気候危機の科学① 計算機の中に「仮想地球」
豪雨、台風、熱波、干ばつ、海面上昇など世界が直面する「気候危機」。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の第6次報告書は、人間活動による地球温暖化は「疑う余地がない」と断定しました。
そこに至るまでには、半世紀以上に及ぶ科学者たちの研究の積み重ねがありました。
なかでも計算機(コンピューター)の中に「仮想地球」をつくって、物理の基本法則をもとに大気の状態を計算し、気候変動や気象現象を調べる数値モデル研究が大きく発展。
日々の天気予報から将来の気候予測までが可能になり、現代社会に不可欠なものとなっています。
最初は1次元
その土台を築いたのが、昨年のノーベル物理学賞に輝いた真鍋淑郎(しゅくろう)米プ一リンストン大学上席研究員でした。
1958年に渡米した真鍋さんは、地球を1本の柱に見立てた鉛直1次元の単純なモデルから出発して、温室効果ガスの影響を定量的に示すことに初めて成功しました。「仮想地球」の大気中の二酸化炭素濃度を、300ppm(100万分の1)から150ppmに減らしたり、600ppmに増やしたりしたときに、地面付近の気温がどう変化するかを求めたのです。
計算機内の「仮想地球」のイメージ(気象庁ホームページから)
「仮想地球」を、大気と海洋を結合した、より現実的な3次元のモデルに発展させた真鍋さん。90年に発表されたIPCC第1次報告書の執筆者を務めるなど、地球温暖化予測に貢献しました。
計算機の能力向上とともに、気候や気象の数値モデルは精緻化され、詳細な現象を高精度でとらえられるようになりつつあります。
気象庁の数値予報では現在、地球全体を約20キロメートルの格子で区切って高・低気圧や台風、梅雨前線などを予測する全球モデルや、日本周辺を2キロメートル四方の格子で計算して数時間先の大雨などを予想する局地モデルなどが運用されています。
ただ気候や気象にかかわる現象は、基本的な物理法則が分かっていても、多くの要素が複雑にからみあっています。「仮想地球」を現実に近づけようとして多くの要素を数値モデルに取り入れようとすればするほど、計算量が膨大になるというジレンマがあります。
そうした困難を、真鍋さんら科学者は一つひとつ克服し、現在も格闘を続けています。
真鍋さんから贈られた著書を手にする増田善信さん
今に満足せず
真鍋さんが渡米したころ、気象庁は初の大型計算機を導入し、数値予報を開始する準備を進めていました。その計画にかかわった増田善信(よしのぶ)元気象研究所研究室長(98)は「目標だった10日先の予報がほぼできるようになったことは長足(ちょうそく)の進歩です」と感慨深げです。「だからといって、誰も今の予報に満足していません。科学には『これで終わり』はありません。どんどん発展するものです」
◇
気候や気象という複雑な現象に立ち向かう科学者たちの過去・現在・未来の挑戦を追いました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月19日付掲載
「仮想地球」を、大気と海洋を結合した、より現実的な3次元のモデルに発展させた真鍋さん。90年に発表されたIPCC第1次報告書の執筆者を務めるなど、地球温暖化予測に貢献。
真鍋さんが渡米したころ、気象庁は初の大型計算機を導入し、数値予報を開始する準備を進めていました。その計画にかかわった増田善信(よしのぶ)元気象研究所研究室長(98)は「目標だった10日先の予報がほぼできるようになったことは長足(ちょうそく)の進歩です」と感慨深げ。
気象予報が地球温暖化予測へ発展。
豪雨、台風、熱波、干ばつ、海面上昇など世界が直面する「気候危機」。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の第6次報告書は、人間活動による地球温暖化は「疑う余地がない」と断定しました。
そこに至るまでには、半世紀以上に及ぶ科学者たちの研究の積み重ねがありました。
なかでも計算機(コンピューター)の中に「仮想地球」をつくって、物理の基本法則をもとに大気の状態を計算し、気候変動や気象現象を調べる数値モデル研究が大きく発展。
日々の天気予報から将来の気候予測までが可能になり、現代社会に不可欠なものとなっています。
最初は1次元
その土台を築いたのが、昨年のノーベル物理学賞に輝いた真鍋淑郎(しゅくろう)米プ一リンストン大学上席研究員でした。
1958年に渡米した真鍋さんは、地球を1本の柱に見立てた鉛直1次元の単純なモデルから出発して、温室効果ガスの影響を定量的に示すことに初めて成功しました。「仮想地球」の大気中の二酸化炭素濃度を、300ppm(100万分の1)から150ppmに減らしたり、600ppmに増やしたりしたときに、地面付近の気温がどう変化するかを求めたのです。
計算機内の「仮想地球」のイメージ(気象庁ホームページから)
「仮想地球」を、大気と海洋を結合した、より現実的な3次元のモデルに発展させた真鍋さん。90年に発表されたIPCC第1次報告書の執筆者を務めるなど、地球温暖化予測に貢献しました。
計算機の能力向上とともに、気候や気象の数値モデルは精緻化され、詳細な現象を高精度でとらえられるようになりつつあります。
気象庁の数値予報では現在、地球全体を約20キロメートルの格子で区切って高・低気圧や台風、梅雨前線などを予測する全球モデルや、日本周辺を2キロメートル四方の格子で計算して数時間先の大雨などを予想する局地モデルなどが運用されています。
ただ気候や気象にかかわる現象は、基本的な物理法則が分かっていても、多くの要素が複雑にからみあっています。「仮想地球」を現実に近づけようとして多くの要素を数値モデルに取り入れようとすればするほど、計算量が膨大になるというジレンマがあります。
そうした困難を、真鍋さんら科学者は一つひとつ克服し、現在も格闘を続けています。
真鍋さんから贈られた著書を手にする増田善信さん
今に満足せず
真鍋さんが渡米したころ、気象庁は初の大型計算機を導入し、数値予報を開始する準備を進めていました。その計画にかかわった増田善信(よしのぶ)元気象研究所研究室長(98)は「目標だった10日先の予報がほぼできるようになったことは長足(ちょうそく)の進歩です」と感慨深げです。「だからといって、誰も今の予報に満足していません。科学には『これで終わり』はありません。どんどん発展するものです」
◇
気候や気象という複雑な現象に立ち向かう科学者たちの過去・現在・未来の挑戦を追いました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月19日付掲載
「仮想地球」を、大気と海洋を結合した、より現実的な3次元のモデルに発展させた真鍋さん。90年に発表されたIPCC第1次報告書の執筆者を務めるなど、地球温暖化予測に貢献。
真鍋さんが渡米したころ、気象庁は初の大型計算機を導入し、数値予報を開始する準備を進めていました。その計画にかかわった増田善信(よしのぶ)元気象研究所研究室長(98)は「目標だった10日先の予報がほぼできるようになったことは長足(ちょうそく)の進歩です」と感慨深げ。
気象予報が地球温暖化予測へ発展。