経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

骨太方針は十年一日の同工異曲

2024年06月23日 | 経済
 骨太方針2024が決定され、目玉は「全世代型リ・スキリング」と「半導体等の大規模投資の支援」だ。10年前の2014では、「人材力の充実・発揮」と「イノベーションの促進」だったので、やっていることに大して違いはなく、基礎的財政収支の黒字化を進める方針も同じだ。労働改革と投資促進に財政再建という同工異曲ぶりであり、不甲斐ない十番煎じの戦略であっても、それ以外は考えつかないということだろう。

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 成長を高めるには、輸出で所得を増やし、その所得が内需を拡げ、内需向けの投資が盛んになって、マクロの投資率が上昇する構造改革に至る。1997年以降の日本は、内需が拡がる前に緊縮を始め、投資を阻害するので、改革は失敗続きである。それどころか、消費税を上げるたびに消費の水準と速度を低下させ、とうとう子供を持つという「消費」を諦めさせ、人口崩壊で地球環境に貢献する構造改革を実現した。

 アベノミクスを見れば、円高是正で輸出を伸ばし、設備投資を高めたのに、消費が伸びなかったことが成長低迷の理由と直ぐに分かる。消費が伸びなかったのは、緊縮で可処分所得を抑制したからで、素直に見れば、緊縮が行き過ぎで、そうならないよう調節するのが戦略のポイントだと気づくはずだが、経済学の枠組がきつ過ぎて、普通に見えるものが見えないのである。

 労働問題も、低所得の非正規に、いきなり重い保険料がかかるために、供給が制約されて生産性が上がらないことが最も問題なのに、軽減なんて非常識と見られていて、貧乏人に重い負担を課す無理が、とうとう極端な少子化を招いてしまった。欧米では、負の所得税がとっくに実現しているのに、マネが得意なはずなこの国は、個人の努力による労働移動で貧困は解決できるという古典的思想から一歩も出られない。

 骨太方針は、成長のための戦略というより、無意味な経済思想を発露する場でしかなくなっている。戦いに勝ちたいのなら、現実を受入れ、その上に戦略を立てなければならないのであって、勝つには、これしかないとばかりに思想にしがみつき、同じ戦略で、同じ失敗を繰り返すのでは、骨太方針の真の目的は、勝つことではなく、「ダメなら以て瞑すべし」とばかりに、思想に殉ずることではないかと疑わしめるのである。

(図)


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 この十年の経済戦略で受け入れた教訓は、異次元の金融緩和をしたところで、ロクに成長しないということだけだった。異次元緩和は、米国の金融政策の方向に合わせ、極端なことをすれば、思った方向に為替を動かせるという経験を残したものの、今は極端なことができないために、為替の方向性を変えられず、物価高に苦しんでいる。そもそもは、経済戦略が統制されておらず、日銀任せになっているからで、この点は十年前と変わらない。

 経済戦略も、ここまで来てしまうと、目的をすり替えることで美化するしかないと思う。緊縮を見逃していて、国を衰亡させましたというのでは、間抜け過ぎて格好がつかないので、実は、地球環境を救うために犠牲になったという美しい物語に仕立てるのである。「撤退」ではなく「転進」であり、「敗戦」ではなく「終戦」である。美しい墓碑銘を捻り出すことがこの国に残された最後の課題だ。


(今日までの日経)
 首相「電気・ガス8~10月補助」。増配企業今期4割、過去最高 家計に3.6兆円流入。バングラ、工場ラッシュ。訪日客、3カ月連続300万人 宿泊業 省人化投資・賃上げ急ぐ。都知事選、公約発表 少子化対策競う。揺らぐ「1%まで利上げ」説。

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