経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

未来都市フクシマの重苦しさ

2011年09月11日 | 経済
 震災から半年なのだが、正直、重すぎて筆が進まない。世界経済のことでも書きたいところだ。今週の日経ビジネスは「未来都市フクシマ」。辣腕の山川龍雄編集長によるものだから、面白く出来ているが、底にある残酷さが突き刺さってくる。普通の人には、読み取れないことかもしれないがね。

 フクシマに必要なのは、最高水準の教育研究機関だと、筆者は思う。慶応義塾のような小学校から大学院までの一貫教育のエリート校のイメージだ。そんな誰にも羨まれるようなものを、子供達のために残さなければならない。放射能汚染という重い負債を引き継がせなければならない、せめてもの見返りとして。

 ビジネスも得意なのだが、筆者は、「特区」や「一国二制度」を唱える人を信用しないことにしている。そんなもので地域振興ができるなら苦労はない。特区や二制度の特徴は、規制緩和だけなら、カネがかからないことである。つまり、地域振興にカネを惜しむ者が住民をなだめる道具にしているものなのだ。

 産業立地に少しでも関わった者なら分かると思うが、企業を呼ぶのは容易なことではない。土地を造成し、道路をつなげ、建物まで作ってやり、地方税の減免や補助金まで用意して、ようやく成就するものだ。別にへんぴなところでなく、東北道沿いのところでも、そうなのである。特区や二制度で復興なんて幻想だろう。

 ビジネスが挙げる規制緩和の具体例の植物工場だが、まず、農業関連は基幹産業にはならない。農業のGDP比や食糧の内需の見通しを考えれば、明らかだろう。世界にプラントやノウハウを輸出できるところまで行けば別だが、道は遠い。意欲ある者を支援することは大事にしても、それが復興のメインになるわけではない。

 二つ目の具体例の医療・福祉だが、供給が規制されているのは、医療費などの財政上の制約があるからだ。人員配置の規制は、緩めれば質を低下させるだけになる。福祉は、成長分野で雇用も増えており、基幹産業になり得るものだが、フクシマの医療・介護費は割り増しで国が負担するくらいの覚悟が必要だ。そんな気持ちは、規制緩和論者に微塵もあるまい。

 再生可能エネルギーも、太陽光は高コストなので、全国で負担する仕組みを整えないと、東北地方の電力料金が高くなって、産業立地の競争力か落ちることにもなりかねない。風力の規制緩和は、放射能や津波で人が居なくなったから、低周波騒音の規制関係なしで立地させられるということだろうか。

 筆者は、正攻法で行くべきだと思っている。ビジネスは、御丁寧にも法人税減税を掲げているが、進出企業は当初の黒字は出し難いから、ほとんど意味がない。三次補正で予定される国の立地補助金を集中投下すべきだろう。設備増強にも補助金を出したいところだ。電力も重要であり、優先供給の「特区」だけは必要かもしれない。

 それでも、フクシマの復興は厳しい。現実にはどうなるか。実は、ビジネスは、恐ろしいことをサラリと書いている。「放射能汚染がビジネスになる」である。要は、原発周辺地域は「核廃棄物の処理業」が基幹産業になるということだ。放射能で故郷を汚された人たちは、生活のために核の後始末の危険な仕事に従事することになるのか。なんと残酷な運命なのだ。それは全国の核廃棄物が集まるところまで行き着くかもしれない。

 ビジネスは、項を改めて、フクシマの核のコロナイゼーション(植民地化)を書いている。嫌なもの、危ないものは、フクシマに押し付けられた。フクシマは、生活のために、やむなく原発を選んだのだが、「自ら選んだことだろう」と言われ、「カネは払ったんだから」と返される。そこには苦難を背負ってもらったという、感謝や尊敬の念はない。

 だから、フクシマには、最高水準の教育研究機関が必要なのだ。感謝や尊敬の念を集めるようなものがどうしても要る。山川さんは、辣腕編集長だから、きれいに特集をまとめている。「フクシマは新しい技術と産業を生み出す地として、世界の注目を浴び続けるに違いない」と。しかし、そこから透けて見えるリアルな将来像は、あまりにも重い。

(今日の日経)
 成長導く復興めざせ、震災半年。米同時テロ10年。富士電機、放射線量計を福島で生産。中国輸出、下期は減速も。教訓必ず次代へ・御厨貴。日米欧の財政問題の論点・畑農鋭矢。読書・メタフィジカル・クラブ、危機は循環する、わが外交人生。朝日9/10・被災で就学支援金の申請殺到7万3千人、予算ほぼ払底。

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