コロナ禍と資本主義 宅配の闇② 楽天が隠す幹部の不正
楽天の「自社配送」網「楽天エクスプレス」が始まったのは2016年11月でした。
当初、東京都内などに限定していた試験運用を本格的に拡大するきっかけとなったのが17年に起きた「宅配クライシス(危機)」です。宅配最大手のヤマト運輸で長時間労働や残業代の不払いが発覚。人手不足で荷物が運べなくなるという危機に直面した物流各社は、労働条件を改善する目的で総量規制や運賃値上げに踏み切りました。
JPと提携
配送サービスの縮小を危惧した楽天は18年、物流拠点と楽天エクスプレスを拡大するため約2千億円を投資すると発表。楽天エクスプレスの人ロカバー率を17年の2%から20年の63・5%へ急拡大させました。
しかし、楽天はその目玉事業を21年5月に突然打ち切ります。
事業を引き継いだのは日本郵便(JP)です。楽天は同年3月に親会社の日本郵政と資本業務提携を結び、7月には物流の合弁会社「JP楽天ロジスティクス」を設立。楽天の荷物を宅配シェア3番手の日本郵便に丸投げする形で「自社配送」網から撤退しました。
提携発表が連日大きく報じられる中、楽天の荷物を配送していた個人事業主ドライバーのたくみさん(28)=仮名=は不安な日々を過ごしていました。車内を埋め尽くしていた荷物が日を追うごとに減少。稼働台数も減車され、出番表には休日が増えていきました。
「これじゃあ食っていけない」。そう言って去っていく仲間を、ただ見送ることしかできませんでした。
月に1度は倉庫を訪れていた楽天の関係者はぱったりと姿を見せなくなりました。楽天側からの正式な通達もないまま、わずか半月前に楽天エクスプレスの終了を知りました。
この頃楽天は、事業の終了を隠しながら、日本郵便への配送業務の移行を着々と進めていたとみられます。
なぜ目玉事業を丸ごとつぶす必要があったのか。なぜ告知が直前になったのか。楽天は理由を説明していません。
実はこの時、ある汚職事件が楽天の内部で渦巻いていました。
内密に調査
本紙は、楽天エクスプレスのトップを務めていた執行役員幹部のA氏が複数の運送会社から不正な金銭を得ていたとの情報を入手。A氏とともに事業を統括していた2人の幹部も不正に関与していました。事業が終わる数カ月前に3人は相次いで楽天を去っています。
取材によると、A氏は楽天から業務委託先に支払われる委託料を過大に見積もり、その一部を妻や自らの個人口座へ送金させていました。いわゆるキックバックです。少なくとも6社の委託先が関与し、数億円規模の金が幹部らの懐に入ったとみられています。
不正に関する内部告発を受けた楽天は21年1月、ひそかに委託先へ聞き取り調査を実施しました。それはちょうど日本郵政との提携発表を2カ月後に控えた時期でした。
「JPとの提携に水を差さないよう、楽天は内部で起きた不正を隠すために幹部ともども楽天エクスプレスをつぶしたとしか思えません」
楽天に切られた委託先の一つ、運送会社「トランプ」の矢作和徳社長(39)はこう指摘します。
本紙の取材に対して楽天はA氏を調査したことを認めました。一方、不正と楽天エクスプレス終了との因果関係については否定。「事業を取り巻く市場環境の変化等を総合的に判断し、楽天エクスプレスのサービス終了および日本郵便様との業務提携を決定しております」などとしています。
しかし、本紙の取材で幹部らの不正に巻き込まれる形で被害が広がっている実態が明らかとなってきました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月16日付掲載
配送サービスの縮小を危惧した楽天は18年、物流拠点と楽天エクスプレスを拡大するため約2千億円を投資すると発表。楽天エクスプレスの人ロカバー率を17年の2%から20年の63・5%へ急拡大。
しかし、楽天はその目玉事業を21年5月に突然打ち切り。
取材によると、A氏は楽天から業務委託先に支払われる委託料を過大に見積もり、その一部を妻や自らの個人口座へ送金。いわゆるキックバック。少なくとも6社の委託先が関与し、数億円規模の金が幹部らの懐に入ったとみられる。
不正は許されることではない。でも、それが実際に配達業務にあたっている個人事業主に被害が及ぶことは、さらに許されない。
楽天の「自社配送」網「楽天エクスプレス」が始まったのは2016年11月でした。
当初、東京都内などに限定していた試験運用を本格的に拡大するきっかけとなったのが17年に起きた「宅配クライシス(危機)」です。宅配最大手のヤマト運輸で長時間労働や残業代の不払いが発覚。人手不足で荷物が運べなくなるという危機に直面した物流各社は、労働条件を改善する目的で総量規制や運賃値上げに踏み切りました。
JPと提携
配送サービスの縮小を危惧した楽天は18年、物流拠点と楽天エクスプレスを拡大するため約2千億円を投資すると発表。楽天エクスプレスの人ロカバー率を17年の2%から20年の63・5%へ急拡大させました。
しかし、楽天はその目玉事業を21年5月に突然打ち切ります。
事業を引き継いだのは日本郵便(JP)です。楽天は同年3月に親会社の日本郵政と資本業務提携を結び、7月には物流の合弁会社「JP楽天ロジスティクス」を設立。楽天の荷物を宅配シェア3番手の日本郵便に丸投げする形で「自社配送」網から撤退しました。
提携発表が連日大きく報じられる中、楽天の荷物を配送していた個人事業主ドライバーのたくみさん(28)=仮名=は不安な日々を過ごしていました。車内を埋め尽くしていた荷物が日を追うごとに減少。稼働台数も減車され、出番表には休日が増えていきました。
「これじゃあ食っていけない」。そう言って去っていく仲間を、ただ見送ることしかできませんでした。
月に1度は倉庫を訪れていた楽天の関係者はぱったりと姿を見せなくなりました。楽天側からの正式な通達もないまま、わずか半月前に楽天エクスプレスの終了を知りました。
この頃楽天は、事業の終了を隠しながら、日本郵便への配送業務の移行を着々と進めていたとみられます。
なぜ目玉事業を丸ごとつぶす必要があったのか。なぜ告知が直前になったのか。楽天は理由を説明していません。
実はこの時、ある汚職事件が楽天の内部で渦巻いていました。
内密に調査
本紙は、楽天エクスプレスのトップを務めていた執行役員幹部のA氏が複数の運送会社から不正な金銭を得ていたとの情報を入手。A氏とともに事業を統括していた2人の幹部も不正に関与していました。事業が終わる数カ月前に3人は相次いで楽天を去っています。
取材によると、A氏は楽天から業務委託先に支払われる委託料を過大に見積もり、その一部を妻や自らの個人口座へ送金させていました。いわゆるキックバックです。少なくとも6社の委託先が関与し、数億円規模の金が幹部らの懐に入ったとみられています。
不正に関する内部告発を受けた楽天は21年1月、ひそかに委託先へ聞き取り調査を実施しました。それはちょうど日本郵政との提携発表を2カ月後に控えた時期でした。
「JPとの提携に水を差さないよう、楽天は内部で起きた不正を隠すために幹部ともども楽天エクスプレスをつぶしたとしか思えません」
楽天に切られた委託先の一つ、運送会社「トランプ」の矢作和徳社長(39)はこう指摘します。
本紙の取材に対して楽天はA氏を調査したことを認めました。一方、不正と楽天エクスプレス終了との因果関係については否定。「事業を取り巻く市場環境の変化等を総合的に判断し、楽天エクスプレスのサービス終了および日本郵便様との業務提携を決定しております」などとしています。
しかし、本紙の取材で幹部らの不正に巻き込まれる形で被害が広がっている実態が明らかとなってきました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月16日付掲載
配送サービスの縮小を危惧した楽天は18年、物流拠点と楽天エクスプレスを拡大するため約2千億円を投資すると発表。楽天エクスプレスの人ロカバー率を17年の2%から20年の63・5%へ急拡大。
しかし、楽天はその目玉事業を21年5月に突然打ち切り。
取材によると、A氏は楽天から業務委託先に支払われる委託料を過大に見積もり、その一部を妻や自らの個人口座へ送金。いわゆるキックバック。少なくとも6社の委託先が関与し、数億円規模の金が幹部らの懐に入ったとみられる。
不正は許されることではない。でも、それが実際に配達業務にあたっている個人事業主に被害が及ぶことは、さらに許されない。