波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

         白百合を愛した男    第28回  

2010-09-27 09:44:09 | Weblog
サラリーマンで安い給料で働いている自分をどう見たのだろうか。この店の経営者で財産もある人間と見られたのだろうか。しかし、正直言って荷の重い話ですぐにでも断るべきだと考えていた。切々と話すその人の話を聞いているうちに、自然と同情している自分を見ていた。もう若くない年で、身体を壊しているとすれば気も弱くなっているだろう。子供も自分の言うことを聞かず、自分勝手に生きている。毎週教会へ行き、礼拝を守っている美継には
やはり身勝手な返事をすることは出来なかった。何の当ても無く、紹介も無く、突然飛び込んできたこの人はよくよく困ってのことなのだろう。断るだけなら簡単だが、それでよいのだろうか。「私には鉱業権を買い取る資金も、当てもありません。だからお断りするしかないのですが、お困りのようなので、私の出来ることを考えましょう。私の同業者でこの材料について興味を持っている人が居られるかもしれません。この話を紹介して、聞いてあげましょう。」「よろしくお願いします。」とりあえず、話を預かることにしたが、当てがあるわけではなかった。似たような顔料や、塗料、薬品を扱っている店を当って、話をして
興味を持ってくれたら、その人を紹介してあげようとその程度の軽い気持ちであった。
美継はいつもどおりの営業を続けながら、取引先や知り合いを訪ね、その話を持ちかけてみた。山は福島の吾妻山系の中にあり、火山系の延長にある。坑内掘りではなく、露天掘りの鉱山であるが、その鉱物(黄土)を平地まで下ろしてくる運搬が簡単ではなかった。
途中、木橇のようなもので滑らせ、谷越えはケーブルのようなもので飛ばし、可なり危険を伴うようであった。山から下ろした鉱物はそのまま袋に詰めるわけには行かず、水洗、乾燥、粉砕と加工工程が必要である。そして出荷となる。話を聞いていると簡単なようでもあったが、実際には大変なのだろうと思いながら、自分がするわけではないからと気軽に話を聞き、紹介しながら話をつないでいた。最初は誰かすぐ興味を持ってくれると思い、気軽に考えていたが、そのうち、この話は難しいし、売れないかもしれないと不安を覚えるようになって来た。数日過ぎて、当の野田氏が又やって来た。「どうでしょう。誰か買ってくださる人は見つかったでしょうか。」「いや、なかなか簡単にはいかないようです。山自体には興味を持ってもらえるのですが、実際にこの仕事を継続させることは簡単ではなさそうです。」