きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

気候危機の科学⑤ 地球の運命 100通り計算

2022-03-26 07:11:35 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
気候危機の科学⑤ 地球の運命 100通り計算
「地球温暖化の進行とともに極端な気象現象は増加するが、個別の現象が地球温暖化のせいだとは言いきることはできない」。異常気象について問われた専門家が、判で押したようにこう答える時代が長く続きました。
しかし、“今年の漢字”に「災」が選ばれるなど自然災害が相次いだ2018年、新しい局面を迎えました。

温暖化が原因
同年7月、日本列島は記録的な猛暑に見舞われました。熱中症による死者は1000人を超え、過去最多となりました。
人間活動による温暖化がなかった場合に、このような猛暑が発生する確率はどれくらいか―。日本の研究チームがスーパーコンピューターを使ってはじき出した答えは「ほぼ0%」でした。
「ついに、そういう事象が現れた…」。研究を主導した気象庁気象研究所の今田由紀子主任研究官は、温暖化がなければ起こりえない異常気象をとらえたのは日本で初めてのことだと振り返ります。



今田由紀子さん

今田さんは、スパコン内に再現した仮想地球を使って、数々の偶然で起こりうる“パラレルワールド”をっくり、異常気象と温暖化の関連を調べました。
異常気象は、大気のゆらぎが偶然重なれば発生します。「一つの地球だけみても分からない」と今田さん。温暖化した現実の世界とそうでない世界、それぞれ起こりうる偶然性の幅のなかで100通りもの地球の運命を計算して、異常気象の発生確率の違いを導きました。「イベント・アトリビューション」と呼ばれる新手法です。
その結果、18年のような猛暑が起こる確率は、温暖化した地球では約20%、温暖化していない地球では0・00003%でした。
17年7月九州北部豪雨と18年7月豪雨も、それぞれ発生確率が、温暖化によって約1・5倍、約3・3倍に上がっていたと推定できました。「温暖化すれば“雨のタネ”である水蒸気が増えるのは確実です。ただ本当に雨が降るのかはかなり偶然性に左右され、温暖化の影響は表れにくいと思われていました。解像度を細かくして地形の効果が出せたおかげで、きれいに差がみえて、驚きました」



2018年7月の月平均気温と平年値との差を示した地図(気象庁報道発表資料から)

時代とともに
真鍋淑郎さんの“ひ孫弟子”に当たる今田さん。「時代とともに気候モデルもスパコンも性能が上がり、やっとここまできました。真鍋先生の構想の一端を担えてうれしい」
今後、線状降水帯などの局所的な現象もとらえようと、解像度をさらに上げる取り組みを開始。日本に夏の異常気象をもたらす太平洋高気圧の張り出し方が、温暖化の影響を受けるのかも知りたいといいます。
「イベント・アトリビューションで過去の温暖化を実感するだけでは不十分。この先の異常気象がどうなるのか、近未来を予測したい。難しいのは、将来のデータは検証できないこと。不確実性をどう評価するか…」。挑戦は続きます。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月25日付掲載


温暖化した現実の世界とそうでない世界、それぞれ起こりうる偶然性の幅のなかで100通りもの地球の運命を計算して、異常気象の発生確率の違いを導きました。「イベント・アトリビューション」と呼ばれる新手法。
その結果、18年のような猛暑が起こる確率は、温暖化した地球では約20%、温暖化していない地球では0・00003%。
真鍋淑郎さんの“ひ孫弟子”に当たる今田さん。「時代とともに気候モデルもスパコンも性能が上がり、やっとここまできました。真鍋先生の構想の一端を担えてうれしい」
今後、線状降水帯などの局所的な現象もとらえようと、解像度をさらに上げる取り組みを開始。
地球温暖化は確実に起こっているという実証とともに、局地豪雨の短期予報も実用化へ。
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コロナ禍と資本主義 宅配の闇⑥ 個人事業主は「調整弁」

2022-03-25 06:57:45 | 働く権利・賃金・雇用問題について
コロナ禍と資本主義 宅配の闇⑥ 個人事業主は「調整弁」

トラックドライバーの労働条件が悪化したきっかけは、1990年施行の「物流2法」(貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法)にさかのぼります。
狙いはトラック事業への参入規制と運賃規制の緩和でした。ヤマト運輸や一部の労働組合は、市場が活性化して労働条件が改善するなどとして、歓迎の姿勢を示しました。
日本共産党は当時、雇用の不安定化を招く恐れがあると「物流2法」を批判しました。
実際、法律の施行後、事業者数が急増して過当競争が発生。運賃の決定方法が事実上自由化されたため、物流業務を発注する荷主の価格決定権が強まりました。バブル崩壊に伴う不況で運賃が低下し、トラック運送業者は経営維持のために人件費を削らざるを得なくなりました。ドライバーの労働条件は悪化し、現場は慢性的な人手不足に陥っていました。



首都圏で荷物を配達する宅配ドライバーの男性

法の適用外
そこへ登場したのがインターネット通販です。97年に楽天が設立されて以降、ヤフーショッピングやアマゾンが相次いで参入。荷量の膨張を伴って各社は急成長していきました。労働現場に配送負担を転嫁し続けた結果2017年、ついに「宅配クライシス(危機)」が起きます。便利なネット通販の裏側で、ドライバーが過酷な労働に明け暮れている現実があらわになりました。
ところが、ネット通販大手は労働条件の改善を棚上げにし、物流会社に依存しない自前配送網の強化へ乗り出しました。労働基準法が適用されない個人事業主を使って安上がりな宅配サービスを維持する道を選んだのです。
ヤマト運輸の最大顧客だったアマゾンは、ヤマトへの委託を減らす代わりに、各地の中小物流会社へ配送実務を委託。「デリバリープロバイダ」(デリプロ)と名付け、宅配向けの車両やドライバーの確保などを外注していきました。ほとんどのデリプロは自前で配達車両を手配したりドライバーを雇用したりしません。外部の中小零細業者へ「再委託」し、実配送を個人事業主に丸投げしています。
物流ジャーナリストの刈屋大輔氏は指摘します。
「正社員ドライバーを雇うより、軽トラックの個人事業主に発注する方が、荷物を1個運ぶときのコストがはるかに安くなります。2~3割は違うのではないでしょうか。
ガソリン代や社会保険料は個人事業主の自己負担ですし、荷物が減れば簡単に契約を切れます。アマゾンなどの発注元からすれば、使い勝手の良い労働力です」

負担末端に
アマゾンや楽天はネット上で小売業者と消費者をつなぐ情報技術企業です。「プラットフォーマー」と呼ばれ、ネット通販のルールを決める強大な権力を握っています。宅配事業の委託先もプラットフォーマーの一存で決まります。運送業者はプラットフォーマーの都合に振り回され、そのしわ寄せを受けるのが末端のドライバーたちです。
自社でドライバーや車両を抱えることで発生する固定費を抑えるため、運送会社は1次下請け、2次下請け…への「再委託」を常態化させています。複数の会社が仲介する分、委託料は中抜きされ、ドライバーの収入は数千円単位・で減ってしまいます。
プラットフォーマーを頂点にしたピラミッド型の多重下請け構造の中で、個人事業主のドライバーは、簡単に切り捨てることのできる「安価な調整弁」とされているのです。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月23日付掲載


運賃の決定方法が事実上自由化されたため、物流業務を発注する荷主の価格決定権が強まりました。バブル崩壊に伴う不況で運賃が低下し、トラック運送業者は経営維持のために人件費を削らざるを得なくなりました。ドライバーの労働条件は悪化し、現場は慢性的な人手不足に。
そこへ登場したのがインターネット通販。アマゾンや楽天のネット通販は、外部の中小零細業者へ「再委託」し、実配送を個人事業主に丸投げ。
個人事業主は劣悪な労働条件に。
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気候危機の科学④ “雨を降らせる”のも大変

2022-03-24 07:10:50 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
気候危機の科学④ “雨を降らせる”のも大変
予報官のところに数値予報の計算結果を持って行っても、ほとんど見もされずに、くずかご行きだった時代が長かった…」
気象庁の天気予報業務では、1959年に大型計算機を導入した後も長い間、数値予報は“黒子”だったと、数値予報モデルの開発リーダーを務めた岩崎俊樹さんは振り返ります。「私が開発業務にたずさわり始めた80年ごろも、まだ計算結果のバイアス(偏り)が大きく、例えば、低気圧のスピードは1・5倍に修正しなければなりませんでした」。
他方、数値予報が可能になれば予報官が必要なくなる―そんな誤解も、黒子の時代を長引かせたといいます。

低解像度の壁
台風の進路予測も、80年代初めには実用化には遠い状況でした。
当時は解像度が低く、計算機で台風を十分に表現できなかったのです。そうしたなか、岩崎さんは80年代後半、台風の進路予測モデルを開発。まずは狭い地域を対象にし、2日予報を実用化しました。その後、予報期間を延長するために、全球モデルを利用するようになりました。開発当初は1週間先の台風予測に1週間もかけて計算していましたが、計算機の高速化により、2000年ごろ実用化されました。
解像度が低かった時代には、計算機内の仮想の地球に“雨を降らせる”ことは簡単ではありませんでした。
「100キロメートルや200キロメートルの格子平均で、どうやって雨を表現するのかという話です」と岩崎さん。格子内のどこかで雨が降っていれば、その雨雲の中の湿度は100%になるはずです。ところが、広い格子内を平均してしまうと、雨が降っていない領域も含まれるので100%にはならないというのです。
「言い換えると平均湿度が100%以下でも、雨が降ることがある」。岩崎さんは、この問題では、真鍋淑郎さんが考案したある計算方法が役に立ったといいます。水蒸気から雨粒ができるときに凝結熱が発生し、その熱が鉛直方向にどのように配分されるのか、雨が降るときの対流の働きを計算しました。
「経験も加味した計算手法でしたが、大気現象の本質を表しシンプルで使いやすい。気象庁の気象予測でも長い間、使われました」



全球モデルによる予報例(気象庁ホームページから)


現在、数値予報に使われているスーパーコンピューター「Cray XC50」
=東京都清瀬市の気象衛星センター(気象庁提供)

過去を再解析
その後、コンピューターの発展で、モデルの解像度はどんどん上がり、格子サイズは5キロメートルや20キロメートルに。かなり現実に近い形で雲を表現できるようになりました。
しかし、正確な予測のためには、まだ多くの課題が残されています。格子サイズをさらに小さくして、線状降水帯などの細かい現象を扱うためには、鉛直方向の空気の動きや水蒸気の輸送を正確に計算しなければなりません。とくに気象予測の精度は大気の3次元構造に関する初期条件の精度に大きく依存します。既存の観測システムでは十分にとらえられず、衛星観測やレーダーなど観測システムの高度化を図る必要があります。過去の予報結果と観測データから初期条件を精密に推定する「データ同化」と呼ばれる高度な技術も必要になりました。
岩崎さんは今後、現在の気象予測システムを使って過去の地球大気を再解析し、温暖化の兆候とその影響をしっかりと確認する必要があると話します。
「温暖化研究は、予測の時代から、検証の時代に入りつつあります」
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月23日付掲載


岩崎さんは、この問題では、真鍋淑郎さんが考案したある計算方法が役に立ったといいます。水蒸気から雨粒ができるときに凝結熱が発生し、その熱が鉛直方向にどのように配分されるのか、雨が降るときの対流の働きを計算しました。
「経験も加味した計算手法でしたが、大気現象の本質を表しシンプルで使いやすい。気象庁の気象予測でも長い間、使われました」
正確な予測のためには、まだ多くの課題が残されています。格子サイズをさらに小さくして、線状降水帯などの細かい現象を扱うためには、鉛直方向の空気の動きや水蒸気の輸送を正確に計算しなければなりません。とくに気象予測の精度は大気の3次元構造に関する初期条件の精度に大きく依存します。既存の観測システムでは十分にとらえられず、衛星観測やレーダーなど観測システムの高度化を図る必要が。
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気候危機の科学③ 挫折で始まった数値予報

2022-03-23 07:10:52 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
気候危機の科学③ 挫折で始まった数値予報
真鍋淑郎さんが米国で気候モデルの研究を始めたころ、日本では天気予報に数値予報を取り入れようと格闘が続いていました。
「日本でつくった予報モデルを、米国のコンピューターで半年かけテストしてOKだったのですが、毎日、実際に予報してみたらぜんぜん当たらない…」
気象庁が初めて導入した大型計算機の試験運用が始まった1959年、同庁予報部電子計算室にいた増田善信さんたちは、頭を抱えていました。計算機を使って予想天気図をつくる作業を、4月1日からルーチン(定型業務)にする準備が難航していたのです。
「プログラムにミスはなかったのに、使い物にならない。予報課に持っていくと『こんな物で予報できるか』と言われ、大騒ぎになりましたよ」
結局、当時の長官が大蔵省まで謝りに行って、予報モデルの完成を1年半後に先送りし、その間の数値予報は米国のモデルを使うことで決着。「ホッとしたですよ、そりゃ」

グループ結成
その6年前、戦争中から数値予報のアイデアを温めていた正野重方(しょうの・しげかた)東京大学教授(1911~1969)を中心に有志がグループを結成。そろばんや機械式(手回し)のタイガー計算機の時代、増田さんも、いちはやく超小型のコンピューターを使って台風の進路予報などの研究を進めていました。数値予報のルーチン化は悲願でした。
準備万端だったはずの予報モデルが、なぜうまくいかなかったのか―。増田さんは「米国のテストにもっていった例はすべて低気圧が急速に発達する例だけだったからではないか」と振り返ります。



気象庁が数値予報を開始した当時のコンピューター「IBM704」(気象庁提供)


数値予報が始まった当初の計算機内の高層天気図(1960年2月28日)。観測データを初期値として入力し、時間が進めばどのように変化するのか計算します(気象庁提供)

低気圧が急速に発達することを「傾圧不安定」といいます。当時のモデルは傾圧不安定の予測には好都合でしたが、傾圧不安定はたびたび起こるものではないため、毎日の予報には水蒸気の変化などを正しく入れる必要があったのです。
挫折から1年半後、増田さんたちは苦労の末に、日本独自の予報モデルを完成。自動的に天気図をつくる手法も実現しました。

世界的な足跡
日本の数値予報グループは世界的にも大きな足跡を残しました。
真鍋さんも東大の正野研究室の出身です。増田さんと一緒に日本独自の予報モデルを完成させた荒川昭夫さん(1927~2021)もメンバーで、真鍋さんの地球温暖化研究にも貢献しました。
数値モデルは当初、二つの難題を抱えていました。一つは、数値計算を進めると小さなエラーが積もり積もって、60日ほどで計算が不可能になる問題。もう一つは、積雲や積乱雲の発生に伴う水蒸気や凝結熱の効果をどうやって計算に取り入れるかという問題です。
これらの難題を解決したのが、荒川さんです。それを基礎に、真鍋さんは地球温暖化研究を先に進めたと、増田さんは強調します。
「約100年前に英国の気象学者リチャードソンが初めて試みた数値予報は、複雑な気象現象の多くの効果を計算に取り入れたために、結果的に失敗しました。その後、天気現象にかかわる基本的な効果だけを計算する考え方になって成功しました。しかし最近、単純なもののなかに複雑な現象があり、それをどんどん追加して、現在のような数値予報に発展してきました。まさに、弁証法だと思うのです」
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月22日付掲載


準備万端だったはずの予報モデルが、なぜうまくいかなかったのか―。増田さんは「米国のテストにもっていった例はすべて低気圧が急速に発達する例だけだったからではないか」と振り返ります。
当時のモデルは傾圧不安定の予測には好都合でしたが、傾圧不安定はたびたび起こるものではないため、毎日の予報には水蒸気の変化などを正しく入れる必要が。
挫折から1年半後、増田さんたちは苦労の末に、日本独自の予報モデルを完成。自動的に天気図をつくる手法も実現。
天気現象にかかわる基本的な効果だけを計算する考え方になって成功。最近、単純なもののなかに複雑な現象があり、それをどんどん追加して、現在のような数値予報に発展してきました。まさに、弁証法だ。
1960年当時に、すでに天気図を自動的に描けていたんですね。
僕が中学生時代だから1970年代。地図に気圧をプロットして天気図を描かせる授業がありました。
同じ気圧同士を結ぶのですが、どこに気圧の谷があるか? 低気圧の中心はどこか? で描き方が変わってきます。
学ばされた記憶があります。
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気候危機の科学② 経験から計算の時代へ

2022-03-22 07:21:20 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
気候危機の科学② 経験から計算の時代へ
「計算機がなかった戦前、気象学は“経験の科学”でした。戦争中に弾道計算などに使われた計算機が、戦後は一般の科学に解放され、物理法則に基づいた計算による気象予測が始まりました。もともと軍事目的でつくられた計算機の第一番の民生利用が天気予報でした」
こう話すのは、元日本気象学会理事長の岩崎俊樹・東北大学特任教授です。岩崎さんは1990年代、気象庁で数値予報モデルの開発リーダーを務めました。

真鍋氏も渡米
戦後、多くの日本人気象学者が、計算機を使った研究が盛んな米国に渡りました。真鍋淑郎さんもその一人。米国気象局に招かれ、気候モデルの開発を始めたのは58年でした。
「1~2日の短期的な気象の変化を支配するのは大気の流れであり、主に流体力学で予測します。だから、多くの気象学者は流体力学の計算法を研究しました。真鍋さんがユニークだったのは、地球温暖化に目標を定め、太陽放射や赤外線吸収などに関係した大気の放射収支や熱収支を計算したことです。温室効果の短期予報への影響は小さく、天気予報の研究者はあまり興味をもちませんでした。しかし大気の運動を引き起こす大本は、熱の偏りとそのやりとりです。真鍋さんは“そもそも論”に興味をもったのです」
岩崎さんは、その源流となる考え方が、東北大学の山本義一教授(1909~1980年)が確立した赤外放射伝達の数値解法「山本の大気放射図」にあると指摘します。
この数値解法を計算機のプログラムに組み込んで計算させたのが真鍋さんでした。「真鍋さんは、放射と対流の効果を入れて、こみいった現象を、地球を鉛直1次元で表して計算しました。乱暴と言えば乱暴ですが、当時の計算機で計算できるよう大胆に単純化したのです」
真鍋さんは、水蒸気や二酸化炭素などの放射を大気モデルに導入し、気温の鉛直分布を示すことに成功。67年には、二酸化炭素濃度が倍増すると地上の平均気温が約2・4度上昇することを示しました。
その後、大気と海洋を結合した高度な気候モデルを完成させた真鍋さん。ときどきの計算機の性能の限界のなかで、難題を突破してきた秘密がその研究スタンスにあると、岩崎さんは説明します。



スウェーデン王立科学アカデミーの資料をもとに作成


岩崎俊樹さん

現象を単純化
「真鍋さんは、複雑なものを複雑なまま理解しようとはしない。例えば、陸の土壌がどれだけ水分を含んでいるかをバケツの中の水の深さで表し、一定の深さに達するとあふれさせました。現象を単純化し、気候システムにとって本質的な役割はなにかを考えたのです。そして必要に応じて少しずつ複雑にし現実に近づけていく…」
気象庁の気象予測モデルでも一時期、真鍋さんが考案した降水量の計算法が使われていました。「私たちの世代は、真鍋さんによって開発された計算方法の大きな恩恵にあずかりました」(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月20日付掲載


真鍋さんは、水蒸気や二酸化炭素などの放射を大気モデルに導入し、気温の鉛直分布を示すことに成功。67年には、二酸化炭素濃度が倍増すると地上の平均気温が約2・4度上昇することを示した。
その後、大気と海洋を結合した高度な気候モデルを完成させた真鍋さん。ときどきの計算機の性能の限界のなかで、難題を突破してきた秘密がその研究スタンスにあると、岩崎さんは説明。
気象庁の気象予測モデルでも一時期、真鍋さんが考案した降水量の計算法が使われていました。「私たちの世代は、真鍋さんによって開発された計算方法の大きな恩恵にあずかりました」
いまでは、気象の週間予報は当然の様におこなわれ、かなりの確率であたりますが、地道な積み重ねがあったのですね。
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