【乾燥すると芳香を放つため「香草」「香水蘭」とも】
キク科の多年草。山上憶良が万葉集で秋の七草の一つに挙げたが、フジバカマを詠んだ歌はその1首だけ。そのこともあってか、原産地は中国で奈良時代以前に薬草として日本にやって来たという帰化説がある。その一方で、もともと日本にも分布していた自然野草という自生説もある。日本最古の薬用植物辞典「本草和名」(10世紀初め)には「蘭草、和名布知波加万」と記されている。
藤色の筒状の花を袴に見立てて藤袴の名が付いた。生葉は無臭だが、乾燥してくると桜餅の葉に似た芳香を放つ。クマリンという香り成分によるもので、中国ではフジバカマのことを「香草」や「香水蘭」と呼ぶ。平安時代、女性は干した葉や茎を水に漬けて髪を洗ったという。
古今集にはフジバカマが4首詠まれているが、いずれも香りを詠んだもの。「宿りせし人の形見か藤袴 わすられがたき香に匂いつつ」(紀貫之)、「なに人か来てぬぎかけし藤袴 来る秋ごとに野辺をにほはす」(藤原としゆきの朝臣)。源氏物語30帖「藤袴」の巻名は夕霧が詠んだ歌「同じ野の露にやつるる藤袴 哀れはかけよかことばかりも」にちなむ。
草丈が1m近くになり薄紫の花が風にそよぐ様は秋の風情を漂わせる。立ち姿が同じ時期に白花や薄紫の花を付けるヒヨドリバナ(鵯花)に似ているため、混同されることが多いという。フジバカマはかつて各地の河原などに自生していたが、護岸や造成工事などに伴って野生種は急減、今では環境省のレッドリストに準絶滅危惧種として掲載されている。「熔岩を置く小みちは濡るる藤袴」(杉山岳陽)。
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