経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

130万円の壁と解雇規制

2010年04月29日 | 社会保障
 市場機能を重視する論者は、とかく、解雇規制を緩めて雇用の流動化を図るべきだとか、雇用形態の自由化を進めてセーフティネットで対応すべきだとか言うことが多い。いつも思うのは、どうして、最もひどい規制である「130万円の壁」を問題にしないのかということである。なぜなら、これを解決することが「雇用を自由にすること」に決定的に重要だと考えるからだ。

 「130万円の壁」は、パートの年収がこれを超えると、いきなり多額の社会保険料がかかってくるという問題である。これがあるために、保険料を払わないよう仕事量を制限したり、フルタイム社員への登用を渋ったりという不合理が生じている。パートで働く人の数からして、これほど影響の大きい「規制」はあるまい。

 では、「130万円の壁」が取り払われた後は、どういう社会に変わるのか。本コラムが提案するように、保険料率が年収に応じて徐々に上がるようにすると、パートからフルタイムへとシームレスに変われるようになる。仕事が少ないときはパート、忙しくなったらフルタイムと柔軟に対応できるわけである。

 こうなると、市場機能重視派が目の敵にする「正社員の解雇規制」の緩和は、実際上は意味がなくなる。なぜなら、解雇しなくても、大幅に勤務時間を短縮することで、コストを削減することができるようになるからである。こうしたワークシェアリングの方が、スキルを持つ働き手を維持する観点から、解雇より合理的なのは明らかだろう。

 逆に言えば、日本の解雇規制が厳しいのは、ワークシェアリングが難しく、解雇という特定の人に不利益が集中する方法しか取れないため、そうした事態を避けるべく、ギリギリまで堪えさせようということなのである。「130万円の壁」と解雇規制には、意外な強い結びつきがある。

 働く側から見れば、仕事が減ってしまえば、労働時間と賃金が減るのは、ある程度、仕方がないにしても、それに伴って、社会保険が国保や国年に切り替わってしまうのは痛い。特に、若い男性や独身女性にとっては、夫の社会保険に入るわけにもいかないので、受け入れ難いものだ。

 もし、「提案」のように改革されれば、社会保険が切り替わる心配はなくなり、年収の減少に伴って、社会保険料の負担は大きく軽減される。不況にあえぐ働く側と企業の双方を助けることになる。雇用に対する規制緩和は、重点対象を間違えているように思う。

(今日の日経)
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