
 したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。」

やはりポイントは「常識」のようです。
相続財産があるのにこれを使用することができなくて、葬儀もできないというのは非常識ではないですかという価値判断があります。

【仏壇や墓石の購入はどうか?】
この大阪高裁の事例では仏壇や墓石の購入まで行っているケースでしたので、その点についても判断しています。
葬儀費用とは異なり、仏壇や墓石については微妙な問題となるようです。

「葬儀の後に仏壇や墓石を購入することは、葬儀費用の支払とはやや趣を異にする面があるが、一家の中心である夫ないし父親が死亡した場合に、その家に仏壇がなければこれを購入して死者をまつり、墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に、遺族がこれを利用することも自然な行動である。
 そして、抗告人らが購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、抗告人らが香典及び本件貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したものである。
 これらの事実に、葬儀費用に関して先に述べたところと併せ考えると、抗告人らが本件貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が、明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できないというべきである。」

葬儀費用については、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないと明言しているのに、仏壇や墓石については「断定できない」と言葉を変えていることからも、葬儀費用とは異なる取り扱いがありうるということがおわかりいただけるかと思います。


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こんな場合は単純承認になるでしょうか?~相続放棄と単純承認

2018年03月24日 | 相続関係
【単純承認をしてしまったら相続放棄はできません】
以前相続放棄のことを記事にお書きしまして、そのときに相続放棄をするのであれば単純承認というものをしてしまってはいけませんよ、 単純承認をしますと 相続放棄は法律上できないことになっていますからということをご説明致しました(→過去記事)。

【こんな場合は単純承認になるでしょうか?】
どういうことをしたら単純承認になってしまうのかは微妙な問題がありまして、裁判での争いとなることがあります。

例えば、こんなケースで考えてみます。

Aさんのお父さんは生命保険をかけていました。受取人はAさんになっていました。
お父さんが亡くなったので、Aさんは保険金を受取りました。
お父さんの債務30万円を受け取った保険金からAさんは支払いましたが、その後お父さんに1000万円を超える債務があることが分かったので、相続放棄の申述をしました。

これのどこが悪いのかと思われる方がおられるかもしれませんが、裁判で争われた論点が入っています。

【生命保険金の受取りは単純承認になるか?】
まず、保険金を受取ることは単純承認にはならないのか?です。この点が争われた裁判があるので、裁判例があります。

結論を分かりやすくいいますとこんな感じになります。
「保険金の受取人がAさんということですね。保険金の受取りはAさんの固有の権利です。遺産を受取ったことにはなりません。単純承認というのは、相続財産の一部を処分したことと法律に書いてあるけれども、相続財産を受取ったわけではないんですから、Aさんの行為が単純承認に当たりません。」

実際の裁判での言い回しも紹介しておきましょう。
福岡高等裁判所宮崎支部平成10年12月22日決定(家庭裁判月報51巻5号49頁)
「抗告人らのした熟慮期間中の本件保険契約に基づく死亡保険金の請求及びその保険金の受領は,抗告人らの固有財産に属する権利行使をして,その保険金 を受領したものに過ぎず,被相続人の相続財産の一部を処分した場合ではないから,これら抗告人らの行為が民法921条1号本文に該当しないことは明らかである。」

生命保険の保険金を受領するのは、保険金の受取人になっていれば問題ないのです。

【受け取った保険金からお父さんの債務を支払った場合は?】
次にAさんが保険金からお父さんの債務を支払ったことが問題になりそうです。

債務を支払ったら単純承認になってしまうのではないか、という問題意識ですね。

「単純承認にならない」という裁判例があります。
先ほどの高裁の決定の判断です。

Aさんが自分が受け取った保険金から支出しているというところがポイントです。
先程保険金の受取は、Aさんの固有の権利であって、遺産ではないとご説明しました。
遺産から出せば単純承認になりますが、遺産でないものから出しても単純承認にはなりません。
つまり、Aさんが自分のポケットマネーから出せば単純承認にはならないのです。
もらった保険金を法律上から見ると、Aさんのポケットマネーということになります。
法律上の言い回しだと、「Aさんの固有の財産」というような言い回しをします。

裁判例の判断部分をみておきましょう
「抗告人らのした熟慮期間中の被相続人の相続債務の一部弁済行為は,自らの固有財産である前記の死亡保険金をもってしたものであるから,これが相続 財産の一部を処分したことにあたらないことは明らかである。」

ここで「自らの固有財産である死亡保険金」と書かれているところがポイントになります。
固有財産=ポケットマネーであり、遺産ではない、ここがポイントです。



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相続放棄。特に3ヶ月を超えてからする相続放棄で注意べきこと

2018年03月05日 | 相続関係
今回は相続放棄についてお話します。

【相続放棄=相続しないこと】
 まず相続放棄の基本的な事柄について押さえておきましょう。 相続放棄というのは 被相続人の財産を 一切相続しないということです 。
 マイナスの財産が大きいというときには、相続放棄を行うことが多いのですが、マイナスの財産が大きいということは 法律上の要件にはなっていませんか ら、プラスの財産 多くても 相続放棄は 可能です。
相続放棄は 相続の開始を知った時から3か月以内にしなければならないことになっています。相続の開始を知った時というのは、 被相続人がお亡くなりになった時 という意味になります。 相続放棄は 被相続人の住所地の家庭裁判所に申述をすることで行います。

【熟慮期間の原則は3ヶ月】
 相続放棄は 3ヶ月以内に しなければいけないことに なっています(熟慮期間)。 3ヶ月で 被相続人の財産を調査することが基本になりますが なかなかそれでは難しいという時は 家庭裁判所に延長の申請をすることができます。

【相続放棄を行うのであれば単純承認をしてはいけません】
 相続放棄をする際に気をつけなければならないのは、 単純承認をしてしまってはいけません。 単純承認をしますと 相続放棄は法律上できないことになっています。
 単純承認というのは、自分は相続をしますよということを意味しますが、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときも原則として(例外があります)単純承認をしたことになってしまうので、注意が必要です。
 つまり、相続放棄を行う可能性があるのであれば、相続財産を一部でも処分することは避けなければいけないということになります。
 相続財産の一部でも処分しなければならないが、相続放棄も考えているという場合は、慎重にことを運ぶ必要がありますので、専門家への相談をお薦めします。

【被相続人の債務があとからわかった場合に相続放棄ができるか:最高裁判決】
 次のようなケースを考えてみましょう。
 相続人には被相続人には 財産が全くなく 単純承認も 相続放棄もしていなかった 。しかし半年後に 被相続人の債権者を名乗る人から請求書が届き 被相続人には債務があることがわかった。 つまり全体的にはマイナスの財産が多かったということが後でわかった という場合です。
 このような場合相続放棄の期限3ヶ月は過ぎてしまっていることから相続放棄ができるのかが問題になります。
 この点については 最高裁の判例があります(昭和59年4月27日最高裁判決)。
 この最高裁判決は「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた」というような事情及び様々な事情(注)を考慮して相続放棄を認めるとしています。
 このように相続放棄が認められるためには、結構厳しい要件をクリアーしなければなりません。

【熟慮期間を超えて相続放棄をする場合の注意点】
 相続放棄の熟慮期間の3か月を超えて相続放棄をする場合は家庭裁判所はこの最高裁の要件を念頭において審査しますのでしますですので、 申述をする場合もこの要件をクリアーするような 形であることを示さなければなりません。
 そのためには専門家に相談するなどして進めた方がよいかと思います。


(注)
 考慮する事情は、判決文には「被相続人の生活歴、 相続人と相続人との間の交際状態、 その他諸般の状況からみて 当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な状況があって相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるとき」とされています。


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