く~にゃん雑記帳

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<桔梗(キキョウ)> 凛とした品格 万葉集の「朝顔」=桔梗が通説に

2012年07月11日 | 花の四季

【明智光秀や太田道灌、坂本龍馬の紋所にも】

 「萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝貌(あさがお)の花」。山上憶良が詠んだ秋の七草だが、問題は最後の「朝貌」。万葉集にはこの他にも「朝顔」が数首詠まれている。だが、今の朝顔が中国から渡来したのは時代が下って平安時代になってから。ではこの「あさがお」とは何? 桔梗、槿(むくげ)、昼顔……。いや朝咲く美しい花の総称では……。諸説あるが、最古の漢和辞典「新撰字鏡」(901年ごろ)で桔梗の説明に「阿佐加保(アサカホ)」とあることもあって、今では桔梗説がほぼ通説になっている。

 キキョウ科キキョウ属の一属一種。日本のほか中国、朝鮮半島に自生する。花の色は紫のほか白やピンクなどもあり、二重咲きやつぼみのままの袋咲き、小型の矮性種などの園芸品種も出回っている。だが、野生種は急速に減少し、今では自生地も長野・菅平高原などごくわずか。このため、環境省レッドリストに絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している)として掲載されている。桔梗は韓国で「トラジ」と呼ばれ、ゴボウ状の根はキムチやナムルなどの食材として欠かせない。民謡「トラジ」は「アリラン」と並ぶ朝鮮2大民謡。英名では風船のように膨らむ蕾の形から「バルーンフラワー」と呼ばれる。切り花としてよく花屋の店頭で見かけるトルコギキョウはリンドウ科。

 漢名の桔梗の読み「キチコウ」が転訛して「キキョウ」になったらしい。今でも俳句では「きちこう」と詠まれることも。桔梗には「アリノヒフキ(蟻の火吹き)」という変わった別名もある。一説にアリがかんだ花びらの跡が〝蟻酸〟によって赤く変色するため、こんな呼び名がついたといわれる。丘に生える「トトキ(ツリガネニンジン)」ということで、古くは「オカトトキ」とも呼ばれた。桔梗は切り戻すと二番花も楽しめ、花期が初夏から秋口まで長い。野生種は一般的に開花が遅めで、菅平での身頃は8月中旬から9月にかけて。

 桔梗は戦国時代、紋所や旗印として人気を集めた。桔梗の字が「更に吉(さらによし)」の組み合わせになっていることから縁起がいいという理由もあったようだ。有名なのが「本能寺の変」の明智光秀の「水色桔梗」。他に江戸城を築いた太田道灌は「太田桔梗」、先祖が明智一族につながる坂本龍馬は「組み合い角に桔梗」が家紋になっている。皇居の内桜田門は屋根瓦に太田道灌の桔梗の紋が付いていたため「桔梗門」とも呼ばれる。桔梗は紋章以外にも、古くから衣裳や蒔絵、装身具などの文様として好まれ、襖絵などにもよく描かれた。

 境内に明智光秀の首塚がある京都府亀岡市の谷性寺(こくしょうじ)は「桔梗寺」として知られる。お寺の門前にも5万株の桔梗が植えられ、今年7月1日「亀岡ききょうの里」(~29日)としてオープンした。関西ではこの他、京都の廬山寺や大徳寺芳春院、浄瑠璃寺、東福寺天得院なども「桔梗の寺」として有名。桔梗を「市の花」に指定しているところも多い。福知山、塩尻、土岐、多治見、一宮、掛川、名張、沼田、伊勢原、大野城……。桔梗の人気ぶりがこんなところにも表れている。「きりきりしゃんとしてさく桔梗かな」。小林一茶は桔梗の凛とした美しさをこう褒め称えた。

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