く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「老楽国家論 反アベノミクス的生き方のススメ」

2014年03月30日 | BOOK

【浜矩子著、新潮社発行】

 〝アベノミクス〟を標榜する安倍内閣が発足してまもなく1年半。今春闘では円高に伴う業績回復で大手企業の相次ぐベア回答が新聞紙上をにぎわした。これに対し著者は『ビックイシュー』などで「春闘劇場の浮かれ騒ぎに少し泣きたくなってきた」と嘆いた。日本の労働環境はこの10年ほどで様変わり、今や非正規雇用が全体の4割を占める。世論調査でも景気回復を「実感しない」という声がなお大勢を占める。日本全体を「豊かさの中の貧困問題」が黒雲となって覆う。

   

 著者は安倍政権が掲げるスローガン「日本を取り戻す」にまず異を唱える。「今の日本は、世界の背中を目指して頑張っていた時代の日本ではない。過去を『取り戻す』ことにこだわっていればいるほど……未来を展望することが出来なくなる」「不似合な若さへの郷愁に浸るのは大人げない」。そして、今の日本の〝真像〟は「豊かさの中の貧困という問題を抱えた成熟国家」であると指摘する。

 OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の相対的貧困率は先進30カ国の中で4番目に高い(2004年14.9%)。その数値はなお上昇を続けている(2010年16.0%)。著者は「豊かさの中の貧困」問題は「人間の冷たさの産物」とし、これが続くようなら「あまりにも人の痛みに無頓着な精神風土だ」という。

 全5章のうち2つの章を欧米諸国の国家像の分析に当てる。成熟した〝老楽国家〟日本の本来の姿を求めるのが目的。その結果「イギリスの姿はかなりの程度まで、老楽国家の理想像に近い」とし「ドイツの姿からも学ぶべきことは多い」と指摘する。さらにベルギー、スイス、デンマークといった小国にも注目する。「いずれも実に強烈な個性を持ち……したたかに生き抜いている」。

 最後に老楽国家に必要な要素を列挙する。過去を振り切る思い切りの良さ▽現実を直視する勇気▽国境無き時代に生きていることを認識する時代感覚▽小国たちの多様なしたたかさに学ぶ感性……。そして「老楽の域に入りたければ人の痛みを我が痛みとして感じとる感受性が必要」とし「グローバル時代をすいすいと生きる大人の国の姿を、地球的世間にみせてあげて欲しいものだ」と結ぶ。

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