経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日米地位協定と明治の不平等条約

2017年12月17日 | 経済
 トランプ大統領が来日した際、羽田空港でなく、横田基地に降り立ったことに、ワイドショーの識者は疑問を呈していた。講談社現代新書の矢部宏治著『知ってはいけない』がベストセラーになったことで、朝鮮戦争の準戦時体制を引きずり、日米地位協定が主権の侵害とも言える大きな特権を米国に与えていることが広く知られるようになってきたせいだろう。さらに、伊勢崎賢治・布施祐仁著『主権なき平和国家』によって、国際的に見て不利なことも明らかになってきた。では、どうやって直すのか、奇しくも両著とも、あとがきに不平等条約の例を引いているのだが。

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 明治の日本が幕末に結んだ不平等条約を外交によって解消したのは、近代化の輝ける成功の歴史ではある。その反面、曲折を経て、40年もかかっている。そこから見えてくるのは、対外的な交渉の厳しさと同時に、国内的な結束を保つことの難しさだ。威力をもって反故にする革命外交ではないのだから、解決は双方の合意によらねばならない。そうなると、いかに法外な既得権であれ、手放す者にもメリットがなければ、合意は成立しない。倫理に訴えれば、ただ取りできると考えるのは甘い。そして、問題は、交換に与えるメリットに対して、「妥協を許さない」という国内的な批判が必ず出ることだ。

 「妥協は国辱もの」という在野からの批判は、世論に受けやすく、政府を悩ませることになる。明治の条約改正において、井上馨は、「取らんと欲せば、必ず酬うる所なかるべからず」の方針で臨んだが、領事裁判権の撤廃と引き換えにする外国人判事の採用は、強い批判にさらされ、改正交渉は断念するに至った。また、大隈重信による交渉も、やはり、それが違憲論で紛糾し、批判派のテロによる負傷で頓挫した。結局、不平等条約は、国内の司法制度の整備や日本の国際的地位の向上といった、機が熟するのを待つまで実現できなかったとも言えるのである。

 現在の問題に引き付ければ、沖縄の普天間基地の返還は、県内の代替基地の提供が条件となっており、事故の危険を早く除くために県内移設で妥協すべきか、基地を減らすために代替なしの返還を求め続けるべきか、県内の世論は二分され、そうした苦しい選択を迫る「本土」への恨みも深まっている。沖縄と本土の対立は、米国には既得権への圧力を逸らすのに好都合で、ある種の分割統治なのだが、嘆いてみても始まらない。そうした構図に嵌めようとするのがパワー・ポリティクスの常套手段だと見切らねば、対抗しようもない。

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 『主権なき平和国家』で一つ分かることは、ドイツが基地管理権を取り戻したのも、冷戦の終了後だということだ。それまでの緊迫した軍事情勢では、主権への制約を是正できなかったのは、致し方なかったのかもしれない。他方、日本はどうか。むろん、冷戦終結でソ連の脅威は収まったが、いまや、朝鮮半島は危機の度合いを高めている。とても、米軍の行動を新たに制約するような外交が展開できる状況ではなかろう。とは言え、今から、しておくべきこともある。それは、平和になったときの明確なビジョンを用意することだ。

 もし、朝鮮半島が平和になったとしたら、それが一体、いつになるかは分からないにせよ、未来に希望を抱くのは悪いことではなかろう。その時、米軍基地をどうするのか。まずは、名目的な基地の管理権を譲り受け、次いで、交渉を重ねて利用に関する特権を徐々に返させることになるのではないか。少なくとも、権利は、平和になれば自然に戻ると、安易に思ってはならないだろう。いわば、戦後処理の方策は、戦いが終わる前から用意しておかなければならない。

 顧みれば、1972年の沖縄返還も、ベトナム戦争が終結に向かったという背景なしに考えることはできない。大規模な基地の縮小が実施され、撤退にカネが要るだけでなく、失業者があふれて社会不安にもなりかねなかった。その後始末を日本に押し付けられるというメリットがあればこそ、返還もあり得たのである。加えて、米国は、繊維の通商交渉でも、取れるものを取った。主権を回復するための外交は、かくも厳しい。更に言うなら、キューバのグアンタナモのように、どんなに植民地主義と非難されようとも、実利を失うだけなら、返さないことさえある。

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 ビジネスにおいても、明確なビションを共有し、一つずつ地歩を築いていくのは、基本的な事柄である。行く先で一致していないと、リスクがあるほど、どこまで踏み込むかで路線対立が生じたりする。特に、「アメリカ」相手の手強い交渉は骨が折れる。揺さぶりにも動じないだけの構えは必須だ。外交だと、そこに平和や主権といった理想や正義が絡むのだから、現実路線は一段と困難を極めよう。一歩前進のための妥協に、一致して価値を見出せるのか。しかし、結束して当たらずして、打開の道は拓けまい。


(今日までの日経)
 人民元国際化 立ち往生。児童手当支給絞る。トランプ減税 実現目前。


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