コロナ禍と資本主義 宅配の闇⑧ 「個人事業主」は誤分類
ネット通販大手のアマゾンや楽天は個人事業主の宅配ドライバーを活用して配送コストを削減してきました。しかしこれらの宅配ドライバーは本当に個人事業主なのか、という根本問題があります。
保護の動き
誤って「個人事業主」と分類された労働者の過酷な労働が社会問題化する中、世界では分類の誤りを正し、本来.の「労働者」として扱って保護する動きが広がっています。
国際労働機関(ILO)は2006年に「雇用関係勧告」を採択。実態は労働者なのに個人事業主と偽って働かされている人を守るため、労働者である者と労働者でない者を区分する基準を法律で定めることなどを求めています。
米国では労働者を個人事業主と偽って扱う行為を「誤分類」と呼び、税金や社会保険料の負担を逃れようとする企業を厳しく規制しています。
欧州連合(EU)の欧州委員会は21年12月、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」(法案)を公表しました。報酬の水準または上限を決めているなど一定の基準を満たす企業に対し、働き手を個人事業主ではなく雇用された従業員として扱い、最低賃金や有給休暇などを保障することを義務付けようとしています。(表)
(EU・欧州委員会)
他方、日本政府はILOの「雇用関係勧告」採択に賛成したものの、具体的な立法措置をとっていません。それでも、個人事業主とされている宅配ドライバーは「現行の労働基準法に照らしても労働者にあたり得る」と、東京法律事務所の菅俊治弁護士は指摘します。
「一日に配達しなければならない荷量や配達先が伝えられ、不可欠の配達要員として組み込まれている実態があれば、労働者にあたります。実際、宅配ドライバーは与えられた業務量を基本的に拒否できません。就業時間が厳密に決まっていなくても、労働者ではないとする決定的な理由にはなりません」
一方、労働者扱いされることを否定的に考えるドライバーもいます。菅弁護士は「労働法への誤解があるかもしれない」と考えています。
「労働時間を自由に設定したい、空いた時間だけ働きたい、という労働者の要求を労働法は制限していません。労働法が自由な働き方を阻害しているということはないのです。労働法は人間らしい働き方を保障するためにあります。働き方の実態を客観的にみて労働者であれば、賃金の最低保障や長時間労働の規制が及びます」
日本政府や財界は、個人事業主の「誤分類」を正そうとしないばかりか、反対に「雇用によらない働き方」を一層推進してきました。
腰まで積み上げられた商品を荷台に載せ配達に向かうドライバー
立ち遅れる
17年、安倍晋三政権は「働き方改革実行計画」で、個人事業主などフリーランスの拡大を労働力政策の一つに位置づけました。経団連も20年版「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)で、「雇用類似の働き方は、多様な就労ニーズをもった働き手が自由な意思に基づき選択するものであり、過度な規制とならないような配慮が求められる」などとくぎを刺しています。
21年3月に政府が制定した「フリーランス・ガイドライン」は、契約を結ぶ事業者間の公正取引が中心で、個人事業主の「誤分類」の問題には踏み込んでいません。
「分配」を強調する岸田文雄政権の政策も、働き手が全額を負担する「労災保険特別加入」の対象拡大にとどまります。
日本は世界の潮流に大きく立ち遅れているのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月25日付掲載
欧州連合(EU)の欧州委員会は21年12月、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」(法案)を公表。報酬の水準または上限を決めているなど一定の基準を満たす企業に対し、働き手を個人事業主ではなく雇用された従業員として扱い、最低賃金や有給休暇などを保障することを義務付けへ。
「一日に配達しなければならない荷量や配達先が伝えられ、不可欠の配達要員として組み込まれている実態があれば、労働者にあたります。実際、宅配ドライバーは与えられた業務量を基本的に拒否できません。就業時間が厳密に決まっていなくても、労働者ではないとする決定的な理由にはなりません」
「労働時間を自由に設定したい、空いた時間だけ働きたい、という労働者の要求を労働法は制限していません」
そこにつけ込まれて、賃金の最低保障や長時間労働の規制がおざなりに…。
ネット通販大手のアマゾンや楽天は個人事業主の宅配ドライバーを活用して配送コストを削減してきました。しかしこれらの宅配ドライバーは本当に個人事業主なのか、という根本問題があります。
保護の動き
誤って「個人事業主」と分類された労働者の過酷な労働が社会問題化する中、世界では分類の誤りを正し、本来.の「労働者」として扱って保護する動きが広がっています。
国際労働機関(ILO)は2006年に「雇用関係勧告」を採択。実態は労働者なのに個人事業主と偽って働かされている人を守るため、労働者である者と労働者でない者を区分する基準を法律で定めることなどを求めています。
米国では労働者を個人事業主と偽って扱う行為を「誤分類」と呼び、税金や社会保険料の負担を逃れようとする企業を厳しく規制しています。
欧州連合(EU)の欧州委員会は21年12月、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」(法案)を公表しました。報酬の水準または上限を決めているなど一定の基準を満たす企業に対し、働き手を個人事業主ではなく雇用された従業員として扱い、最低賃金や有給休暇などを保障することを義務付けようとしています。(表)
企業が雇用主と認定される基準 (二つ以上一致すれば認定される) |
報酬水準や上限を決定している |
電子的手段で労務を管理している |
顧客との関係づくりや他の業者と働くことを制限している |
服装や仕事の進め方などでルールを設けている |
労働時間を選び休暇を得る自由や、仕事を引き受けるか否かを決める自由を制限している |
他方、日本政府はILOの「雇用関係勧告」採択に賛成したものの、具体的な立法措置をとっていません。それでも、個人事業主とされている宅配ドライバーは「現行の労働基準法に照らしても労働者にあたり得る」と、東京法律事務所の菅俊治弁護士は指摘します。
「一日に配達しなければならない荷量や配達先が伝えられ、不可欠の配達要員として組み込まれている実態があれば、労働者にあたります。実際、宅配ドライバーは与えられた業務量を基本的に拒否できません。就業時間が厳密に決まっていなくても、労働者ではないとする決定的な理由にはなりません」
一方、労働者扱いされることを否定的に考えるドライバーもいます。菅弁護士は「労働法への誤解があるかもしれない」と考えています。
「労働時間を自由に設定したい、空いた時間だけ働きたい、という労働者の要求を労働法は制限していません。労働法が自由な働き方を阻害しているということはないのです。労働法は人間らしい働き方を保障するためにあります。働き方の実態を客観的にみて労働者であれば、賃金の最低保障や長時間労働の規制が及びます」
日本政府や財界は、個人事業主の「誤分類」を正そうとしないばかりか、反対に「雇用によらない働き方」を一層推進してきました。
腰まで積み上げられた商品を荷台に載せ配達に向かうドライバー
立ち遅れる
17年、安倍晋三政権は「働き方改革実行計画」で、個人事業主などフリーランスの拡大を労働力政策の一つに位置づけました。経団連も20年版「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)で、「雇用類似の働き方は、多様な就労ニーズをもった働き手が自由な意思に基づき選択するものであり、過度な規制とならないような配慮が求められる」などとくぎを刺しています。
21年3月に政府が制定した「フリーランス・ガイドライン」は、契約を結ぶ事業者間の公正取引が中心で、個人事業主の「誤分類」の問題には踏み込んでいません。
「分配」を強調する岸田文雄政権の政策も、働き手が全額を負担する「労災保険特別加入」の対象拡大にとどまります。
日本は世界の潮流に大きく立ち遅れているのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月25日付掲載
欧州連合(EU)の欧州委員会は21年12月、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」(法案)を公表。報酬の水準または上限を決めているなど一定の基準を満たす企業に対し、働き手を個人事業主ではなく雇用された従業員として扱い、最低賃金や有給休暇などを保障することを義務付けへ。
「一日に配達しなければならない荷量や配達先が伝えられ、不可欠の配達要員として組み込まれている実態があれば、労働者にあたります。実際、宅配ドライバーは与えられた業務量を基本的に拒否できません。就業時間が厳密に決まっていなくても、労働者ではないとする決定的な理由にはなりません」
「労働時間を自由に設定したい、空いた時間だけ働きたい、という労働者の要求を労働法は制限していません」
そこにつけ込まれて、賃金の最低保障や長時間労働の規制がおざなりに…。