波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

音楽スタジオウーソーズ    第13回

2014-09-01 10:15:21 | Weblog
「コーラスタイム」は毎週土曜日の夕方からであった。外処はその日は仕事を早めに切り上げると部下に「今日はデートなんでね、早めに帰らせてもらうよ」と笑わせると事務所を出る。この日は何時になく浮き浮きした気分である。そしてこんな気分になるのは何年ぶりかと不思議になる。家に帰るとシャワーを浴びてさっぱりすると何年も着たこともない派手なポロシャツを出してみる。すべての行動が若返るのが不思議だった。
少し早い時間だと思いながら店に行くともう三々五々と人が集まってテーブルごとに思い思いに飲み物を飲みながら話している。誰も知った人がいない彼は一人でぽつんとしょさいなげに突っ立っていた。時間になるとステージにリーダーの人が立ち「時間になりました。皆さんお集まりください。」と声がかかる。すると助手が楽譜を配り始めた。
「それでは今日はこの曲を練習します。最初は自由に歌ってみてください。」それから
一時間ほどリーダーの指導を受けながら練習を続ける。はじめは恥ずかしい気持ちで声も大きく歌えなかったが、いつの間にか緊張も緩んできて歌に没頭している自分がいた。
「今日はこれぐらいにして終わります。皆さんお疲れ様でした。」と言われてわれに返った様な気になる。そして周りを見てみると大半が中年を過ぎた女性が多かった。
男性は全体の半分以下で少ないのはしょうがないのかなと思いながら、その女性グループを見ているうちに一人の女性に目が留まった。「似ている。」瞬間そう感じた。
死んだ妻の雰囲気をそのまま残している気がした。確かに少し若い気はするし、顔立ちも違うのだが、妻を思わせる雰囲気があった。急にどきどきした感じがして胸がときめいた。暫く忘れていた女性への憧れのようなものだった。
「不思か議だ。こんなに似ている人がいるのか」世の中には自分に似ている人間が3人ぐらいいるものだと聞いたことがあったが、確かにそんな人がいるのかもしれない。
その日は大きな声で歌った事で爽やかな気持ちになれたことと、不思議な女性にあったことで何となく複雑な思いもあった。
そして忘れるともなく忘れて仕事に励んでいた。コーラスは毎週とはいかず月に一度くらいで行っていた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿