経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

日本は、なぜ少子化に敗れたか

2013年01月06日 | 社会保障
 1971~74年生まれの団塊ジュニア世代は、来年には全員が40歳代になる。少子化を緩和するため、人数の多いこの世代で挽回する好機は失われた。これを逃してはならないと、10年前から言われていたにもかかわらず、なぜ、こんな結果になったのか、その理由は、端的に言うと「戦力の逐次投入」である。

 「戦力の逐次投入」とは、戦力を小出しに投入し、そのたびに撃破されては消耗し、敗北へと至るものだ。元々は軍事用語であり、ダメな戦略の典型とされる。最近では、経営を語る際にも使われている。まあ、それだけ、犯しがちな失敗だと言える。十二分に戦力を用意するにはコストがかかる。これに躊躇して勝ちを捨てるのである。

………
 本コラムでは、少子化を緩和するため、0~2歳の乳幼児に月額8万円を給付することを提案している。大概の人は、この額を聞くだけでギョッとする。現在の児童手当は1.5万円だから、その5倍以上という「常識外れ」の額だからだ。しかし、乳幼児の保育は手がかかり、保育士1人は子供を3人までしか看れない。3人分の給付で保育士を雇えるぐらいの対策をしないと、意味あるものにならないのである。

 裏返せば、仕事を辞めて乳幼児の育児をしている女性は、それだけ大きな社会への貢献をしているとも言える。これに対する世の中の感謝の念は、いかばかりであろうか。結婚しか女性の生きる道がなかった時代の価値観そのままに、犠牲になってもらって当たり前という意識しかないから、「とても子供は持てない」と思わせることになる。

 ここまで話を聞いてもらえれば、8万円が無体でないことは分かってもらえるが、世の中の常識を、ここまで持っていくのは途方もないことである。意識はわずかずつしか変えられないから、改革のつど、5000円くらいずつ積み上げていくしかない。そうやって意識に合わせて改革を進めるうちに、1年に100万人も人口が減る事態がやって来る。

 国家でも、企業でも、基盤を揺るがす問題に対して、まったく認識できなかっり、ぜんぜん対応しなかったりすることはない。失敗は、事態の深刻さに比して、意識の変化が追いつかないときに起きる。少子化は社会に大きな影響が出るまでに長いタイムラグがあり、失敗しやすい条件が揃っているのである。

………
 戦力の逐次投入の背景には、もう一つ、少子化の原因の分かりにくさがある。少子化の指標である合計特殊出生率は、オイルショックがあった1974年以来、ダラダラと下がり続け、そこには「時代の流れ」と言う以上の傾向性が見られない。原因がハッキリしないと、対策に迷いが出るのは避けがたい。

 専門的な話で恐縮だが、出生率の低下は、1人の女性が産む子供の数の低下だけでなく、産む時期の先送りによっても生じる。その要因を取り除くと、出生率は興味深い推移を見せる。1988年から91年にかけて大きく低下し、91年から97年までは安定的になる。その後、97年から2002年まで再び大きく低下し、この年を底に2007年まで若干戻し、そこから横バイとなって現在に至っている。

 この動きをエコノミストが見れば、背景に経済状況があることは、すぐに分かる。バブルと均等法の時代は女性の自立性が高まって出生率が低下、バフル崩壊後、その変化は止まったが、今度は、ハシモトデフレ後の就職氷河期で結婚が困難になり、一段の低下に見舞われる。それが2002年以降の景気回復期にやや戻したものの、それもリーマンショック以降は停滞が続く。こんなストーリーが描ける。

 こうして見ると、1997年に無謀な緊縮財政をして経済を壊さなければ、少子化もここまで深刻にならずに済んだかもしれない。経済の悪化は、財政難を招き、少子化対策という社会保障の充実の妨げになったから、二重に悪影響を与えた。一つの失敗が次の失敗を招き、ますます困難な事態に陥るというのは、よくある話である。

………
 戦力の逐次投入は、結局のところ、認識の問題である。少子化は究極的には絶滅に至る病であり、どこかで必ず止めなければならず、移民だの、人口減への適応といった対症療法で救われないと分かれば、おのずと道は開ける。政策として、どうすれば良いかは、「雪白の翼」に書いたとおりで、特別、難しいことはない。

 日本には「植林の思想」がある。木を植えても恩恵を受けるのは次の世代であって、自己の利益を極大化する観点からは不合理な行為である。しかし、日本人は、祖先の植えた森の恩恵に感謝し、それを後世にも与えようと植林をしてきた。現代に生きる我々も、この社会を持続させるため、同じことをすれば良いだけなのである。

(今日の日経)
 製造業復活へ税優遇。車充電施設4倍に。トヨタは工場新設せず。日本のFTA待てない。予算・税制日程綱渡り。住宅再建を内陸も支援。米長期金利2%に迫る。GSが受刑者プログラムに資金。微生物が電流で代謝。読書・ソーシャルエンジニアリング、ヴェールの政治学。アラブの味を世界に。
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少子化の原因に対する一考 (3355)
2013-01-06 12:27:29
はじめまして。
40歳男性、2人の子持ちです。私は正に団塊ジュニア世代なのですが、20代を1990年代に過ごした当事者として率直に感じたことは、この少子化の責任は一貫してメディアにあると考えています。もちろん景気や財政政策も十分寄与していることは理解しますが、戦後に幾度もあった不景気においてもここまでの出生率の低下を必ず引き起こしていたわけではなく、やはりその時の『空気』によるものではないでしょうか。
当時、バブルが終わり現実社会では不景気に向かって行くことが確実であったにも拘わらず、メディアはまだお祭り気分を忘れられず、雑誌やテレビでは我々よりも上の世代のバブル感覚を引き継がせようとしていました。
ファッションや芸能に影響を受けやすい年齢ですから、女性には華美なブランドの所有を促し、『トレンディドラマ』などという、実態の良く分からないカタカナ職業の登場人物が、都内一等地のお洒落な部屋に住み、お伽噺のような恋愛をすることが理想であるかのように煽り続けていました。当然それを叶えてくれる男性は『3高』でなければならず、同年代の男性は対象外であり、10~20歳上の財力のある、場合によっては既婚の男性が彼女たちの相手をしていたわけです。これにより女性達はお姫様気分を植え付けられ、私達男性は「相当な財力がなければ結婚してはいけない」という間違った認識を持つに至りました。つまり社会はデフレに向かうのに適齢期の女性はインフレで高止まりしたままだったわけです。
そして2000年代になり30代になっても『アラサー』などと、まだ結婚しなくても理想の男性が見つかるまでは独身でいても良いと煽り、更に2010年代になり40代になっても『アラフォー』などと煽りましたが、さすがにここにきて無理があることに気付き、『婚活』という名のダンピングが始まったわけですが、時既に遅しで、おまけに危険な有名人の『高齢出産』を殊更持ち上げて、まだ間に合うような雰囲気を作ろうとしています。(因みに『 』の言葉は我々世代を狙ったメディアが発したものです)
少子化に限らず、今後も似たようなメディアによる誤誘導が横行するでしょうから、何より大事なことは月並みですが、リテラシーを養うことなんでしょう。
長文失礼致しました。
Unknown (Unknown)
2013-01-07 02:08:18
50代会社員です。昔は国民の9割が中流認識で、1億総中流とか言われてました。
小泉構造改革で派遣や職業紹介の規制がザルになって、終身雇用=身分という保障を失った非正規雇用、および正規でも将来を不安視する人たちが増えたことが原因だと思います。将来が不安であれば、お金はできるだけ使わないでしょ。結婚も不安だし、子供の教育費とか自信無いし。となれば気楽に独り身というのは当然の選択です。

子供に対しては教育、社会人に対しては雇用、それが全てだと思うのですが、昔の規制に戻せという政党もマスコミも居ないのが不思議です。昔の規制や強い労組があったから上記の幸せな時代があったと思うのです。
いくら企業にお金をばら撒いても内需は伸びないと思いますよ。せいぜい経営者向けの高級外車が売れるくらい?
まあ、終身雇用=社畜とか、既得権益いかいう言葉も嫌ではありますが。
Unknown (高晋)
2013-01-07 03:35:54
国力の衰退によってしわ寄せが来ている。
そう簡単に転換できない。
人口が下がるところまで減少して、その後増えていくでしょう。
フランスはそれを下がり目でなんとか引き戻したという話を聞きましたが。
Unknown (WATERMAN1996)
2013-01-07 06:41:11
私はどうも、少子化問題が重大な問題であるという認識で政治の場で議論されたと思えないのですが…。
何しろ未だに「貧乏人の子沢山論」が俗論として浸透しており、所得が悪化すれば子供が増えるはずだなどといった話すらされます。
しかしながら世界のどの地域でも、たとえ貧しい層でも子供をたくさん作るより少なく産んで教育を施すという方向に家族計画が変わってきているようです。

経済の不安定さが成婚率を悪化させているという問題や、そもそも自然な形でのカップリングは成立しづらいという問題、つまり、未婚者が増えたのは単にお見合いや職場結婚が減ったからで恋愛結婚は大して増えていないという問題について議論されたのでしょうかね?

ちなみに欧米ではどうかといった話についてはこういうジョークがあります。
問い:船が難破しイギリス人の男女二人が無人島に流れ着いた。彼らはどうしたか。
答え:何もしなかった。なぜなら紹介者がいなかったから。
Unknown (それは)
2013-01-07 10:04:12
世界的には人口が増えている。インドなどは10代での結婚を禁止して、人口増加を抑制しようと中央政府はやっきだ。

日本は出会いがない。
女性が一番美しい年齢は、15歳から20歳ぐらいだ。
それなのに、初婚年齢が29歳前後。
もうこれは、結婚しても子供は一人できればいいほうだ。

私の祖父は農家の長男で18歳と17歳で結婚している。
次男は家督をつげないので、都会に働きにでるなど、
結婚が遅れて、2人しか子供がいないが、
祖父は30歳ぐらいまでに5人の子供を作っている。

昔の農村では、義務教育が終われば、見合いをさせられ、
20歳までに結婚して子供がいるなんて、当たり前だったのに、
現代は、長男も次男もなく、総晩婚未婚なのだから、
人口減るのはあたりまえ。

少し考えればわかることだ。
16歳の女子高生の嫁さんが、制服姿で家で待っていてくれたとしたら、毎日の子作りが楽しみで、家に早く帰るだろう。
これが29歳や30歳の、年老いた妻ならば、
とりあえずキャバやガールズバーなどで、20歳前後の若い女性と飲んでから帰ろうと思うはずだ。

恋愛は、中学や高校でして、20歳には結婚しているぐらいが、本来は正しいのだ。
独身者の大半が、結婚相談所を利用しないのは、
高齢者としか出会えないからだ。
女子高生や女子大生を紹介してもらえるなら、
結婚相談所の利用率も増えるし、出生率も改善するだろう。
記事寄稿の御願いについて (ガジェット通信編集部)
2013-01-07 14:52:15
はじめまして。
ガジェット通信というウェブニュース媒体を運営しております編集部の寄稿チームと申します。
このたび、こちらの記事を大変興味深く読ませていただき、是非弊社媒体に寄稿という形で転載させていただきたくコメントを残させていただいた次第です。

詳細をお伝えしたいので、お手数かとは存じますが
post2012@razil.jp
まで一度ご連絡いただけますでしょうか。
何卒ご検討のほどよろしく御願い申し上げます。
Unknown (Unknown)
2013-01-07 21:19:35
興味深く拝見しました。
戦力の逐次投入による大きすぎる失敗、経済的な側面からの出生率のトレンドの明快な分析、
そして現代の日本人に足りない植林の思想と、
先生のお話に賛同します。

私なりの考えを少し述べさせて下さい。
日本の場合はいわゆる「できちゃった結婚」「授かり婚」を含め
99%が婚姻嫡出子であるので、婚姻率と出生率と分けて議論すべしと人口論で学びました。

婚姻率に関しては、男性の非正規化に大きな要因があるのではないかと考えます
非正規化によって恒常所得の低下を通して消費に影響があったと
一橋の阿部先生のHPにある論文で分析されています。
また適齢期の男性の年収階級別の婚姻率を見ても明らかなように、
現在の所得に加え、将来の所得に対しても悲観的になった結果だと考えられます。
この問題は乳幼児への給付では解決できないように思います。

出生率に関しては、結婚したカップルへのアンケートでは子供は2~3人欲しいとの回答が多いのにも係わらず
結婚を先延ばしし始め、女性は35歳を過ぎると妊娠する確率が若い頃に比べ75%ほどに下がるために
望んでもできない、2人目を望んでもできないと言ったことが挙げられています。
女性の高学歴化や社会進出によるものと考えられますが、
仕事か出産育児かの天秤をなくすことで緩和できるのではと推察されます。
(こちらの議論はよく目にします)

先のコメントでも指摘されていますがメディア等で
負け組は自己責任と追い詰めた結果、結婚といった重責を回避し、
勝ち組ががんばって人口置換水準を維持すればいいのではないか考えるのは当然のことと思います。

何れにせよ第三次ベビーブームはないことが確定したので、
今後は日本民族の緩やかな衰退しかないのではと思われます。
Unknown (Unknown)
2013-01-08 16:53:25
3人の子持ちです。親に金を渡すのは絶対だめです。保育所の無料化や子供2人以上は減税などでないと人間はもらった金は別の目的に使うだけです。子供がいると金がかかって負け組み、という風潮は廃しつつ、少子化対策はばらまきによる無駄遣いというイメージも払拭しないとだめです。子供を持っていない者が少子化政策を考えるのには限界があります。この点においてのみ、はっきりいって無能です。
Unknown (Unknown)
2013-01-08 16:56:49
上記に追加です。
良識のある方々に子供がいると得だ、と思ってもらえないと意味がありません。政策も意味がないです。
Unknown (Unknown)
2013-01-08 23:33:41
東アジアは、みんな少子化がすすんでるけど、
これはなぜだろうか。
年よりを優先する共通の文化のせい?

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