M9級発生確率30% 東通原発 敷地内に活断層
青森県・下北半島に位置する東通(ひがしどおり)原発(東通村)。東北電力が1号機の営業運転を2005年に開始しました。東京電力も1号機の建設工事を今年1月に始め、両電力はそれぞれ2号機の建設を計画中です。東北電1号機は2月から定期検査で停止中ですが、7月にはストレステスト(耐性試験)を実施し、再稼働の準備を進めてきました。しかし今月、津波や活断層の評価をめぐって政府から再検討の指示が出されるなど、再稼働の前提が揺らいでいます。
東北電力東通原発1号機
東日本大震災で東通原発は“あわや”の事態に見舞われました。3月11日の本震で、外部からの電源供給が全3回線とも停止。非常用ディーゼル発電に頼る外部電源喪失が9時間余り続きました。4月7日の余震でも外部電源を喪失。その後、ポンプの故障で非常用ディーゼル発電が停止しました。外部電源が回復した後だったため大事に至りませんでしたが、福島第1原発で起きた全交流電源喪失の一歩手前でした。
東北地方の太平洋側では、日本列島の下に太平洋プレート(岩板)が沈み込むのにともなってひずみが蓄積・解放されることで繰り返し巨大地震が発生しています。3月11日のマグニチュード(M)9・0の東北地方太平洋沖地震は、南北500キロメートル、東西200キロメートルにわたる巨大な領域が動いて起こりました。東通原発は、震源域の北側に連なる三陸沖北部領域に面した位置に立地しています。
三陸沖北部~房総沖の海溝寄り領域では、今回の震源域の北側と南側の領域で、ひずみがほとんど解放されていない所があるとみられ、政府の地震調査研究推進本部は、M9級の地震が今後30年以内に発生する確率を約30%と推定しています。
東北電力が想定している活断層(赤色)=①敷地東方沖断層②恵山沖断層③出戸西方断層④上原子断層⑤折爪断層⑥横浜断層。東北電力は活動性を否定しているが東日本大震災後に再検討の対象とされた断層など(ピンク色)=⑦下北断層⑧御宿山北方断層⑨恐山東山麓のリニアメント⑩月山東方断層⑪野辺地~七戸西方断層⑫一切山東方断層および老部川右岸のリニアメント⑬小田野沢西方のリニアメント⑭大陸棚外縁断層、他のリニアメント。変動地形学の専門家が存在を指摘する活断層=⑮六ケ所断層(政府・電力会社の資料などをもとに作成)
巨大津波の懸念
今回、三陸地方では津波が陸地をはい上がって最大で40メートルを超える高さまで到達したと報告されています。今回の北側領域で同様の地震が発生すれば、下北半島に巨大津波が襲来することが懸念されます。
東北電の原子炉建屋の敷地高さは13メートル。設計時には津波の想定高さを6・5メートル程度としていました。その後、土木学会の計算手法にもとづいて試算し直したところ津波の最高水位は8・8メートルとなり、余裕は設計時より小さくなっています。
一方、北側に隣接する東電の敷地の標高は10メートル。想定した津波の高さは7・5メートルで、敷地南側から津波が遡上(そじょう)し標高11・2メートルに達する可能性があると評価。それにもかかわらず、東電は標高12メートルの防潮堤の設置で大丈夫だとしています。
福島第1原発事故は、電力会社と国が想定してきた地震・津波が過小評価だった問題を浮き彫りにしました。政府は今月、東北電に東通原発の想定津波の再検討を指示。東北電は、十勝沖地震、明治三陸津波だけでなく、これまで想定しなかった十勝沖・根室沖の連動による津波や17世紀に発生した釧路沖の巨大津波を考慮に入れ、これらが連動する場合のM9級の地震による影響を評価し来月報告することになっています。
見逃し明らかに
東通原発の敷地内や周辺の活断層の評価をめぐっても、重大な問題が浮上しています。
渡辺満久・東洋大学教授ら変動地形学の専門家チームは、敷地内に多数の活断層が存在することが確実だとする分析結果を発表。地層が3メートル以上ずれている典型的な活断層の特徴を示す断層があるのに、両電力が活断層と認めてこなかったことや国がその解釈を追認してきたことを批判しています。原子炉直近の活断層が動けば、地震の揺れや地盤がずれることによって、機器が破損したり配管が破断することなどが心配されます。
敷地周辺はどうか。『新編日本の活断層』(東京大学出版会)で活断層とされている、沖合の巨大な「大陸棚外縁断層」や原子炉から数キロメートルの「横浜断層」について、両電力は活断層ではないとしてきました。
横浜断層については08年になって、両電力は追加の地質調査を実施。その結果、長さ15・4キロメートルでM6・8の地震を起こす可能性を認め、活断層を見逃していたことが明らかになりました。周辺には、両電力が活断層と認めていない断層やリニアメント(崖や急斜面が線状に配列している地形)が多数存在していますが、それらも検証が必要です。
大陸棚外縁断層は長さ約84キロメートル。その南側には、専門家が存在を指摘する活断層「六ケ所断層」があります。これらがつながって約100キロメートルの長さとなり、M8級の地震が発生する可能性も指摘されています。これに関して、両電力は、音波探査の結果から大陸棚外縁断層は活断層ではないとして、耐震安全上考慮していません。
しかし、東通原発の敷地内の活断層は、大陸棚外縁断層が活動する際に連動して動く可能性もあるのです。沖合を震源とするM8級の揺れと、敷地内で数メートルの地盤のずれをもたらす断層活動が同時に発生し、原子炉に深刻な被害を与えることが心配されます。
【東北電力東通原発1号機での主な事故・故障】
△原子炉のブレーキにあたる制御棒の位置検出スイッチの動作不良(2005年の試運転時)
△事故や異常事態の収束に重要な役割を果たす「主蒸気隔離弁」が、異物の混入で動作不能に(同05年)
△変圧器火災事故(07年)
△原子炉給水ポンプの配管から水漏れ(07年)
△原子炉を冷却するための「残留熱除去系」の給水系統からの水漏れ(09年)
(中村秀生)(随時掲載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年11月28日付掲載
今回、地震と津波によって壊滅的な被害を受けた三陸沖北部~房総沖で、さらにM9級の地震が今後30年以内に30%の確率で発生する予測があるといいます。
まだまだ、復興道遠しの状態の中でそんなショッキングな予測が発表されると、復興への気持ちもなえそうです。
でも、大事なのはそれへの対応だと思います。
復興の気持ちを逆なでするように、その地域に含まれている今回の記事の東通原発、それに女川原発や福島第2原発などでも再稼働が狙われています。
福島第1原発事故の収束、原因究明も行われていない中、再稼働は絶対に許せません。
青森県・下北半島に位置する東通(ひがしどおり)原発(東通村)。東北電力が1号機の営業運転を2005年に開始しました。東京電力も1号機の建設工事を今年1月に始め、両電力はそれぞれ2号機の建設を計画中です。東北電1号機は2月から定期検査で停止中ですが、7月にはストレステスト(耐性試験)を実施し、再稼働の準備を進めてきました。しかし今月、津波や活断層の評価をめぐって政府から再検討の指示が出されるなど、再稼働の前提が揺らいでいます。
東北電力東通原発1号機
東日本大震災で東通原発は“あわや”の事態に見舞われました。3月11日の本震で、外部からの電源供給が全3回線とも停止。非常用ディーゼル発電に頼る外部電源喪失が9時間余り続きました。4月7日の余震でも外部電源を喪失。その後、ポンプの故障で非常用ディーゼル発電が停止しました。外部電源が回復した後だったため大事に至りませんでしたが、福島第1原発で起きた全交流電源喪失の一歩手前でした。
東北地方の太平洋側では、日本列島の下に太平洋プレート(岩板)が沈み込むのにともなってひずみが蓄積・解放されることで繰り返し巨大地震が発生しています。3月11日のマグニチュード(M)9・0の東北地方太平洋沖地震は、南北500キロメートル、東西200キロメートルにわたる巨大な領域が動いて起こりました。東通原発は、震源域の北側に連なる三陸沖北部領域に面した位置に立地しています。
三陸沖北部~房総沖の海溝寄り領域では、今回の震源域の北側と南側の領域で、ひずみがほとんど解放されていない所があるとみられ、政府の地震調査研究推進本部は、M9級の地震が今後30年以内に発生する確率を約30%と推定しています。
東北電力が想定している活断層(赤色)=①敷地東方沖断層②恵山沖断層③出戸西方断層④上原子断層⑤折爪断層⑥横浜断層。東北電力は活動性を否定しているが東日本大震災後に再検討の対象とされた断層など(ピンク色)=⑦下北断層⑧御宿山北方断層⑨恐山東山麓のリニアメント⑩月山東方断層⑪野辺地~七戸西方断層⑫一切山東方断層および老部川右岸のリニアメント⑬小田野沢西方のリニアメント⑭大陸棚外縁断層、他のリニアメント。変動地形学の専門家が存在を指摘する活断層=⑮六ケ所断層(政府・電力会社の資料などをもとに作成)
巨大津波の懸念
今回、三陸地方では津波が陸地をはい上がって最大で40メートルを超える高さまで到達したと報告されています。今回の北側領域で同様の地震が発生すれば、下北半島に巨大津波が襲来することが懸念されます。
東北電の原子炉建屋の敷地高さは13メートル。設計時には津波の想定高さを6・5メートル程度としていました。その後、土木学会の計算手法にもとづいて試算し直したところ津波の最高水位は8・8メートルとなり、余裕は設計時より小さくなっています。
一方、北側に隣接する東電の敷地の標高は10メートル。想定した津波の高さは7・5メートルで、敷地南側から津波が遡上(そじょう)し標高11・2メートルに達する可能性があると評価。それにもかかわらず、東電は標高12メートルの防潮堤の設置で大丈夫だとしています。
福島第1原発事故は、電力会社と国が想定してきた地震・津波が過小評価だった問題を浮き彫りにしました。政府は今月、東北電に東通原発の想定津波の再検討を指示。東北電は、十勝沖地震、明治三陸津波だけでなく、これまで想定しなかった十勝沖・根室沖の連動による津波や17世紀に発生した釧路沖の巨大津波を考慮に入れ、これらが連動する場合のM9級の地震による影響を評価し来月報告することになっています。
見逃し明らかに
東通原発の敷地内や周辺の活断層の評価をめぐっても、重大な問題が浮上しています。
渡辺満久・東洋大学教授ら変動地形学の専門家チームは、敷地内に多数の活断層が存在することが確実だとする分析結果を発表。地層が3メートル以上ずれている典型的な活断層の特徴を示す断層があるのに、両電力が活断層と認めてこなかったことや国がその解釈を追認してきたことを批判しています。原子炉直近の活断層が動けば、地震の揺れや地盤がずれることによって、機器が破損したり配管が破断することなどが心配されます。
敷地周辺はどうか。『新編日本の活断層』(東京大学出版会)で活断層とされている、沖合の巨大な「大陸棚外縁断層」や原子炉から数キロメートルの「横浜断層」について、両電力は活断層ではないとしてきました。
横浜断層については08年になって、両電力は追加の地質調査を実施。その結果、長さ15・4キロメートルでM6・8の地震を起こす可能性を認め、活断層を見逃していたことが明らかになりました。周辺には、両電力が活断層と認めていない断層やリニアメント(崖や急斜面が線状に配列している地形)が多数存在していますが、それらも検証が必要です。
大陸棚外縁断層は長さ約84キロメートル。その南側には、専門家が存在を指摘する活断層「六ケ所断層」があります。これらがつながって約100キロメートルの長さとなり、M8級の地震が発生する可能性も指摘されています。これに関して、両電力は、音波探査の結果から大陸棚外縁断層は活断層ではないとして、耐震安全上考慮していません。
しかし、東通原発の敷地内の活断層は、大陸棚外縁断層が活動する際に連動して動く可能性もあるのです。沖合を震源とするM8級の揺れと、敷地内で数メートルの地盤のずれをもたらす断層活動が同時に発生し、原子炉に深刻な被害を与えることが心配されます。
【東北電力東通原発1号機での主な事故・故障】
△原子炉のブレーキにあたる制御棒の位置検出スイッチの動作不良(2005年の試運転時)
△事故や異常事態の収束に重要な役割を果たす「主蒸気隔離弁」が、異物の混入で動作不能に(同05年)
△変圧器火災事故(07年)
△原子炉給水ポンプの配管から水漏れ(07年)
△原子炉を冷却するための「残留熱除去系」の給水系統からの水漏れ(09年)
(中村秀生)(随時掲載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2011年11月28日付掲載
今回、地震と津波によって壊滅的な被害を受けた三陸沖北部~房総沖で、さらにM9級の地震が今後30年以内に30%の確率で発生する予測があるといいます。
まだまだ、復興道遠しの状態の中でそんなショッキングな予測が発表されると、復興への気持ちもなえそうです。
でも、大事なのはそれへの対応だと思います。
復興の気持ちを逆なでするように、その地域に含まれている今回の記事の東通原発、それに女川原発や福島第2原発などでも再稼働が狙われています。
福島第1原発事故の収束、原因究明も行われていない中、再稼働は絶対に許せません。