シリーズ ウソのミックス① 国民総所得 水ぶくれの「40兆円奪還」
「数字はうそはつかないがうそつきは数字を使う」といいます。安倍晋三首相は、いくつかの経済指標を合わせ(ミックス)自らの経済政策が「成功」していると宣伝します。シリーズ「ウソのミックス」で、そのごまかしぶりを追います。
安倍晋三首相は「デフレ不況によって、失われた国民総所得、50兆円を私たちは取り戻します。もうすでに40兆円奪還しました」(13日の自民党大会)といいます。「40兆円奪還」とはどういうことなのでしょうか。
第2次安倍政権発足時の2012年10~12月期の国民総所得の名目値は488・2兆円で15年10~12月期は523・9兆円でした。その差は35・7兆円で四捨五入すれば40兆円の増というのは言えないわけではありません。しかしその中身は国民生活の豊かさに直結していません。
自動車輸出日本一の名古屋港の自動車積み出し基地
“増大”に見せる物価上昇と円安
12年末から現在までの間に物価が急上昇しました。物価上昇に最大の影響を及ぼしたのは14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げたことです。国民総所得を物価変動の影響を除いた実質でみると、12年10~12月期は515・7兆円で15年10~12月期は538・3兆円で、22・6兆円しか増えていないのです。
円安も国民総所得の増大に影響しています。国民総所得は日本の国民が1年間(1単位期間)に新たに生み出した財・サービスの付加価値の合計のことをいいます。海外で生み出された付加価値のうち日本の企業や個人が取得したものがすべて入るので、海外の銀行口座に個人が預けた利子や、日本の企業が海外で得た配当などもカウントされます。
国民総所得は国内総生産に海外からの所得(受け取りから支払いを引いた純受け取り)を加えることで算出します。日本の海外との取引のほとんどはドル建てで行われているので、円安になれば円建ての海外所得は大きくなります。
12年10~12月期の海外所得(名目)は15・6兆円で15年10~12月期は25・1兆円で9・5兆円も増えています。しかし同じ期間に為替レートは1ドル=81・2円から1ドル=121・5円へと1・5倍もの円安が進みました。増額した9・5兆円のうち8割以上にあたる7・7兆円が円安効果によるものです。
企業がため込み暮らしに回らず
国民総所得という言葉からは「国民が得た所得を合計したもの」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、国民総所得は個人の所得だけでなく企業のもうけも含まれています。国民総所得の増加分が大企業にため込まれれば、国民に回る分は少なくなります。
財務省の「法人企業統計」によると、資本金10億円以上の大企業は12年10~12月期に259・9兆円持っていた内部留保を、15年10~12月期には300・3兆円まで40・4兆円も増やしています。国民総所得の増加分ほど国民の暮らしに回っているわけではないのです。
(清水渡)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年3月30日付掲載
国民総所得が増えたから、国民の生活が豊かになったかの様に錯覚。
しかも、為替差益などで水ぶくれした所得では実感しないのも当然。
「数字はうそはつかないがうそつきは数字を使う」といいます。安倍晋三首相は、いくつかの経済指標を合わせ(ミックス)自らの経済政策が「成功」していると宣伝します。シリーズ「ウソのミックス」で、そのごまかしぶりを追います。
安倍晋三首相は「デフレ不況によって、失われた国民総所得、50兆円を私たちは取り戻します。もうすでに40兆円奪還しました」(13日の自民党大会)といいます。「40兆円奪還」とはどういうことなのでしょうか。
第2次安倍政権発足時の2012年10~12月期の国民総所得の名目値は488・2兆円で15年10~12月期は523・9兆円でした。その差は35・7兆円で四捨五入すれば40兆円の増というのは言えないわけではありません。しかしその中身は国民生活の豊かさに直結していません。
自動車輸出日本一の名古屋港の自動車積み出し基地
“増大”に見せる物価上昇と円安
12年末から現在までの間に物価が急上昇しました。物価上昇に最大の影響を及ぼしたのは14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げたことです。国民総所得を物価変動の影響を除いた実質でみると、12年10~12月期は515・7兆円で15年10~12月期は538・3兆円で、22・6兆円しか増えていないのです。
円安も国民総所得の増大に影響しています。国民総所得は日本の国民が1年間(1単位期間)に新たに生み出した財・サービスの付加価値の合計のことをいいます。海外で生み出された付加価値のうち日本の企業や個人が取得したものがすべて入るので、海外の銀行口座に個人が預けた利子や、日本の企業が海外で得た配当などもカウントされます。
国民総所得は国内総生産に海外からの所得(受け取りから支払いを引いた純受け取り)を加えることで算出します。日本の海外との取引のほとんどはドル建てで行われているので、円安になれば円建ての海外所得は大きくなります。
12年10~12月期の海外所得(名目)は15・6兆円で15年10~12月期は25・1兆円で9・5兆円も増えています。しかし同じ期間に為替レートは1ドル=81・2円から1ドル=121・5円へと1・5倍もの円安が進みました。増額した9・5兆円のうち8割以上にあたる7・7兆円が円安効果によるものです。
企業がため込み暮らしに回らず
国民総所得という言葉からは「国民が得た所得を合計したもの」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、国民総所得は個人の所得だけでなく企業のもうけも含まれています。国民総所得の増加分が大企業にため込まれれば、国民に回る分は少なくなります。
財務省の「法人企業統計」によると、資本金10億円以上の大企業は12年10~12月期に259・9兆円持っていた内部留保を、15年10~12月期には300・3兆円まで40・4兆円も増やしています。国民総所得の増加分ほど国民の暮らしに回っているわけではないのです。
(清水渡)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年3月30日付掲載
国民総所得が増えたから、国民の生活が豊かになったかの様に錯覚。
しかも、為替差益などで水ぶくれした所得では実感しないのも当然。