南斗屋のブログ

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地方公務員を懲戒するのに聴聞は必要か

2021年12月24日 | 地方自治体と法律
(職員の懲戒の手続及び効果に関する条例)
 自治体では、職員の懲戒について、「職員の懲戒の手続及び効果に関する条例」を定めています。
 自治体が職員を懲戒する根拠は、地方公務員法29条1項の、「職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。」という規定にあるのですが、地公法では、懲戒の手続きや効果の定がなく、条例に委ねているためです(同条4項)。
 自治体によって懲戒の効果は違うことがあり、その例としては、停職処分の上限が挙げられます。
 上限が自治体によって異なり、千葉市では6か月ですが、秋田県では上限は1年です。
 千葉県内の自治体の条例をみると停職の上限を6か月とするところが多いようです。
 これは、条例準則として示された「職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(案)」が停職の上限を6か月としている影響でしょう。
 もっとも、国は停職期間の上限を1年としています(人事院規則12-0第2条)。自治体の中でも停職期間を1年以内とするのは、この影響でしょうか。

(懲戒の手続について)
 懲戒の手続きは、不利益処分ですので、処分の事由を記載した説明書を交付することが必要です(地公法49条1項)。職員の懲戒の手続及び効果に関する条例でもこの点を明確にするために、「戒告、減給、停職又は懲戒処分としての免職の処分は、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならない。」という規定を置いています。
 しかし、それ以外には手続き規定を置いていないものが多数です。
 行政手続法は、不利益処分について事前手続きを規定していますが、公務員の懲戒処分には行政手続法の規定の適用がないので(同法3条1項9号)、行政手続法による事前の意見聴取の義務はありません。
 つまり、法令の規定上は、何ら事前手続きを行わなくても、いきなり懲戒処分を行えることになっている状態なのですが、これが学説からは批判を浴びており、事前の聴聞が必要としています。
 例えば、塩野宏先生は、「処分事由説明書に加え聴聞(必ずしも行政手続法の聴聞の形式をとる必要はないにせよ)の機会を事前に与えることが、憲法上要請されると解される」としています(塩野宏『行政法Ⅲ(第3版)』276頁)。
 法律には規定はないけれども、憲法上の要請であるという立場ですね。 

(事前手続きに関する判例)
 裁判例については、次のように分析されています。
「裁判例の多くは、告知・聴聞等事前手続きに関する法令の規定がないことを基本的理由として、事前手続きの採否を行政庁の裁量とみなし、告知・聴聞等に対する被処分者の権利性を否定して、何らの手続きを踏むことなしになされた不利益処分を適法とする立場に立っているといってよい。」(晴山一穂「公務員の不利益処分手続をめぐる法的問題点」専修大学法学研究所紀要2009年2月)
 しかしながら、令和になりまして、実質的な告知・聴聞の機会必要と明言する裁判例が現れました(東京高裁令和元年10月30日・判例地方自治470号26頁)
「地方公務員法27条は、すべての職員の分限及び懲戒については、「公正」でなければならないと定めているところ、懲戒処分、とりわけ懲戒免職処分は、被処分者である公務員の実体上の権利に重大な不利益を及ぼすものであるから、地方公務員法が求める不利益処分を行うに際しての事前手続が、処分事由書の交付(同法49条)にとどまっており、また、行政庁が不利益処分をしようとする場合には事前の聴聞手続が必要と定める行政手続法の規定が、公務員に対する不利益処分については適用除外とされ、条例上は告知・聴聞の手続を定めていないとしても、当該懲戒処分が科される公務員に対して、少なくとも実質的に告知・聴聞の機会を与えて、実体上の権利保護に欠けることのないようにすることが必要であると解するのが相当である。本件においては、控訴人が本件処分(懲戒免職処分)をするに当たって、被控訴人に対して実質的な告知・聴聞の機会を与えているとはいえないのであって、控訴人は適正公正な手続を履践しているとはいえず、この点からも本件処分の適法性には問題があるというべきである。」
 必ずしも行政手続法の聴聞の形式をとる必要はないけれども、実質的に告知・聴聞の機会を与える必要はあるという点については、先に紹介した塩野説に影響を受けているように見えます。
 もっとも、その法的根拠については、塩野説は憲法上の要請としているのに、東京高裁では、「実体上の権利保護に欠けることのないようにする」ためとしている点は異なります。

(自治体の懲戒処分実務に与える影響)
 このような裁判例が出現しましたが、これが今後の動向となるかどうかは予断を許しません。
 しかし、実質的な告知・聴聞の機会を与えていない事案では、裁判官によっては手続きの違法により取り消される可能性が生じていることは事実です。
 そのため、実質的な告知・聴聞の機会を与えた上で懲戒処分を行うことが望まれます。


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弁護士の特定任期付職員の採用と給与

2021年12月22日 | 地方自治体と法律
(自治体内弁護士)
 自治体内で働く弁護士は徐々に増えているといわれております。
 日弁連では、「自治体内弁護士」と呼んでいますが、弁護士としての登録をしていない方もいます(弁護士は弁護士会に登録しないと、「弁護士」を名乗れません)。

 自治体が弁護士を採用する場合には、
①常勤職員として採用する
②特定任期付職員として採用する
③任期付短時間勤務職員として採用する
④会計年度任用職員として採用する
と様々な手法があるようです。
 この中では、②が一番採用例が多いとされています(日弁連ホームページ)。

(特定任期付職員としての採用)
 地方公共団体の特定任期付職員の根拠は、条例にあります。
 千葉県ですと、「任期付職員の採用等に関する条例」というものがあり、「任命権者は、高度の専門的な知識経験又は優れた識見を有する者をその者が有する当該高度の専門的な知識経験又は優れた識見を一定の期間活用して遂行することが特に必要とされる業務に従事させる場合には、職員を選考により任期を定めて採用することができる。」と規定しています(2条1項)。
 この条文により採用される職員が「特定任期付職員」です。
 国にも同様の制度があり、任期付職員法(一般職の任期付職員の差異よ及び給与の特例に関する法律)で定められています。
 人事院のホームページでは、同法を制定した趣旨を次のように説明しています。
「行政の高度化、多様化、国際化などが進展する中で、これらの変化に的確に対応して、国民の期待する行政を遂行していくには、行政を担う公務員について、新規学卒者等の採用・部内育成を基本としながらも、部内育成だけでは得られない優位な部外の人材を活用していくことが求められています。
 このような観点から、民間人材の採用の円滑化を図るため、公務に有用な専門的な知識経験等を有する者を人気を定めて使用し、高度の専門的な知識経験などを有する者については、その専門性等にふさわしい給与を支給することができるよう、平成12年11月に一般職の任期付職員の差異よ及び給与の特例に関する法律(任期付職員法)が制定されました。」

(特定任期付職員の給与))
 特定任期付職員の給与ですが、日弁連ホームページでは、「弁護士を任期付職員として採用する場合、年収ベースで概ね800万円程度となっているケースが多いようです。」と記載しています(日弁連ホームページ)。
 地方自治体の場合、給与は条例によって決まり、千葉県の場合は、「任期付職員の採用等に関する条例」で特定任期付き職員に適用される給料表が規定されています(7条)。この給料表は、任期付職員法にある俸給表と同じ金額です。
1号給 37万5000円
2号給 42万2000円
3号給 47万2000円
4号給 53万3000円
5号給 60万8000円
6号給 71万円
7号給 83万円
 特定任期付職員の号給は、その者の専門的な知識経験又は識見の度並びにその者が従事する業務の困難及び重要の度に応じて決められますが、自治体内弁護士の場合、4号給又はそれ以下となることが多いようです。
 4号給の場合、
 53万3000円 ×12=639万6000円
となりますが、これに期末手当、地域手当が加算されます。
 期末手当というのは、いわゆるボーナスのことで、これも地域差がありますが、全国でそれほど差があるわけではありません。
 差が大きいのは、地域手当です。
 東京都特別区は、1級地で号給月額の20%がつきますが、地域手当がないところはその加算がありません。
 先ほど紹介した「年収ベースで概ね800万円程度となっているケースが多いようです」という日弁連の記載は、地域手当加算がない場合を念頭に置いているのではないかと思われます。
 なお、特定任期付職員には、扶養手当、住居手当、勤勉手当の支給はありません。

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障害者虐待と内部告発

2021年12月09日 | 地方自治体と法律
(障害者虐待と内部告発)
 施設職員の障害者への虐待のニュースを調べてみましたところ、次のようなものがありました。
・放課後デイサービスの利用者に対し、車での送迎中に施設職員が強制わいせつ等の行為に及んでいる(本年11月4日読売オンライン)
・東京都大島町の施設の職員が入所者を居室に閉じ込める、入所者が失禁した後侮辱的な言葉をかける等の行為をした(10月6日読売オンライン)
・神奈川県中井町の施設で入所者を1日20時間以上閉じ込めた(10月3日47ニュース)
・長崎県佐世保市の施設で職員が利用者に対し、「障害者は長生きしたらダメ、税金の無駄遣い」という暴言を吐いた(8月21日読売オンライン)
 障害者の虐待は閉鎖された空間で行われることが多く、知的障害者の中には的確に話すことができない方もおられるでしょうから、このような虐待が明らかになるのは、施設内の職員が内部告発をしているケースが多いと思われます。

(障害者虐待防止法による通報の保護)
この内部告発は法律上保護されています。
障害者虐待防止法では、「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。」との通報義務を定め、「障害者福祉施設従事者等は、通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。」と規定しており、通報により不利益を受けない制度設計となっています。

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選挙運動での公務員の地位利用の禁止

2021年12月06日 | 地方自治体と法律
(公務員の地位利用による選挙運動は公選法違反)
 公職選挙法は、すべての公務員はその地位を利用して選挙運動をしてはいけないと規定しています(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止;公職選挙法136条の2)。これには罰則があります(2年以下の禁錮、または30万円以下の罰金という罰則付きです(公職選挙法第239条の2第2項)。
 すべての公務員という規定なので、一般職のみならず特別職にも適用があります。
 特別職公務員がこの規定に違反したとされた報道として、最近のものですと、次のようなものがありました。
1 多古町長が逮捕された例
 多古町長が、複数の職員に対し、2021年10月に行われた衆議院選挙の候補者への投票や票の取りまとめを依頼したとされる公選法違反事件。同年11月18日に、多古町長は千葉県警に逮捕されています。
2 糸魚川副市長が市選管に告発され、辞職された例
 糸魚川市の副市長が、市の幹部職員に対し、2021年4月に行われた糸魚川市長選挙に際し、「頼むね」と投票の依頼をした公選法違反事件。同年8月に市選挙管理委員会が、副市長を告発し、副市長は同月辞任しました。11月30日、新潟県警は、検察庁に書類送検。本件では副市長(当時)は逮捕されておらず、在宅事件として捜査が行われています。

(裁判例)
 地位利用による選挙運動に関する裁判例として、当時の釧路市長及び助役が逮捕勾留され、それぞれ禁錮1年執行猶予5年、禁錮8ヶ月執行猶予5年の刑に処せられたものがあります(釧路地裁平成15年3月19日判決)。
 この事案は、市長及び助役が、隣町の選挙戦で釧路市との合併推進派である町長を当選させようと考え、部下(部長ら)を利用して、投票呼びかけ及び投票の取りまとめをさせたというものでした。指示を受けた部長らも、さらにその部下に投票依頼をしているので、市長、副市長のみならず、部長級まで有罪になっています。
 この判決で、裁判所は、地位利用による選挙運動が禁止される理由について次のように述べています。
「合併については、町民による公正な選挙を通じての選択に委ねられるべきものであって、被告人らの行為は、公務員が職務上の影響力を行使して選挙運動をすることを禁止し、選挙の公正と自由を保障しようとしている公職選挙法の理念を省みず、公正な選挙運動を通じて形成されるべき民意を歪めようとしたものであって、被告人らが、民主主義の根幹を揺るがすこのような明白な違法行為にあえて踏み切ったことについては、厳しい非難を免れないというべきである。」

(公民権停止)
 地位利用による選挙運動は政治家にとっては致命的です。有罪となった場合は、公民権停止となるからです。
 地位利用により有罪となった場合は、公民権停止となります(禁錮の場合が公選法11条5号、罰金の場合は252条)。首長は、有罪判決の確定と同時に、自動失職となりますので、政治生命を一定年限断たれることとなります。

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公益通報制度

2021年12月01日 | 地方自治体と法律
(公益通報制度)
 現代では、正当な利益のための内部告発(公益通報)は保護しましょうという考え方になっています。
 この公益通報、従業員が、会社の不正行為を見つけたときは、職場の窓口や監督官庁に通報しても、それを理由に解雇その他不利益な取扱いを受けないということが法律上規定されています(公益通報者保護法)。
 
(伊賀市のケース)
 ところで、最近、市役所職員が通報者の名前を会社に連絡してしまったという報道がありました。
 三重県の伊賀市の職員が、内部告発者(ここではAさんとしておきます)の名前を、同意なく、告発者の会社の社長に伝えてしまったというのです(11月26日付CBCテレビ;Yahoo!ニュース)。
 もう少し具体的にいいますと、2020年11月、Aさんは、市役所に「勤務している会社の指示で市内の土地に産業廃棄を埋めた。」と内部告発(公益通報)をしました。
 市役所が、Aさんの氏名を社長に告げてしまったため、大問題になっています。


(通報者の氏名を話すことは許されない)
 Aさんが市役所に通報したのは、廃棄物が埋められたことを、監督官庁である市役所に通報したということです。
 市役所の担当者が、Aさんの名前を会社の社長に話してしまうのが許されないことは、「地方公務員には守秘義務があり、個人情報保護の義務を負うのだから、担当者のような行為は許されない」という弁護士のコメントからも明かでます。
 Aさんの名前は個人情報であり、それを同意もなく、第三者に提供することは許されないので、この弁護士のコメントは妥当と私も考えます。
 マスコミがこの件を報道したのも、”内部告発するのに、それを社長に話してしまうのはダメだろう”という価値判断をしているからでしょう。

(なぜ今回のようなことが起こるのか)
 このような報道をみると、「自治体の職員の中には、公益通報保護制度のことがよくわかっていない方もいるのだな」と思われるでしょう。実際、研修が行き届かなくて、報道のような事態が生じているのでしょうが、なかなか難しい問題もあります。
 原因は、行政機関としては、必要な調査を行って、法令に基づく措置や適当な措置を取らなければならない義務が生じるからです(公益通報者保護法10条)。
本件に即して考えてみましょう。
 Aさんの通報を受けた市の職員は、調査を行う義務を負います。
 調査義務があるということは、職員は、Aさんの勤務している会社(X会社)に対して、「X会社が産業廃棄物を違法に投棄したと聞いたのですが、本当でしょうか?」と聞かなければならないのです。
 社長は、「一体、そんなことは誰から聞いたのだ。」というでしょう。
 そこで、うっかり「Aさんから聞きました。」と言ってしまったら、これはアウトになりますから、職員としては、「いや、その点については言えません。」と回答することになります。
 社長はそれでは納得しないでしょうから、「そんなことじゃ、回答はできない。誰がそんな話したのか教えてもらわないと」というようなことを言って、調査に協力してもらえないかもしれません。
 それはそれで市の職員としては困りますから、調査をしなければならないという考えに押されて、Aさんの名前をしゃべってしまう・・・ということは、ありえないことではないと思われます。
 しかし、今回の報道でもわかりますように、Aさんの名前は絶対にしゃべってはいけないのです。
 調査をしなければならないという公益通報保護法の規定と、通報者の利益の保護の双方を守らなければならないのは、なかなか大変です。
 市の職員が研修を行うとしたら、調査の実施の仕方という点までしっかりと教え込まないといけないのですが、そこまでのレベルを保つのはなかなか難しいからこそ、本件のようなことが起こるのでしょう。

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