【バラ科、英語では「ジャパニーズ・ローズ」】
枝がしなやかに枝垂れ山の微風に揺れる様から、古くは「山振(やまぶり)」といわれた。これがヤマブキに転訛したらしい。万葉集には17首登場する。「山振の立ちよそひたる山清水 くみに行かめど道の知らなく」(高市皇子が十市皇女の死を悼んで)。吉田兼好は徒然草で「家にありたき木は松・桜……草は山吹・藤・杜若・撫子」とヤマブキを挙げた。バラ科に属しており、英語では「ジャパニーズ・ローズ」と呼ぶ。
ヤマブキの園芸品種には花弁が細く菊に似たキクザキ(菊咲き)ヤマブキや、葉に白い斑(ふ)が入ったフイリヤマブキ、花の色が白みを帯びたシロバナヤマブキなどがある。似た花に岡山など山陽地方に自生するシロヤマブキ(下の写真㊧)があるが、これはヤマブキ属とは別のシロヤマブキ属の植物(1属1種)。花弁が5枚で葉が互生するヤマブキに対し、4枚で葉は対生という違いがある。またヤマブキの山吹色にそっくりな花にヤマブキソウ(写真㊨)がある。こちらはケシ科の多年草で、落葉樹林のやや湿った場所に群落を作る。
「七重八重花は咲けども山吹の 実の1つだになきぞ悲しき」。江戸城を築いた太田道灌の「山吹の里」伝説で有名な古歌(兼明親王作、後拾遺集)である。雨に遭った道灌が農家で蓑(みの)を借りようとしたところ、娘がヤマブキの一枝を差し出した。道灌は怒って帰ってしまうが、後日、家臣からヤマブキの「実の」を「蓑」にかけた平安時代の歌の存在を知らされる。娘は貧しくて蓑一つさえない悲しい思いをヤマブキに託していたのだ。道灌は自らの学のなさを恥じた――。ヤマブキには一重と八重があるが、この歌は実がならない八重のヤマブキを詠んだものとみられている。
ヤマブキの名所として有名なのが京都・嵐山の松尾大社。境内を横切る一ノ井川沿いなどに八重を中心に約3000株のヤマブキが咲き誇る。ちょうど「山吹まつり」を開催中(5月5日まで)で、5月3日には神前芸奉納、庭園のライトアップなどが行われる。京都府井手町の玉川堤も古くから名所として名高く約5000本が咲き乱れる。ヤマブキを市の花・市の木に制定しているのは京都府宇治市、宮城県白石市、埼玉県川越市など。宇治市では興聖寺や恵心院なども山吹の名所として有名。奈良県では中宮寺や般若寺、壷阪寺などが「山吹の寺」として知られる。「山吹の花揺れうごく野仏に」(原科ともゑ)。