経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

建設的議論とジャーナリズム

2011年04月23日 | 経済
 かたや、財政当局は震災ショックにも緊縮財政を改めないし、他方、国債の日銀引受けを主張するものもいる。極論と極論なんだな。なかなか建設的なものにならない。原発だって、推進派と反対派に妥協の余地なんてないからね。日経ビジネスオンラインでも読めるが、武田徹さんの「賛否の対立が生んだ悲劇」には同感だよ。

 武田さんの論は、両者が折り合って、安全性を高めながら、当面は使っていくというものだ。そして、その調整役を果たすのがジャーナリズムというわけだが、そう言われてもなあ。推進派と反対派いずれかから情報をもらって流すというのが最も楽な処し方で、間に立てるほど知識を持つのは大変だし、持てば持ったで立場は微妙になる。センセーショナルでもなくなってしまう。かなり力量がないとできないことだ。

 昨日の産経の一面トップは「傑作」で、震災で深手を受けた日本経済に増税では、成長低下で国家を潰しかねないとする。ここまでは良いが、他方で、バラマキをやめろと言う。増税も歳出削減も成長には同じくブレーキになるのだがね。現状が前年度補正後より4.3兆円の緊縮だという事実が政府から示されないから、方向感が失われているのだ。そして、法人減税と規制緩和で成長力を高めろと言う。それらに即効性があったら、苦労はせんよ。

 このように、原子力工学と違って、常識でも判断がつくような経済運営についても、ジャーナリズムが示すものは、各種の主張の切り貼りでしかない。調整役を果たせるような見識を求められても無理がある。経済運営の基本は難しいものではなく、「デフレの時には増税や歳出削減はできず、成長や物価がある程度高まったところでする」というだけなのに。

 原子力発電の唯一のメリットは、安いことである。もし、太陽光発電と蓄電のコストダウンが進み、他方、安全対策のために、原子力がコスト高になっていったら、もう必要とされないだろう。ただでさえ、廃炉や放射性廃棄物の最終処理まで含んだライフサイクル・コストで見れば、決して安くないとされてきた原子力である。

 原発の安全性は議論で決着をつけられない性質のものだが、コストは目に見える。指摘を受けていながら、津波の想定を引き上げることができなかったのは、コスト上の余裕がなかったことも背景と考えられる。そして、今回の災害をコストに含めれば、もはや勝負はついた。あとは、どう撤退するかである。撤退も、相当に難しい作戦になる。

 今回の震災は、国の在り方を変えるというような大仰なことにはならないだろう。ただ、「安い」電力は失われた。電気料金の上昇に伴って、ライフスタイルは、ゆっくりだが着実に変わる。家庭用の電力料金の体系は、一定量以上を超えると急上昇するものとなり、太陽光発電+蓄電やガスとのコジェネが普及するだろう。普及によって蓄電池の価格も大きく低下し、電気自動車も普及するに違いない。高コストだが、持続可能なライフスタイルへと、世界の先頭を行くことは確かである。

 また、日本では、低コストにも関わらず、風力発電は貶められていた。出力が安定しないためである。しかし、ピークカットのために、高品質電力が必要な企業は、自家発電なり、蓄電設備を備えなければならなくなり、ある程度、質を落とすことが可能になるだろう。また、風力で夜間に揚水を行って蓄電することには、原子力というライバルがいたが、これが消えた。風力を伸ばすことが、これからはまじめに考えられるだろう。

 ゆっくりとだが、原子力の発電量は減らしていかざるを得ない。それには、代替電力の技術開発が必要になるが、従来、日本の科学技術開発予算の大きな部分は原子力で占められてきた。これをシフトしていくことにもなろう。主要国立大の原子力工学科、既に名前は変わってきているが、これも原子炉研究以外のものへと変わっていこう。

 原子力の未来としては、小型、分散、メンテナンスフリー、そして、ローコストの原子炉が開発できるかどうかだが、道は険しい。やはり、事故が起こると悪化を止め難いという基本的性質と巨大システムの組み合わせは、技術として筋が悪い。スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマと、過酷事故が定期的に起こることを前提にする必要もある。「石棺」や汚染処理装置の事前の用意もいるということだ。

 さて、日本のジャーナリズムに、こうした議論ができるであろうか。正直、言って、見通しは暗い。それでも、今週の日経ビジネス「東電の罪と罰」は頑張っていたね。山川龍雄編集長の「抵抗があったが、あえて取り上げた」という趣旨は理解できたよ。田勢康弘さん風のタイトルにも意味があるのだろう。

 今回の震災で、本当に将来構想が必要なのは、原子力発電だけなのだが、政府の復興構想会議は、これは対象から外すらしい。これでは、ジャーナリズムもやりにくい。財政でも原子力でも、本当に大事な問題は、政府は基礎的情報や数字を示さない。それを抉り出すのは、ジャーナリズムでも難しい。日本は、こういう国なんだよ。

(今日の日経)
 原発保障国が負担も「異常時」。セブンがコメ調達で被災農家を支援。トヨタ正常化11月以降。復興予算綱渡り。本格冷却へ課題多く。岩手銀、公的資金は不要。米景気緩慢コーン前議長、まず償還金の再投資しないことから。被災FCオーナー支援。薄型テレビ販売上昇。新日鉄最終黒字900億円、予想やや下回る。

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