尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「英語教育実施状況調査」、さいたま市の結果をどう見るか

2019年04月21日 22時10分35秒 |  〃 (教育問題一般)
 2019年3月16日に、文部科学省から「平成30年度英語教育実施状況調査」が発表された。毎年この時期に発表されて「中高生の英語力、目標に達せず」と報道されるのが「風物詩」のような感じになっている。直後の18日に、全国学力テストが実施され、中学で初めて英語も実施された。パソコンを使って「話す力」のテストも実施したが、機器の不具合等で実施できなかった学校が502校にのぼった。

 別に英語力の状況調査を行うんだから、苦労して全国でテストする意味があるとは思えない。全国学力テストの結果報道も大体パターン化していて、「応用力に課題」と毎年言われている。得点が高い県もおおよそ固定していて、毎年やる意味がない。英語は初めてだから多少は違うかもしれないけど、同じ中学校なんだから英語だけ違う結果が出るとも思えない。

 近年はずっと英語、英語と学校も企業も言っている。得意な人にはいいかもしれないが、英語が苦手な人には憂鬱が増す。大学入試も激変するが、特に英語に関しては外部テストの導入などを巡って揺れている。もうすぐ実施時期が来てしまうが、一体どうなるんだろう。英語で「4つの力」(読む、書く、話す、聞く)を重視するのはいいけれど、一体公正に判断できるかどうか疑問な能力をどう測定するのか。そもそも英語が話せないと、大学生になってはいけないのだろうか。英語教育の本質論を抜きにして、入学試験の話ばかりしている。

 ところで、先の英語教育実施状況調査に関して、僕にはどうにもよく判らないことがある。この調査では中学3年生で「CEFR A1レベル(英検3級)相当以上を達成している中学生」を調べている。目標は5割だが、実際は42.2%である。毎年漸増しているが、目標に届かない。その中で、「さいたま市」だけが突出して75.6%を達成しているのである。前年度から比べると16.5%も増えている。常識で考えてみると、さいたま市の中学3年生は急に英検3級を持っている生徒が多くなったわけである。

 ところがよく見てみると、少し事情が違う。そもそも先に調査で水準を達成したというのはどういうことか。「英検3級」と明示されているんだから、検定合格かと思うと違っている。教師が「同等程度の力がある」と認定すれば、その生徒を含めていいのである。さいたま市の場合、「取得している生徒数」は35.3%で、同等の英語力を「有すると思われる」生徒数が40.1%なのである。

 他の県や市を見てみると、検定取得生徒数は福井県の53.6%を筆頭に、横浜市の47.6%東京都の35.8%となっている。さいたま市と近い東京とほぼ同様で、横浜はずっと取得生徒数が多い。しかし、横浜では「同等」生徒が8.3%となっている。これは僕の感覚では「同等認定」にふさわしい数値ではないかと思う。一方、さいたま市の「同等4割」は普通に考えて多過ぎないか。

 何でさいたま市の「同等学力」の生徒たちは英検を受検しないのか。経済的な問題なのか。他に部活等の予定があったのか。それにしても部活は夏前で終わって、秋以後の英検は受けられるはず。さいたま市の生徒だけが特に英検を受けられない事情は考えにくい。ちなみに英検3級を調べてみると、受検料4900円となっている。「同等学力証明書」なんてものはないだろう。認定した教員も、進路先への調査書には書いてくれないはず。将来の大学受験を考えれば、生徒の方だって、中学で英検3級に合格して高校に進学したいはずである。

 さいたま市の事例に関して、「小1から中3まで一貫したカリキュラムを設けた」「中学での授業時数を増やした」などが効果を上げたと市教委の担当者が述べている。(朝日新聞、4月17日)しかし、真の問題は「そのような対策を取ってきて、なぜ横浜市と検定合格者率が10ポイント以上も差があるのか」の方だろう。そっちを追求しなければ意味がない。それとも、「同等学力」をどう認定するのか、そのテクニックを公表してほしいと思う。検定合格者よりも、同等学力認定者の方が多いのはおかしいと思うのが、普通の感覚だ。

 僕が思うに、「同等学力」があるなら検定を受ければ合格するはずだが、実際は違うだろうと思う。二軍で活躍しても昇格するとダメな野球選手、稽古場では強いが本場所ではダメな相撲取りみたいなことがある。他流試合には弱いというタイプがいるのである。そして進路活動で使えるのは、検定合格という実績だけだろう。検定合格者数だけで見れば、全国で見てみると23.9%、同等学力生徒18.7%を含めて「4割以上」と発表しているが、実は文科省がこれだけ旗を振リ続けて、合格生徒は4分の1にも達しないのである。そっちの方が、日本の中高生の英語力の真実なのである。
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