波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

          白百合を愛した男   第13回  

2010-08-02 10:02:00 | Weblog
山内家は岡山県の素封家である。高梁市(岡山中西部)から更に西へ60キロほど山へ向かって(500m)ほど登ったところに吹屋という所があるが、そこの古くからの地主であった。吹屋には江戸時代から「吹矢銅山」といわれる鉱山があり、鉱山町として栄え、盛んな頃には1000人以上の人がこの鉱山で働いていたといわれ、山内氏はその鉱山を含めたその町の「米問屋」として、鉱山へ出入りしていた。其処では鉱石としての銅が取れるだけではなく、副産物として「赤色顔料べんがら」が出来ていた。日本では唯一の赤色顔料で貴重品として、現在でも弁柄格子、油性塗料として防錆材としても使われている。山内氏はそのべんがらの大量生産を考え、その工業化を計画したのだった。そして同じ岡山県内でその工場設置の場所を求めて調査を開始、しかし簡単には見つからなかった。
どこの役場へ行って許可を求めても、何分真っ赤になる顔料である。全てに汚染すること、その弊害を恐れ、容易に決めることが出来なかった。しかし、ようやく人家から数キロ離れた川傍にその立地を決めることが出来た。工場の建設が始まった。そして試験操業も始まる頃、いよいよ販売に関する具体的な人探しを始めた。野菜や食品ではない。むしろ誰も知らない、そして汚れるものを売るのは簡単ではない。しっかりした、意志の強い人間でなくてはならない。山内氏は知人を通じて色々と調べているうちに、ある人物を紹介された。
全く縁もゆかりもなかったが、話を聞いているうちにその人物に興味を持った。そしてぜひ会って見たいと思うようになり、連絡をした。
二人の出会いの最初は敦賀のある料亭であった。髭を蓄えた山内氏、そして若くて精悍な美継との出会いは、想像に難くない。しかし、山内氏の第一印象は強烈だった。この人物なら信用できるという思いが、走ったのである。「是非、協力して欲しい。君に東京を中心にした関東の販売の一切の責任を持ってもらいたい。そのための準備に必要なものは揃える。」と約束した。美継はじっとその言葉を噛みしめていた。あまりにも今までの自分の考え、夢とかけ離れた話であり、実感として受け止めるほど理解が出来なかった。
「少し時間をかけて、考えさせてください。」それだけ答えるのがやっとだった。
しかし、山内氏は心中、満足感と、安心があった。この人物なら間違いない。自分の見た人物に確信があった。美継の運命の決まる一瞬でもあった。

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