【90歳の卒寿記念、大丸ミュージアムで開催中】
和紙人形作家、高木栄子さんが作る作品は昔の懐かしい情景を再現したものが多い。人形は高さが10cm余り。これを「紙わらべ」と呼ぶ。今年8月に90歳を迎えたばかり。「卒寿記念 高木栄子紙わらべ展」が京都市の大丸ミュージアム(大丸京都店)で開催中(22日まで)だが、会場には郷愁と温かさがあふれていた。
この展示会は大丸京都店四条烏丸出店100周年記念事業の一つ。会場入って正面には昭和初期の同店屋上にあった「滑り台」と「鳥かご」をテーマに新しく創作した作品が展示されていた。楽しげな「紙わらべ」たち。小さな小鳥やおにぎりなどは実に精密なミニチュアで、おもわずため息。会場内は子どもたちの四季、手のひらの世界、お祭りの日、遊びの広場、童謡などのコーナーに分かれている。
「紙わらべ」はおかっぱ頭で着物姿のものが多いが、どの顔にも目や口は描かれていない。要するにのっぺら顔なのだが、手や体の動き、顔の角度などで表情が生き生きと伝わってくる。高木さんが本格的に人形づくりを始めたのは約45年前。最初のころは顔を描いたこともあった。だが、見た人が自分の好きな顔を思い浮かべることができるように、と描かないことにしたそうだ。「ただ〝目線〟は見ている相手に合わせるようにしている」という。
高木さんは1922年名古屋生まれ。結婚を機に満州(現中国東北部)に渡ったこともある。4人の兄のうち次兄は戦死、四兄も戦後まもなく亡くなった。幼い頃からきれいな紙を集めては「誰も持っていない私だけの人形」を作り続け、いわば趣味が高じて人形作家になったが、「どの人形にも平和と命の大切さを込めてきた」。(上の作品は「ひなまつり」と「鳩」)
人形だけでなく石に和紙を貼り付ける方法で、猫や犬、鹿、猿などの動物も作っている。河原で丸まった猫そっくりの形の小石を見つけたのがきっかけ。現在、福井県敦賀市在住。そこには敦賀まつり(気比の長祭)という豪華な山車6台が練り歩く祭りがある。会場にはその「長祭」で気比神宮の前に並ぶ山車の様子を再現した大きな作品も展示されていた。山車の上には白馬と武者。その山車を引っ張る法被姿の「紙わらべ」たち。
「七つの子」「春よ来い」「虫のこえ」など童謡をテーマにした作品の数々も「紙わらべ」たちの愛らしい仕草で再現されていた。その中に詩人、金子みすゞの作品が3つ。「ばあやはあれきり話さない、あのおはなしは、好きだったのに。『もうきいたよ』といったとき、ずいぶんさびしい顔してた……」。みすゞの詩「ばあやのお話」では、寂しそうなばあやの顔をのぞき込む2人の女の子で、その場面を見事に表現していた。