波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

 オショロコマのように生きた男  第73回

2012-02-18 13:53:47 | Weblog
いつものように笑顔を絶やさない暖かい表情のの池田を見て村田はほっとしていた。自分とは一回りも下であることもあり、ある意味自分自身を見ているような気もしていた。しかし彼のように穏やかさを絶やさず可愛さのようなものを持ち合わせていないことは分かっていた。「いやあ、暫くだね。今年もよろしくというよりは君の方がずっと若いわけだから、これからも長い付き合いをお願いしたいもんだね。」と切り出した。「こちらこそ」と言いながらいつものようにハイボールとカンパリソーダでの乾杯が始まった。「所で野間はどうしているのか、何か聞いているかい」「詳しくは知らないけど何でも横浜のほうで自分で仕事を始めたらしいですよ」とさらりと言った。「そうなのか。一体何が始まったんだろう」まだ村田は怪訝そうな顔である。
そして二人はいつものように暫く業界の話や近況を話し合い別れた。
二人がそんな話をしていた頃、野間は工場で夜遅くまで働いていた。家族を呼び寄せて出来ることを少しづつ教えながら製品を作る準備を整えていたのだ。多田から譲り受けた工場で何とか商売になるものを作ることに懸命だった。
今度こそ自分の仕事であり、ライフワークでもある。その覚悟と決断は大きいものであった。今まで蓄積してきたことがここで
一つの完成を目標に区切りをつけなければならない。その事は今までのような半端な気持ちでは出来ないことを自覚していた。
日中は今までの市場の精査しながら自分のユーザーとして出来るところをチエックしながら予備調査をする。
そのための原料の調達など、しなければならないことが一杯だった。
それを丹念に進めていくために久子も子供たちも真剣だった。そんな生活が宏の力となった。多田は野間との間で話がついたことで安心したのか、それとも寿命だったのかそれから間もなく燃え尽きるように亡くなった。
生前の約束を夫人と取り交わし、全額とは行かなかったが分割で株券を買い取り、名義変更の手続きを済ませた。
D社とは円満とは行かなかったが(あまりにも短期間だったため)温厚な波賀氏の取り計らいもあり、あまり大きな問題にならないで退社することになった。それにしても僅か3ヶ月はあまりにも短かった。
寒い冬の中を宏は熱い思いを抱いて毎日を過ごしていた。そして春を待って仕事は新しくスタートすることになった。

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