経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

年金不安の正体は「少子化」

2019年11月24日 | 社会保障
 「高齢社会で必要な負担から目をそらすから不安なる」という主張は間違っていないが、若干、キレイごとのようにも聞こえる。団塊ジュニア世代は40歳代に入り、その子世代は7割の人数で親世代を支えなければならないことがほぼ確定した。耐えがたい負担ではないにせよ、重いことは否めない。これが逃れられない現実である。海老原嗣生さんの『年金不安の正体』を眺めつつ、その意味を少し考えてみたい。

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 団塊ジュニア世代は、子世代を3割減にする少子化を起こしてしまった、あるいは、少子化に陥れられてしまった。子供を3人以上持つ人もいるから、子供ゼロの人は半数近くに上る計算になる。原因は、価値観の変化もなしとはしないが、最大は、就職氷河期に直面し、経済的苦境に立ち、結婚がままならなかったことであろう。自己責任と言って切り捨てるには、忍びない事情がある。

 7割の人数で支えると言うと、厳しく感じる人もいると思うが、1世代30年間で、毎年、1%ずつ生産力を高めていけば、経済力は3割増になるから、支えられないほどではない。そうした経済成長は、前世代の貢献もあるので、増えた生産力を支えに充てることは許されよう。もっとも、前世代が経済運営に失敗し、1%未満の成長しか実現できなかったとなると、事態は、なかなか深刻となる。

 また、年金財政に関しては、団塊世代が積立金を残してくれたお陰で、給付の十数%を賄えるため、その分、負担は軽く済む。もし、少子化が次世代の人数を15%減らす程度にとどまっていたら、損だの何だのの世知辛い議論は不要だった。さらに、国庫負担により、保険料での負担は7割に圧縮してあるので、基本的に、払った保険料は給付で戻ってくる形になっている。制度は、そう作られているのだ。

 万一、「国庫負担も次世代による負担だろう」と責められ、15%強の給付削減を強いられた場合でも、より長く働くことで解決する道もある。リタイヤを3年ほど遅らせて、給付期間を短くすれば、月額の維持ができる。団塊ジュニア世代が60歳代後半を迎える25年後は、健康状態の改善もあり、景気さえ良ければ、70歳までの就労は可能と考えられる。楽はできないにせよ、対処できる範囲内にある。

(図)


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 海老原さんが指摘するように、2004年に年金の抜本改革がなされたにもかかわらず、破綻の不安を煽るような醜い論争が長く続いた。その背景には、2000年代前半の就職氷河期を生んだ極端な経済不振と、2005年には出生率が1.26まで落ちるという激しい少子化があった。その後、論争が次第に収束していったのは、今に至る経済の修復によって、就労の容易化と少子化の緩和が進んだことがある。

 高齢社会の対応に負担増は不可欠ではあるが、それが成長を壊してしまっては、かえって社会保障を危うくする。負担の基礎は雇用であって、出生を支えるのも、年金の補完をするのも就労だからだ。負担増を焦るのは禁物であり、景気を失速させ、若者や高齢者の雇用を脅かしてしまえば、社会保障に対する安心が増す以上に、結婚と年金への不安がぶり返すことになりかねない。

 海老原さんは、「子供保険」が潰えたことを嘆いておられるけれど、「企業主導型保育」という別の形で成就している。雇用保険料を引き下げるタイミングで、年金保険料に上乗せして拠出金を徴収し、保育定員を飛躍的に拡大したもので、ある種の「保険」である。次の手としては、雇用保険の積立金を一時的に取り崩し、非正規への育児休業給付を実現することが考えられる。同時に長期的な保険料引上げも決めておけば、財政問題もクリアできる。

 本当は、幼児教育の無償化より、0-2歳児の保育定員増と、保育士の処遇改善による人手確保の方が少子化対策のためには優先課題だったと思うが、「希望の党」への対抗で、選挙前に、急転直下、決まった。負担増は、もう少し精緻な検討が必要だし、社会保障のためと称して、消費増税で景気を悪くし、後手で公共投資などの少子化対策以外のバラまきをするのでは、何のための負担増か分からなくなる。安心には、統合的な戦略が欠かせない。

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 国民が負担増をなかなか受け入れないのは、財政再建を最優先にし、早すぎる緊縮を繰り返したために、成長が高まらず、受け入れる余裕が乏しかったことも理由だ。余裕がないから、徒な改革に幻想を抱いてしまったりもする。需要不足で物価が低迷する昨今は、乳幼児期に的を絞った少子化対策を構築する好機のはずなのに、あとで歳出を絞りやすいというだけで、一時的なバラまきが選ばれる。人口より、成長より、財政に対する不安が優先される。それが不安の根源的な正体である。


(今日までの日経)
 年金 マクロスライド2年連続発動へ。物価の伸び低く 経済停滞を反映。工作機械受注額42%減 10月内需 車・産業機械低迷響く。スーパー売上高4%減 増税前駆け込みの反動 10月。10月の訪日外国人5.5%減、韓国からの訪日客数が大幅減。


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