円安時代③ 異次元の自国窮乏化策
「私の話で円は安くなり、株価は上がり続けている」
総選挙を目前に控えて舌戦が熱を帯びた2012年末、「無制限の金融緩和」を掲げる安倍晋三自民党総裁(当時)は、狙いが円安誘導にあることをあけすけに語っていました。
当時、安倍氏の発言を詳報した「朝日」(12年11月20日付)はこう解説しています。「金融緩和をすれば円の金利が下がるので、円は売られやすくなる」。「円高に苦しむ日本の輸出産業が息を吹き返し、景気も良くなるとの見方が株高を誘う」
「輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」(安倍氏)という「異次元金融緩和」の眼目は、円安誘導による輸出大企業支援にあったのです。しかし、アベノミクスで日本の産業が息を吹き返すことはありませんでした。
日本銀行本店=東京都中央区
給与は伸びず
第2次安倍政権が発足した12年12月26日から今年10月26日までの間に、円相場は約73%も下落(1ドル=85円→147円)しています。大企業の利益と株主配当は急増し、内部留保も積みあがりました。
ところが、従業員給与と設備投資は全く伸びず、国内経済の好循環は起きていません(図1)。製造業では日本企業の海外現地法人が増える一方、国内企業数と従業員数は減り続けました。(図2)
大企業が円安で利益を増やす経路は二通りあるからです。
第一は、日本で製造した商品を海外に輸出する経路です。1ドル=100円が1ドル=150円になれば、同じ1ドルで売っても円での受取額は50円増えます。商品を値下げして販売数量を増やせば、国内生産が拡大し、雇用や賃金に波及します。
第二は、海外子会社が製造・販売して得た利益を円換算し、親会社の連結業績に組み込む経路です。円安になれば円換算額が増えるので、親会社の業績が向上します。増えた利益を親会社が配当に回し、株価が上がれば、株主は多大な恩生産は増えず、雇用や賃金にも波及しません。
アベノミクスの下では、主に第二の経路で大企業と株主の利益が膨張したと考えられます。「結局アベノミクスとは、自国窮乏化政策なのです」と中央大学の村上研一教授は指摘します。
空洞化を無視
「安倍自公政権は、製造業が空洞化して産業構造が変容していることを見過ごし、輸出大企業支援という従来型の発想で円安政策を推し進めました。輸出は伸びず、賃金が低迷したまま、輸入物価が高騰しました。さらに、法人税減税と消費税増税、労働法制改悪、社会保障費抑制を通じて大企業のコスト削減を図り、国民の実質所得を低下させました。国民の生活水準低下は、内需産業の縮小と輸出製造業の空洞化をいっそう促進しました」
アベノミクスという名の時代錯誤の輸出大企業支援政策が、異次元の自国窮乏化を招いています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月28日付掲載
第2次安倍政権が発足した12年12月26日から今年10月26日までの間に、円相場は約73%も下落(1ドル=85円→147円)しています。大企業の利益と株主配当は急増し、内部留保も積みあがる。
ところが、従業員給与と設備投資は全く伸びず、国内経済の好循環は起きていません。製造業では日本企業の海外現地法人が増える一方、国内企業数と従業員数は減り続けました。
大企業が円安で利益を増やす経路は二通り。
アベノミクスのもとでは、海外子会社が製造・販売して得た利益を円換算し、親会社の連結業績に組み込む経路。円安になれば円換算額が増えるので、親会社の業績が向上。
「私の話で円は安くなり、株価は上がり続けている」
総選挙を目前に控えて舌戦が熱を帯びた2012年末、「無制限の金融緩和」を掲げる安倍晋三自民党総裁(当時)は、狙いが円安誘導にあることをあけすけに語っていました。
当時、安倍氏の発言を詳報した「朝日」(12年11月20日付)はこう解説しています。「金融緩和をすれば円の金利が下がるので、円は売られやすくなる」。「円高に苦しむ日本の輸出産業が息を吹き返し、景気も良くなるとの見方が株高を誘う」
「輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」(安倍氏)という「異次元金融緩和」の眼目は、円安誘導による輸出大企業支援にあったのです。しかし、アベノミクスで日本の産業が息を吹き返すことはありませんでした。
日本銀行本店=東京都中央区
給与は伸びず
第2次安倍政権が発足した12年12月26日から今年10月26日までの間に、円相場は約73%も下落(1ドル=85円→147円)しています。大企業の利益と株主配当は急増し、内部留保も積みあがりました。
ところが、従業員給与と設備投資は全く伸びず、国内経済の好循環は起きていません(図1)。製造業では日本企業の海外現地法人が増える一方、国内企業数と従業員数は減り続けました。(図2)
大企業が円安で利益を増やす経路は二通りあるからです。
第一は、日本で製造した商品を海外に輸出する経路です。1ドル=100円が1ドル=150円になれば、同じ1ドルで売っても円での受取額は50円増えます。商品を値下げして販売数量を増やせば、国内生産が拡大し、雇用や賃金に波及します。
第二は、海外子会社が製造・販売して得た利益を円換算し、親会社の連結業績に組み込む経路です。円安になれば円換算額が増えるので、親会社の業績が向上します。増えた利益を親会社が配当に回し、株価が上がれば、株主は多大な恩生産は増えず、雇用や賃金にも波及しません。
アベノミクスの下では、主に第二の経路で大企業と株主の利益が膨張したと考えられます。「結局アベノミクスとは、自国窮乏化政策なのです」と中央大学の村上研一教授は指摘します。
空洞化を無視
「安倍自公政権は、製造業が空洞化して産業構造が変容していることを見過ごし、輸出大企業支援という従来型の発想で円安政策を推し進めました。輸出は伸びず、賃金が低迷したまま、輸入物価が高騰しました。さらに、法人税減税と消費税増税、労働法制改悪、社会保障費抑制を通じて大企業のコスト削減を図り、国民の実質所得を低下させました。国民の生活水準低下は、内需産業の縮小と輸出製造業の空洞化をいっそう促進しました」
アベノミクスという名の時代錯誤の輸出大企業支援政策が、異次元の自国窮乏化を招いています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年10月28日付掲載
第2次安倍政権が発足した12年12月26日から今年10月26日までの間に、円相場は約73%も下落(1ドル=85円→147円)しています。大企業の利益と株主配当は急増し、内部留保も積みあがる。
ところが、従業員給与と設備投資は全く伸びず、国内経済の好循環は起きていません。製造業では日本企業の海外現地法人が増える一方、国内企業数と従業員数は減り続けました。
大企業が円安で利益を増やす経路は二通り。
アベノミクスのもとでは、海外子会社が製造・販売して得た利益を円換算し、親会社の連結業績に組み込む経路。円安になれば円換算額が増えるので、親会社の業績が向上。